クロノス日本版、2019年の腕時計トレンドを振り返る(前編)

FEATUREその他
2019.12.29

相変わらずレトロデザインは人気

トレンドと言えば、復古調ですよね。今年もいろんなメーカーが採用したように思えます。

スピードマスター ムーンウォッチ 321 プラチナ

オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ 321 プラチナ」

時計愛好家だけでなく、普通の人にも受け入れられるようになったジャンルのひとつに、レトロ調がありますよね。アンティークウォッチのブームを反映してか、各社は毎年のように、復刻モデルや、レトロ風の外観を持つモデルをリリースするようになった。その方向性はふたつあって、ひとつは、可能な限り忠実に復刻する、もうひとつが、アンティーク風のディティールを盛り込む、ですね。

忠実な復刻と言えば、オメガがやりましたね?

そうそう。オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ 321 プラチナ」(2019年10月発表)は、ムーブメントを含めて、ほぼ忠実な復刻ですよね。ただパワーリザーブは結構伸びて、精度は出ているはずです。それと、仕上げはさすがに、昔のスピマスとは違います。ただ良くできすぎてるのと、あと値段は高いですね。

オメガ「Cal.321」

副社長のジャン・クロード・モナションさんが「キャリバー321は作れて年に150本から200本」と言ってたから、量産は難しいじゃないですか。ブレゲにあった321というか、レマニア2310の金型は根こそぎ持ってきたみたいですけど、違ってたみたいですね。それで結構やり直したらしいです。

忠実な復刻と言えば、最近のロンジンは面白いですよね。

ヘリテージミリタリー 1938

ロンジン「ヘリテージ ミリタリー 1938」

そうそう、ロンジンって、復刻版といえども、日付表示を必ず付けていたでしょう。社長のフォン・カネルさんの信念ですね。実用時計だから日付がなきゃおかしいだろうと。ただし、最近の復刻は日付外したんですよね。これはヤバい。純度が上がっている。「ヘリテージ ミリタリー 1938」とか、スモールセコンドの位置以外はほぼオリジナルに同じです。中身はユニタスの6498-2だからかなりいい。昔のモデルそっくりで面白くないという意見もあるけど、僕は大歓迎ですよ。ただロンジンはやっぱり実用性を考えていて、ボックスサファイアの”肩”は張ってます。もっと角を落とせばいっそう昔の時計っぽくなるけど、視認性は悪くなりますからね。そのあたりのさじ加減はうまい。


プロダクトで見ると、スウォッチ グループは相変わらず強い

オメガにせよ、ロンジンにせよ、スウォッチ グループは頑張ってますよね。

シーマスター ダイバー 300M

オメガ「シーマスター ダイバー 300M」

時計の出来は良くなりましたよね。2019年、個人的に大絶賛したのはオメガの「シーマスター ダイバー 300M」です。名前が「シーマスター300」と紛らわしいけど、別物です。これって長らくオメガのブレッド&バター的な存在だったけど、最新作はベーシックとは思えないほど良くなった。文字盤は退色しないセラミックス、マスタークロノメーターが付いて、ブレスレットもマトモになり、携帯精度は素晴らしくいいし、ヘッドとテールのバランスも悪くない。ダイバーズウォッチはこれ買っておけばいいんじゃないですか。ただ、チタンモデルは出して欲しいですね。007限定はチタンだけど、ブレスまでチタンじゃない。それは惜しいな。

Cal.3861を載せたスピードマスターの50周年モデルも、いい実用時計ですね。磁気を気にせず使える機械式クロノグラフは、これが初じゃないでしょうかね。スピードマスターは弓管を短くして、細腕でも張り出さなくなったのは嬉しい。個人的には3861のレギュラー版が出て欲しいですけども。

スウォッチの他のメーカーはどうですか?

プロジェクト Z13

ハリー・ウィンストン「プロジェクト Z13」

ブレゲで一押しなのは、チタンブレス付きのマリーンですね。軽快で使いやすいと思いました。あと、ブレスレットを簡単にバラバラにできるから、磨き直しができるんですよ。高級時計の条件って、完全にばらせるってコトですからね。ブレゲはそういうところをちゃんと抑えている。ハリー・ウィンストンも面白いですよ。以前クロノスにも書いたけど、ハリー・ウィンストンは文字盤の表面に吹く保護用のラッカーを、基本的に止めちゃったんです。専門用語でザポンと言います。

もともとハリー・ウィンストンは“薄化粧”が好きだったんですけど、スッピンにしちゃったんですね。下地が良くなったのだから、スッピンで勝負しようと。これは、オメガなども同じですね。セラミックス文字盤を使った理由を聞いたところ、表面に保護用のザポンを吹かなくていいんだと。「ノーザポンだ!」とオメガのプロダクトマネージャーは叫んでましたね。

グループが違うけど、ルイ・ヴィトンもやっぱりスッピンを指向するようになりました。今のヴィトンは文字盤がいいじゃないですか。理由のひとつは「ノーザポン」だからです。赤の発色を良くするのは難しいけど、ヴィトンはやれるようになった。ただ、個人的には、ザポンはあった方がいい派ですよ。

タンブール クロノ V ダミエ ・ コバルト

ルイ・ヴィトン「タンブール クロノ V ダミエ ・ コバルト」