驚異的な感触に満ちたアウトドアウォッチの極北 リシャール・ミル / RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン

FEATURE本誌記事
2020.03.12

リシャール・ミルの魅力は、ムーブメント以上に外装だと思っている。軽くて、極めて精密に作られたケースは、リシャール・ミルの時計に他メーカーの時計にはない魅力をもたらした。その極北とも言えるのが、シルヴェスター・スタローンとのコラボレーションで生まれた「RM 25-01トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン」だ。コンパス付きのこの時計は、単なる実用時計ではない。驚くべき感触を持つ、現在のアーティファクトなのである。

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

ミクロン単位の加工精度がもたらす唯一無二の外装

 2018年にリシャール・ミルの発表した限定モデルが、「RM25-01トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン」だ。価格は1億1060万円。筆者はこの高価な〝アウトドアウォッチ〞の概要は知っていたが、ついぞ見る機会を得なかった。シルヴェスター・スタローンとのコラボレーション以外に売りがあるはずと予想していたが、実際に見たRM25-01は、想像以上どころではなかったのである。RM25-01を簡単に説明すると、時計の上に交換式のコンパス付きベゼルを重ねた、いわゆるコンパスウォッチである。リシャール・ミルが資料で謳う「ジョン・ランボーの腕にこそ相応しい時計」であることは間違いない。

 リシャール・ミルらしく、その内容は凝っている。交換用のベゼルには、コンパス付きのほか、360度目盛りと4つの基本方位、24時間目盛りを備える両方向回転ベゼルの2種類がある。また、ケースの4時位置には水準器、2時位置には浄水用の錠剤を内蔵できるピルケース(防水レセプタクル)が設けられた。さらに、取り外したコンパスは、付属の定規に固定して使える。

RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン

 もっとも、RM25-01を〝想像以上〞と表した理由は、機能満載だからではない。他のメーカーも、傑出したトゥールビヨン搭載クロノグラフは除いて、これぐらいの高機能時計は作れるだろう。筆者は撮影したモデルを触って、外装の精緻さに驚かされた。いろいろな時計を触ってきたが、これほどアーティファクト感に満ちた時計は他に知らない。本誌でも再三書いてきた通り、リシャール・ミルの外装は、基本的にムーブメントと同じ加工精度で仕上げられている。つまり、10ミクロン単位ではなく、1ミクロン単位だ。リシャール・ミルの時計が驚くほど高価な一因であり、時計全体に統一感がある理由でもある。

 今回リシャール・ミルは、その加工技術を投じて、高機能時計のRM25-01を作り上げた。外装部品が増えた結果、リシャール・ミルならではの精緻さはいっそう強調され、しかも可動部が多いため、触って楽しい時計となったのである。加工精度の高さを触って実感できるという点で、RM25-01は唯一無二だろう。

 出来の素晴らしさは、コンパスを固定するカーボンTPT®とチタン製の定規(プレート)を見れば分かる。定規への固定はカメラのレンズに同じバヨネット式。ねじ込んで固定し、大きなボタンを押すとリリースされる。バヨネットの素材はチタン。しかし、摩耗を防ぐべく、コンパスと噛み合う部分のみにDLC処理が施される。また、バヨネットの底部にはバネで保持されるベアリングが埋め込まれており、コンパスを固定する際の遊びを完全に詰めている。

Cal.RM25-01

 バヨネットの加工も興味深い。通常、リシャール・ミルは、目に見える部品をすべて研磨する。バヨネットの内側も例外ではないはずだが、あえて切削面をそのまま残している。おそらくリシャール・ミルは、磨いて肉が痩せると、完全な噛み合わせを得られなくなることを嫌ったのだろう。コンパスを固定・取り外す際の感触は極上で、これを味わうためだけに1億円払う人がいても、筆者はおかしいとは思わない。もちろん高級時計であるから、バヨネットは完全に分解できる。

 定規に固定されるコンパスも驚くべき加工精度を持つ。サファイアクリスタル製の風防の中心にルビーベアリング(!)でサポートされる方位磁針が据え付けられている。ベアリングを埋め込んだのは滑らかに針を動かすためであり、分解可能にするためだろう。またコンパスを覆うカバーの内側は、他のコンパスウォッチよろしく鏡面処理されている。普通はガラスをはめ込むが、これはおそらく、蒸着処理した金属をはめ込んでいるのだろう。面は完全に平滑で、これほどの鏡面は見たことがない。

 アウトドアウォッチらしからぬ精密さを持つRM25-01。正直、外装の出来栄えで言えば、これに勝る時計は今まで見たことはないし、今後もおそらくそうに違いない。

RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン

リシャール・ミル/RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン
交換式の回転ベゼルおよびコンパスと、防水レセプタクル、水準器などを備えた複雑時計。構成は典型的なアウトドアウォッチに準じるが、外装の完成度は歴代リシャール・ミルと比較しても傑出している。レバー類などを肉抜きして耐衝撃性を大きく向上させたコンペティションムーブメントを搭載する。手巻き(Cal.RM25-01)。35石。2万1600振動/時。カーボンTPT®×グレード5チタン(直径50.85mm、厚さ23.65mm)。100m防水。世界限定20本。1億1060万円。