時計業界の動向と勢力図。注目すべきトピックとともに紹介

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2020.08.08

世の中は常に進歩を続けている。特に現代社会は、目まぐるしい変化に次ぐ変化の連続であり、それは、伝統や歴史を重んじる時計の世界も例外ではない。時計業界の動向を探りながら、時計の世界のダイナミズムに触れていこう。


時計業界地図

時計の世界には、世界に名を馳せる有名なものから、熱烈なファンに支持されるものまで、実にさまざまなブランドが存在する。

しかし、著しい技術革新と激しい市場競争にさらされる現代社会において、単独での経営を維持することは困難を伴う。歴史ある多くのブランドも、巨大資本グループの傘下に入ることを余儀なくされているのだ。

ここでは、コングロマリットに吸収されながら個性を守り続けるブランドや、今なお独立性を維持し続けるメーカーについて見ていこう。

時計業界の3大グループ

現代の時計業界には、大規模なグループが存在する。「スウォッチ グループ」「リシュモン グループ」「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループ」が3大グループと呼ばれる。

時計業界のグループ化に最初に乗り出したのがスウォッチ グループである。オメガやブレゲといった世界的な時計ブランドを擁するのみならず、エボーシュメーカーのETAも傘下に収めた。

ニコラス・G・ハイエック

不振に喘ぐスイス時計産業に活気を取り戻すべく、SMH(後のスウォッチ グループ)の設立を推し進めたニコラス・G・ハイエック。1983年にASUAGとSSIHとの合併によってSMHを誕生させ、ハイエックは初代CEOに就任した。

スウォッチグループの成功に端を発し、ジュエリーやファッションに強いリシュモンや、ファッション業界最大手のLVMHも時計業界に進出することになる。

リシュモンは、カルティエやピアジェなどのジュエリーブランドを中心に攻勢をしかけた。やがて、IWCやパネライといった人気ブランドも手中に収め、スウォッチ グループの対抗馬として台頭する。

また、LVMHはファッション業界における抜群の知名度を生かし、時計産業では、タグ・ホイヤーやウブロ、ブルガリなどのブランドを取り込み、勢力を拡大してきた。

独立企業もある

他方、コングロマリットに属さない独立企業も存在する。ロレックスやパテック フィリップ、オーデマ ピゲなどは大資本の力を借りることなく、今もなお単独で企業としての主体性を維持している。

特にロレックスは、インディペンデントな姿勢を貫きながら、巨大グループ企業の売り上げに迫るセールスを記録するという、驚異的な存在感を放つ。

独立企業のメリットは、親会社の意向などに縛られず、独自の路線を突き詰められる点にある。オリジナリティーの追求が可能なことで、個性的で魅力的な時計を創造できる。

だが一方では、多彩で高品質、かつ安価なパーツの供給をグループ内で受けられないという面もある。それゆえ、独立企業は一貫して自社製造を行うマニュファクチュールとして経営されることが多い。

ロレックス 本社

1905年の創業以来、独立企業であり続けているロレックス。本社はスイス・ジュネーブ市内にあり、ブランドカラーであるグリーンのファサードが目を惹く建物になっている。


時計業界の市場動向

多くの人々を魅了してやまない時計だが、その市場はどのような様相を呈しているのだろうか。売り上げや業績を追いながら、時計業界全体の現状や動向、傾向を探ってみよう。

時計業界の現状

各種業界の現状やシェアなどをまとめているサイト「業界動向サーチ」によると、国内メーカーの売上高シェアは、カシオ計算機、シチズン時計、セイコーHDの3社で90%を超えていることが分かる。

この上位3社に、シチズン グループのリズム時計工業を加えた主要4社の2018~19年の合計売上高は4851億円で、2016年以降、単年度の総売上額はほぼ横ばいであるという。

