ヴァシュロン・コンスタンタン / コニサーたちの選択

FEATURE本誌記事
2020.09.13

デイリーラグジュアリーと位置付けられた、新しい「フィフティーシックス」の発表を経て、コレクションに新たな魅力を加えたヴァシュロン・コンスタンタン。同社のプロダクトを選ぶ愛好家たちは、決してメゾンの名前だけで時計を選んでいるわけではない。卓抜した審美眼を持った、うるさ型の“コニサー”すら納得させる、ヴァシュロン・コンスタンタンの魅力とは何か?さまざまなシーン別に好適と思われるコレクションを軸に、その魅力の一端に触れてみよう。

星 武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
石川英治:スタイリング Styling by Eiji Ishikawa (TABLE ROCK STUDIO)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2019年3月号初出]
フィフティーシックス・コンプリートカレンダー

フィフティーシックス・コンプリートカレンダー
2018年に新規投入された「フィフティーシックス」コレクション。1950年代のニューヨーク・アヴァンギャルドを想起させる独特なアラビックインデックスと、ダイアルセンターに寄せたレイルウェイトラックの配置に、若々しいエネルギーの発露が感じられる。シェブロンを形づくるロングホーンの造形が、デイリーユースに適切なラグジュアリー感を加味。
自動巻き(Cal.2460 QCL/1)。27 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径40.0mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。250万円。


FIFTYSIX

腕時計としては極めてスタンダードなケースフォルムの中にメゾンの記号性を封じ込めたデイリーラグジュアリー

2018年に発表された「フィフティーシックス」は、今後主流となるであろう“新たなスタンダードの在り方”を決定づけた。スポーツでもドレスでもない中庸な立ち位置に、独自の記号性を盛り込むことで“デイリーラグジュアリー”という新境地を切り拓いたのだ。スタンダードな性格を貫くが故に“事務的な造形”に終始してきたデイリーウォッチに、新たに加えられたラグジュアリーという色香。もし1本だけ時計を選ぶなら、フィフティーシックスは実に玄人好みの選択肢となるだろう。

 スポーティエレガンスでもなく、ましてやドレスウォッチでもない。強いて言えば、メゾンのスタンダードとも言うべき立ち位置のモデル群に、大きな変革の兆しが見え始めた2018年。その嚆矢となったのは、ヴァシュロン・コンスタンタンが満を持して発表した「フィフティーシックス」だった。同社が〝デイリーラグジュアリー〞と位置付けるこのニューコレクションは、1950年代風のニューヨーク・アヴァンギャルドを強く感じさせながらも、ブランドを象徴する〝記号性〞まで盛り込んだ意欲作であった。4つのシェブロンの先端部を重ね合わせて、突き出した8本の角を形づくるマルテーゼクロス(マルタ十字)の紋章は、手巻きムーブメントの精度を安定させる〝香箱の巻き止め装置〞に使われていた従動車に酷似していたため、特にジュネーブのメゾンの多くがこの紋章を好んで用いた。ヴァシュロン・コンスタンタンでは50年代の中頃から正式なシグネチャーとして使われ始めるとともに、シェブロン形状のファンシーラグを4つ組み合わせることで、全体としてマルテーゼクロスを意識させるようなケース造形まで生み出している。こうした意匠に対する思考の柔軟さと、ケース造形の芳醇さは、同時代のヴァシュロン・コンスタンタンを象徴する美点だろう。フィフティーシックスでは、ラグ自体をよりスタンダードなロングホーンとすることで、デイリーユースにも馴染みやすいフォルムを形作りながら、ベゼルに設けた4枚のフラップだけで、マルテーゼクロスを強く印象づけてくれる。もしあらゆるシーンを1本の時計でフォローするならば、その最適解となるのがフィフティーシックスだ。


フィフティーシックス・オートマティック

フィフティーシックス・オートマティック
フィフティーシックスのベーシックバージョンとなる3針+デイトモデル。同社にしては珍しいロングホーンに、フラップを設けたベゼルを重ねることで、マルテーゼクロスの一葉をかたどる。搭載ムーブメントは、汎用性を高めた新型自動巻きをベースとするが、他の自社製ムーブメントと同等の基準で、独自の改良と装飾が施されており、ほぼ別モノに仕上げられている。
自動巻き(Cal.1326)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KPG(直径40.0mm、厚さ9.6mm)。3気圧防水。213万円。
フィフティーシックス・デイ/デイト

フィフティーシックス・デイ/デイト
フィフティーシックス4機種(掲載モデルの他、2018年9月に初のコンプリケーションとなるトゥールビヨンがラインナップに加えられている)のうちで、最もスポーティな外観を持つデイ/デイト。並列配置されたインダイアルに、ポインター式の日付、曜日表示を備える。6時位置からややオフセットされた、パワーリザーブインジケーターのバランスも素晴らしい。
自動巻き(Cal.2475 SC/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径40.0mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。355万円。


フィフティーシックス・デイ/デイト

フィフティーシックス・デイ/デイト
同じくデイ/デイトのSSケース。パワーリザーブインジケーターから赤い挿し色を廃したことで、よりクールなカラーマネジメントを成し遂げている。デイ/デイトとコンプリートカレンダーのSSモデルにはダークグレーのアリゲーターストラップとフォールディングバックルが組み合わされ(18KPGはピンバックル仕様)、よりスポーティな印象に仕上げられている。
自動巻き(Cal.2475 SC/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径40.0mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。190万円。
フィフティーシックス・コンプリートカレンダー

フィフティーシックス・コンプリートカレンダー
1940年代頃のヴァシュロン・コンスタンタンが得意とした“実用コンプリケーション”であるコンプリートカレンダー。センター配置のポインターデイトと、月/曜日を示す小窓、そしてムーンフェイズのバランスが素晴らしい。やや古典的な趣きのカレンダー配置に、1950年代風のアヴァンギャルドを掛け合わせるミスマッチ感覚も、自然に馴染んでいる。
自動巻き(Cal.2460 QCL/1)。27 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径40.0mm、厚さ11.6mm)。3気圧防水。391万円。