C.O.S.C.について知っておきたい5つのポイント

FEATUREWatchTime
2020.04.22

スイス公式クロノメーター検定機関のC.O.S.C.(The Contrôle Officiel Suisse des Chronomètre)は、今やスイス時計業界にとって非常に重要なものだ。C.O.S.Cはスイス時計業界において、精度に関するリトマス試験紙のような役割を果たしている。この検定機関は1973年に設立されているが、その前身は1878年にビールに存在していた。しかし当時はどの時計師も個々に所有する計時機を基準とし、一定の基準で時計の品質を認めるということは必要とされていなかった。C.O.S.C.の厳しい検査は、長い時間をかけてスイス製時計の信頼性を世界的なものへと導いてきた。ここでは、C.O.S.C.がもたらした現在のスイス時計産業への側面的な価値も含めて、C.O.S.C.について知っておきたい5つのポイントを伝える。

文字盤に記されたクロノメーター認定取得の表示。
Originally published on watchtime.com
Text by Logan R. Baker


1.「スイス製」の時計のみが対象

C.O.S.C. 公式ロゴ

スイス公式クロノメーター検定機関C.O.S.C.の公式ロゴ。

 C.O.S.C.を取得できるのは、「スイス製」の時計だけである。それを満たすには、ムーブメントがスイス製であること、ケーシングがスイスで行われていること、最終検査がスイスで行われていること、生産コストの最低60%がスイスで発生しているという条件が求められる。それに加えて、ムーブメントには、組み上げと検査がスイスで行われ、生産コストの最低60%がスイスで発生しており、全パーツの50%以上がスイス製であることも必要だ。他国を排除する主な理由は、C.O.S.C.が非営利団体であり、また認定を行うことでスイス時計ブランドとしての地位やムーブメントの信頼性を高めることを目的としているからである。精度だけで言えば日本製やドイツ製の時計の多くがこの規格に合格できるだろうが、これらはおおむね独自の厳格な検査基準を設けている。ただ、スイスだけが自国独自の「公式」検定機関を設けているのだ。


2.7つの検査項目

C.O.S.C.によって公開されている機械式時計に関する厳格な検査項目。表の中の値は厳格な数値であり、いかなる計算上の繰り上げや繰り下げも許容されない。日差-4秒~+6秒以内、2cm以下のムーブメントは-5秒~+8秒以内の基準をクリアした時計のみが合格とされる。

 C.O.S.C.取得を希望する時計は、そのムーブメントがC.O.S.C.検定機関に送られてからすぐに次のようなプロセスで検査が行われる。まず申請者が提供するリストと、ムーブメントに刻印されている情報が合致するかどうかが確認される。続いて5姿勢での検査が行われ、ブランドから提供されたガイドラインに沿って巻き上げられ、23℃に保たれた空間に12時間留め置かれる。そして15日間にわたり、ムーブメントのパーツは毎日検査を受けることになる。クロックも腕時計も連日計測にかけられるのである。この期間を過ぎると、検査を受けた腕時計は以下の7つの基準によって判断される。平均日差、平均日較差、最大日較差、垂直方向と水平方向の姿勢差、最大姿勢偏差、温度変化に伴う値の変化、および、一度静止させたのち再駆動させた際の値の変化である。上で用いた図がその検査項目例だ。ムーブメントがこれらの条件に合格すると、公式に認定表が発行されるのだ。


3.クォーツ腕時計も対象

クォーツ腕時計の検査項目。23℃、8℃、38℃の環境下での日差と、再駆動時に生じる日差、湿度・温度による変化がそれぞれ定められている。

 C.O.S.C.は機械式腕時計だけを対象にしているわけではなく、懐中時計や機内計器、持ち運び用クロック、クォーツ腕時計も検査対象となっている。現在クォーツの振動数を計測する国際的基準は存在しないため、C.O.S.C.は国際規格ISO 3159に基づいて機械式腕時計と同様に測定を行っている。クォーツ腕時計はすべて、C.O.S.C.を取得し高精度クォーツ腕時計(HAQ/High Accuracy Quartzの略)として認められるために、温度変化への耐性が測定される。これはクォーツの特性として、環境状況に従って振動数が変化することがあるからだ。クォーツ腕時計は3つの異なる室温と4つの異なる湿度の下、1姿勢で13日間の検査が行われる。対して機械式腕時計と懐中時計は15日間、機内計器は19日間である。上の表でご覧のように、検査項目は機械式腕時計や懐中時計に比べて少ないが、要求される数値はより厳格である。


4.3つの検定機関

ロンジン レコードコレクション

ロンジンが2017年に発表したレコードコレクションは、全モデルがC.O.S.C.認定を受けている。

 C.O.S.C.はビエンヌ、ル・ロックル、サンティミエの3カ所に検定所を持ち、そこには60名の常勤職員と70人の補助職員が勤務している。3つの検定所は週7日休みなく稼働し、前述したようにガイドラインに則った継続的な検査を行うため年間350日稼働している。C.O.S.C.の認定を受ける時計はここ数十年で増加傾向にある。設立当初はわずか20万本程度の合格だったものが、2000年には約100万本まで増加している。近年では年間約160万本以上の時計がC.O.S.C.の検定に合格しているが、この数字はスイスから輸出される時計全体の6%、そのうち機械式時計は21%程度である。


5.アニュアルレポートを発行

 C.O.S.C.の公式ウェブサイトでは2019年4月現在、2017年までのアニュアルレポートが公開されている。2017年のレポートによれば、C.O.S.C.への検定の提出総数は193万4348本、そのうち合格したのは185万1957本と記述がある。なお、この検査を行った機関ごとの合格数の内訳は、ビエンヌ71万8166本、ル・ロックル59万7254本、サンティミエ53万6537本であり、この他にクォーツ腕時計10万2788本が検定を受けている。



C.O.S.C.認定ムーブメントを搭載したミドー「マルチフォート クロノメーター1」
マルチフォート クロノメーター1
https://www.webchronos.net/news/41351/