一般社団法人日本時計協会のまとめでは、2019年における腕時計(ウォッチ完成品)の推定市場規模は3210万個で実売金額は8867億円となっている。

シェアで見ると、数量、金額とも輸入品が70%を超え、日本人はおよそ10人に7人が海外メーカーの時計を身に着けていると言える状況だ。

時計業界の現状・動向・ランキング・シェアを研究|業界動向サーチ
2018年 日本の時計市場規模(推定)| 統計データ | 日本時計協会 (JCWA)

アジアに注目が集まる

2011年の東日本大震災以降、外国人観光客の増加が日本経済押し上げの一端を担ってきた。2013年には年間外国人訪日者が1000万人を突破。2020年の東京オリンピック・パラリンピックも控え、インバウンド需要は右肩上がりが続いた。

これに伴って国内の時計業界のセールスもここ数年は堅調に推移してきたが、2020年2月、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威をふるい始め、世界経済全体が大きなダメージを受けることとなった。

国内のみならず、海外でも一時期休業を余儀なくされた店舗が多く、2020年の時計市場は今なお見通しの立たない状況が続いている。


注目トピック

近年、時計業界を揺るがす話題に事欠かない。注目のトピックをいくつか紹介しよう。

eコマースの市場規模拡大

「eコマース(Electronic Commerce、電子商取引)」は、消費行動を変化させている。実店舗を持たず店員も介さずに消費する形態は拡大を続け、経済革命をもたらしたと言っていい。

eコマース黎明期、ラクジュアリー産業はこれを楽観視する向きもあった。実物を確認できないことは、高級品の購買においては大きな障害になるというものがその理由だった。

しかし、近年の高級ブランド品の売上高は、eコマースとブティックとを比較したときにほぼ肩を並べている。時計市場も今後、eコマースによる取引は増加していくと予測される。

ブライトリング

2020年4月、日本国内でのオンラインブティックを始動させたブライトリング。公式ウェブサイトの商品情報からシームレスにショッピングが行えるのはもちろん、ウェブ先行販売の商品も展開されている。

スマートウォッチのシェア拡大

シェアを拡大し続けているスマートウォッチからも目が離せない。2017年には、収益においてついに「Apple Watch」がロレックスを上回り、時計業界に激震が走った。

スマートフォンと連携可能なスマートウォッチが登場したのは2012年であり、わずか5年で時計業界の老舗ブランドに肩を並べるまでに成長したことになる。

通信機能が付随する利便性はもちろんのこと、腕時計としても十分に使えるため、機能や実用性だけを売りにした従来の時計販売戦略はもはや通用しなくなってきたと言っても過言ではない。

2019年9月に発表された第5世代の「Apple Watch」は、常時表示のRetinaディスプレイを搭載。ケース素材はアルミニウム、ステンレススティール、セラミックに加え、チタニウムが新たに加わった。

熾烈なグループ間競争

3大グループに加え、それ以外の企業による買収や吸収などのM&Aが活発に展開される時計業界では、熾烈なグループ間競争にしのぎを削る段階に突入している。

日本が誇るシチズン時計もスイスメーカーの吸収に積極的で、独立企業として長い歴史を有するフレデリック・コンスタントを傘下に収めた。

巨大資本をバックに経営基盤を安定させ、グループ間企業のノウハウを活用しながらハイクオリティな時計を製造可能にすることがグループ企業のメリットだ。今後も各グループの動向が注目される。

シチズン 銀座

2017年、フレデリック・コンスタントをはじめ、アルピナやアーノルド&サン、ブローバといったシチズンウオッチグループのブランドを集結させ、東京・銀座の商業施設「GINZA SIX」にオープンした「CITIZEN FLAGSHIP STORE TOKYO」。


業界動向を追うと時計が一層面白くなる

製造技術が日進月歩である一方、業界全体にも注目すべき動向や転換がある。時計界のトピックを追うことで、時計への愛情と関心がより一層深まるだろう。


川部憲 Text by Ken Kawabe


スウォッチ グループについて知ろう。グループ関係やブランドについて

https://www.webchronos.net/features/35359/