時計の賢人、その原点と「上がり時計」/カミネ代表取締役社長、上根亨氏に聞く

FEATURE時計の賢人その原点と上がり時計
2019.06.21
安堂ミキオ:イラスト

 時計業界で活躍するウォッチパーソンの原点となった最初の時計、そして彼らのような時計スペシャリストたちが最後に手に入れたいと願う時計、いわゆる「上がり時計」とは一体何だろうか。
 今回は株式会社カミネ代表取締役社長の上根亨氏に取材を行った。幼少時代から先代の時計店に出入りし、現在では時計業界のキーパーソンとなった上根氏。その答えは、まさに時計とともに歩んできたといえる上根氏の人生を感じるようなものだった。

今回取材した時計の賢人

上根亨

上根 亨 氏
株式会社カミネ/代表取締役社長

神戸市生まれ。1906年に創業した正規時計宝飾専門店カミネの4代目社長。腕時計ブームの草創期に、多数のスイス時計ブランドを早い段階から日本市場で取り扱った人物のひとり。芸術大学出身でアートにも造詣が深い。時計への深い知識と審美眼に基づき、現在は神戸市内で5店舗を展開する。2019年秋には、新たに「リシャール・ミル神戸ブティック」をオープンさせる。

●カミネ 公式サイト http://www.kamine.co.jp/


上根亨氏の原点と「上がり時計」

Q.最初に手にした腕時計について教えてください。

A. 父がくれたセイコー「プレイボーイ」です。私が中学へ上がったころ、先代である父が休みの日の店へ私を呼び、「そろそろ時計がいる年齢だろう」とショーケースの端の方に並んだ時計の中から選ばせてくれた1本でした。確か八角形のスティールケースで、黒文字盤の5時位置あたりにウサギのマークが付いていたはずです。落ち着いたデザインを気に入って、特別な日にはいつも巻いて出掛けました。現在の建物に建て替わる前の店舗での、父との思い出です。

 自分で購入した最初の時計は、大学生の頃にアルバイト代を貯めて買ったロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」でした。後にバイクが欲しくなってこの時計を手放してしまったことを長年後悔しています。この教訓から、思い入れがある時計は手放してはいけないものだとよく人に話しています。

1016 ロレックス

上根氏が自身で初めて購入した腕時計はロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」の3rdモデル、Ref.1016。


Q.人生最後に手に入れたい腕時計、いわゆる「上がり時計」について教えてください。

A. 顔の見える時計師に、オーダーメイドの時計をお願いしたいですね。信頼する彼らの技術や知識が注がれて、後世まで伝えられる時計になればと願います。これまでお客様からはさまざまなブランドへのワンオフのご注文を承ってきましたし、カミネ創業100周年ではフィリップ・デュフォー氏に記念モデルをお願いしたりもしましたが、いつかは私自身のパーソナライゼーションを含む時計も作りたいです。例えば、私の生まれた年に製造された時計から針や文字盤を外してパーツに用いたものや、もしくは愛する神戸の風景が描かれたクロワゾネの時計なども良いかもしれません。腕時計でも、置き時計でもどちらでもいい。もしそれが実現して、娘たちやその後の世代まで大切にされるものとなるならば、大変うれしいことですね。

上根氏自らが過去に描き起こした時計のデッサン。顧客の要望などを聞き取り、デッサンにまとめながら具体的にブランドとの橋渡しを行うことも多くあったという。自身の「上がり時計」の構想も、これから描かれていくのだろう。


あとがき

 港町・神戸の中心地にカミネは建つ。かつて神戸で暮らした筆者にとってカミネは長らく憧れの場所だった。上京後しばらくぶりに訪れた店内のまばゆさは記憶と変わらず、背筋が伸ばされ、力が与えられるものだった。
 2019年で創業113年を迎えた老舗カミネは、これまで戦争や震災など、何度も大きな歴史の渦に巻き込まれてきた。立ち上がるたびに灯されたきらびやかな明かりに、当時の街の人たちも励まされてきたことだろう。
 今回の取材中、上根氏が「時計店は地元の声を聞き取ることこそ大切だ」と話されたことが印象的だった。老舗時計店とは街を照らす存在であり、地域を映す鏡でもあったのだと再認識した。