パネライ「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック」が示す、ブランドの革新性

FEATUREWatchTime
2020.08.09

「パネライ サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック - 47MM」は、リブランディングされた「サブマーシブル」コレクションのなかでも最新の技術が取り入れられたモデルだ。戦時におけるダイビングを目的に設計されたこの頑強な時計が、陸上においても実力を発揮してくれる理由を、WatchTimeシニアエディターのマーク・ベルナルドが明らかにする。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

パネライパネライ「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック - 47MM」
自動巻き(Cal.P.9010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ72時間。カーボテック(直径47mm)。300m防水。229万円(税別)。
Written by Mark Bernardo

 多くのパネリスティ(=パネライ愛好者)のなかでも、とりわけダイビングを楽しんでいる人々は、「サブマーシブル」をスピンオフさせたパネライの決定を称賛していることだろう。なぜって、これまで「ルミノール」のサブコレクションとして位置付けられていた「サブマーシブル」が、いよいよ独立したコレクションとしてパネライのポートフォリオに収められることになったのだから──。
 2019年のSIHH 終了後、ジュネーブ空港で帰国便を待っていたとき、私はパネライの北米ブランドマネージャーであるフィリップ・ボネイと話す機会を得た。「サブマーシブル」が独立したコレクションとなることは、ブランドが新たなストーリーを伝えられる絶好のチャンスだと感じていたのだが、不思議なことに、ここ最近の方針変更については詳細が語られてこなかったので、直接話を聞いてみたいと思ったのだ。
 パネライはフィレンツェを拠点として、1930年代よりイタリア海軍の潜水士たちに時計を提供していた事実が示すように、そのルーツはひと言で言ってしまえばダイビングに根ざしたもの。しかしこれは、ロレックスの「サブマリーナ」やブランパンの「フィフティ ファゾムス」、オメガの「シーマスター」と同様、パネライの時計が「ダイバーズウォッチ」として認知されるようになるずっと以前の話だ。

 その理由のひとつには、パネライがブランドのアイデンティティを(シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーの影響からか)ツールとしての時計ではなく、メンズラグジュアリーアイテムとして打ち出していることが挙げられる。そしてもうひとつには、逆回転防止ベゼルを搭載していない(しかも「ラジオミール」は初期のモデルをベースにしているため、防水性を確保する特許取得済みのリュウズプロテクターさえ付いてない)最新モデルのほとんどが、ISOの基準をクリアしていないことも挙げられるだろう。
 唯一、初期の「ルミノール サブマーシブル」はダイビング用の回転ベゼルとリュウズプロテクターを備え、ミリタリーツールとして申し分のないルックスを実現していたものの、近年では他のメインコレクションほどには注力されてこなかった。「サブマーシブル」を独立したコレクションに位置付けることで、パネライが海洋に由来した過去をアピールできる点についてはボネイも同意してくれた。しかしそれだけではなく、本格的なダイバーや野外探索に従事する人々のためのブランドとしても、その地位を確立できるようになるのだ。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

ケース素材は、パネライが時計製造に取り入れたカーボテックを採用している。

 少々前置きが長くなったが、2019年に実物を見てから、このような経緯でWatchTimeの着用レビューに至った。パネライ「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック – 47MM」は一見するとジェットブラックの厳ついタイムピースだが、実のところ、ドレスシャツの袖口の下ではシャープな印象を放つモデルだ(もっとも、時計はワイドなプロポーションに加え、着用時にはかなりのボリュームがあるので、ボタンがきつくないことが条件だが)。刷新された「サブマーシブル」コレクションのフラッグシップ・モデルとしてリリースされ、ダイアル12時位置の表記は、従来の「LUMINOR SUBMERSIBLE PANERAI」から「PANERAI SUBMERSIBLE」に変更。ケース、ラグ、特許取得済みのリュウズプロテクターには、パネライが2015年に時計で初採用したカーボテックが用いられている。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

樽型のケースにはカーボテック特有の模様が確認できる。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

パネライが特許を取得しているリュウズプロテクターによって、時計は300mの防水性を実現している。

 カーボテックについて、もう少し掘り下げてみよう。この素材はルックスと素材のパフォーマンスを最適化するために開発されたもの。特徴的な見た目を形成するため、カーボンファイバーの薄いシートはハイエンドポリマーPEEK(ポリエーテル エーテル ケトン)とともに管理された温度のもとで高圧縮され、優れた耐久性も備えた素材だ。使用されるカーボンファイバーは非常に長く、統一感のあるパターンを有しているため、各層の繊維が違う向きで配置されるようにシートを重ねて圧縮するのだが、これが独特のルックスを生み出している。できあがった素材はセラミックやチタンといった、時計製造で使用される素材よりもはるかに高性能なもの。パネライによると、カーボテックはセラミックやチタンよりも軽く、腐食に強いうえに、低アレルギーな性質を備えているという。素材は凹凸のあるマットブラックで、そのテクスチャーは木目のよう。つまり、カーボテックで作られた時計は1本1本の表情が異なるユニークピースとなるのだ。

 外装にこの素材を使用することでパネライ「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック - 47MM」は、見事に意図した領域においてその真価を発揮する。サイズこそ大きいが、軽量なので手首へのフィット感は良好で、また指でケースをなぞってみると、硬さと滑らかな質感の両方を感じ取ることができるだろう。興味深いことに、パネライがリリースしたカーボテックモデルの多くの写真では、金属部分にレイヤーのパターンが見られるのだが、これはカーボテックモデルをドレスウォッチとして着用したい場合にはプラスに作用するであろう。ラグは鋭角にカーブしており、ケースバックは私の好みよりもフラットなのだが、手首にぴったりと収まり、ベゼルからは確かなクリック音が感じられる。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

