伝統を革新するブレゲ2世紀半の到達点 ブレゲをブレゲたらしめるウォッチメイキング

FEATURE本誌記事
2019.12.03

「現状維持では、後退するばかり」―― かのウォルト・ディズニーが残した、広く世に知られる名言だが、2世紀以上も前に当時の時計製造に劇的な変革をもたらしたアブラアン-ルイ・ブレゲも同じ考えの持ち主だったに違いない。ブレゲ・マニュファクチュールに受け継がれるウォッチメイキングのサヴォアフェールは、革新なしには真の伝統もありえないことを見事に物語っている。

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
菅原 茂:文 Text by Shigeru Sugawara
PR:Breguet

SILICON TECHNOLOGY

2006年、ブレゲはシリコン素材から作られたアンクル、ガンギ車、ヒゲゼンマイを採用する機械式ムーブメントを発表して脚光を浴びた。軽量で非磁性、耐摩耗、注油不要、理想の形状に正確に加工できるといった特徴を持つシリコン素材は、時計製造に画期的な進歩をもたらした。その先進的なシリコン・テクノロジーに端を発した素材革命の波は他社にも及び、今や各社で標準仕様化が進展している。

クラシック トゥールビヨン エクストラフラット スケルトン 5395

クラシック トゥールビヨン エクストラフラット スケルトン 5395
伝統を誇るクラシカルなトゥールビヨンである一方、シリコン製脱進機とヒゲゼンマイをはじめ、キャリッジの駆動方式、ペリフェラルローターによる自動巻き、ハイエナジー香箱などはすべて革新的な現代技術だ。自動巻き(Cal.581SQ)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt950(直径41mm)。3気圧防水。2605万円。

 ハイテク万能の現代であっても機械式時計は本質的に〝伝統〞の所産であり、製造に不可欠なのは、歴史を通じて培われてきた独自の専門知識や技術だ。〝時計業界の標準語〞であるフランス語で〝サヴォアフェール〞と呼ばれるものがそれだ。しかしサヴォアフェールは、革新を追求してこそ真に生きてくる。それを如実に物語るのが、機械式ムーブメントに新たな地平を切り拓いたブレゲのシリコン・テクノロジーだ。

 ブレゲ・マニュファクチュールが伝統的な金属に代わるシリコン素材の部品を初めて導入したのは2006年のこと。シリコンにちなみ、当時は「クラシックシリシオン」という名称で発表された「クラシック 5177」ではアンクルとガンギ車、「クラシック 5197」と「マリーン 5837」ではヒゲゼンマイまでもがシリコン製であった。さらに革新的なのは、創業者ブレゲが1795年に発明した外端曲線付きの立体的なヒゲゼンマイをも同素材で開発して、飛躍的な成果を加えたことだ。この画期的な〝シリコン製ブレゲヒゲゼンマイ〞を世界で初めて搭載したのが2010年のトゥールビヨン「トラディション トゥールビヨン フュゼ」(プラチナケース)。ブレゲにおける18世紀と21世紀のサヴォアフェールが結び付き、技術革新を成し遂げた重要なマイルストーンである。

2010年に発表された「トラディション トゥールビヨン フュゼ」では、トゥールビヨンのテンプに初めてシリコン素材による立体的な巻き上げヒゲゼンマイを搭載。アブラアン-ルイ・ブレゲの発明が2世紀以上を経て画期的な進歩を遂げた。

 シリコン素材の超軽量で低慣性という特色を生かした部品はまた、毎時2万8800の高速振動と約80時間のロングパワーリザーブを実現した世界でも異例の革新的な自動巻きトゥールビヨンムーブメント、キャリバー581の実現にも貢献。ムーブメントの全貌を露わにして、シリコン製部品も見せる最新のスケルトンモデルは、その見事な到達点だ。

Cal.581SQ

厚さ3mmの超薄型自動巻きトゥールビヨンムーブメント、Cal.581SQ搭載。軽量なシリコン製脱進調速機とチタン製キャリッジ、高トルクを生むハイエナジー香箱との組み合わせで高速振動と長時間パワーリザーブの両方を実現。スケルトン化されたブリッジの面取り仕上げも素晴らしい。