カーボンダイアルの12時位置にはダブルの蓄光インデックスを配置。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

ベゼルの15分マーカーには、レリーフ入りのスタッズをセット。

 ベゼルのデザインは、このモデルを特徴づける決定的な要素だ(しかもそれは、カーボテック特有のパターンが入っているだけではない)。わずかにカーブしたベゼルの表面にはレリーフ入りのドットが配され、蓄光塗料を塗布した12時位置のドットをはじめ、15分、30分、45分位置にそれぞれ数字が記されたドット、それ以外には無印のドットがレイアウトされている。これらのドットは「サブマーシブル」のデザインに影響を与えたことでも知られ、1956年にエジプト海軍のために製造された直径60mmのダイバーズウォッチ「エジツィアーノ」に用いられていた意匠だ。「エジツィアーノ」に配されたスタッズには実用的な役割があった。スタッズに記された数字は潜水時間を示し、分厚いダイビンググローブを装着していても回転ベゼルを掴みやすいように設計されていたのだ。そして最新モデルでは主に装飾として、溝が刻まれたエッジに変更されている。

 どんな太さの指先でも、溝のあるエッジを掴み、ベゼルを回転させて潜水時間をセットするのは容易だ。また、ねじ込み式リュウズにも同様に刻みが設けられ操作しやすくなっている(ただし、装着している際は大きなリュウズプロテクターがあるため、操作はそう簡単ではないが)。リュウズは、こちらもカーボテックで作られた特許取得済みのプロテクターによってしっかりとガードされている。ヒンジ付きのロック機構によってスムーズながらも確実にロックポジションからリュウズを引き出して巻き上げられるようになっている。巻き上げが完了したら、レバーを元の位置に戻せばリュウズはしっかりと固定され、300mの防水性を確保するのである。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

秒はサブダイアルで確認でき、針とインデックスには蓄光塗料が塗布されている。
レバーが元の位置に戻ると、リュウズもしっかりと固定されるようになっている。

 カーボン製のダイアルは“ステルス”調デザインの延長線上にあり、ルーペで確認するとカーボン特有のパターンが広がっていることが分かる(もっとも、照明次第では反射するが)。12時位置にはダブル、6時位置にはシングルのバーインデックスをそれぞれ配し、その他のアワーマーカーにはドットを採用。ただし3時位置だけが例外で、そこには黒地にホワイトの数字で記された控えめなデイト表示が収まり、時計が持つモノトーンの魅力を引き立てている。ダイアルの9時位置にはスモールセコンドが配置され、4本のバーインデックスと8つのドットを小さな針が周回する。すべての針とインデックスにはスーパールミノバが塗布されており、1日中太陽光の下にさらした後、暗闇で時計を見ると、それぞれの表示が非常に明るく浮かび上がってくる様子が確認できる。小さな滴型の秒針がサブダイアル上を周回するとき、肉眼ではゆっくりと動いているように見えるのだが、非常に高い精度で時を刻んでいる。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

2色のスーパールミノバによって、暗闇でも時計が明るく浮かび上がる。

 ソリッドケースバックに採用されているのはカーボテックではなく、ブラックコーティングされたチタン。時計の外観とも調和しており、その内部ではパネライのキャリバーP.9010が本領を発揮している。スイスのヌーシャテルにあるパネライのマニュファクチュールで製造されたムーブメントは双方向回転式ローターを備えた自動巻きで、ツインバレルの採用によって72時間のパワーリザーブを実現。他のパネライの自社製ムーブメントと同様、時刻設定の際にはテンプをストップさせる機構が搭載されるとともに、秒針に影響を与えることなく時針を迅速に調整できる機能も備えている。これは、タイムゾーンの変更や、日付を修正する際には便利だ。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

ソリッドケースバックはブラックコーティングを施したチタン製で、ダイバーのビジュアルが描かれている。

 ケースバックには、ブランド名をはじめ、モデル名、防水性能、そして中央には海軍のダイバーが「サブマーシブル」コレクションに紐づけられた「SURVIVAL INSTRUMENTS」というフレーズとともに描かれている。これは、パネライがミリタリーダイビングの歴史を「サブマーシブル」に吹き込もうとしていることの証左である。時計には立体成型されたブラックのラバーストラップが付属しており、両側には歴史的な「OP(OFFICENE PANERAI)」のエンブレムを刻印。このストラップによって、快適な装着感を生み出している。また、ピンバックルはケースバックと同様にブラックコーティングを施したチタン製で、統一されたトーンでパネライのロゴを刻印している。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

ラバーストラップにはヴィンテージの「OFFICINE PANERAI」ロゴが刻印されている。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック

ブラックコーティングされた金属製のピンバックルによって、ラージサイズの時計をしっかりと装着できる。

パネライ「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック - 47MM」の価格は229万円(税別)。これは、スティール製で直径42mmの「サブマーシブル」(税別108万円)と比べると、ツールウォッチを謳うタイムピースとしては少々高額な印象を受けるが、資金に余裕のあるパネリスティにはもちろんのこと、特にカーボテックの採用が象徴するように、その技術を高く評価する人々には十分にアピールし得るだろう。ボネイと彼のチームが指摘するように、パネライの歴史はミリタリーダイビングだけではなく、深海で有用な発光素材の開発や特徴的なリュウズプロテクター、カーボテックやBMGテックといった素材の採用など、革新の歴史でもあるのだ。「サブマーシブル」は過去がそうであったように、未来への理想的な突破口を切り拓くタイムピースとなるであろう。


Contact info:オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110


パネライの2020年新作時計をまとめて紹介

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/44695/