今買うべきブランパン厳選定番モデル10選

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2021.03.02

1735年、スイス・ジュラ地方ヴィルレ村の時計師ジャン-ジャック・ブランパンによって設立され、「世界最古の時計ブランド」とされるブランパン。長い歴史を持つブランパンが、現在の時計業界においても一目置かれるのは、創業以来、機械式時計のみを手掛け、かつその復興と発展に寄与してきたからにほかならない。数あるブランパンの名作の中でも最もクラシックな定番と言える、シンプルかつ正統派デザインを持つ「ヴィルレ」と、近代ダイバーズウォッチの“祖”である「フィフティ ファゾムス」に注目して、その魅力を語り尽くす。

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(クロノス日本版):文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos Japan Edition)

「世界最古の時計ブランド」と呼ばれる歴史と機械式時計復興の立役者としての正統性

 ブランパンの原点は1735年、スイス・ジュラ地方に位置するヴィルレ村の村民名簿に、ジャン-ジャック・ブランパンが時計職人として登録され、自身のファミリーネームを冠したメゾンを設立したことに端を発する。この事実こそ、ブランパンが現存する世界最古の時計ブランドとされるゆえんである。その後、約2世紀にわたってファミリーによって継承され、紆余曲折を経ながらも、現在までその歴史を積み重ねている。

 このようにブランパンのルーツは、現在もコレクションにその名を残す「ヴィルレ」であるが、実はもうひとつのルーツがある。ルイ-エリゼ・ピゲが1859年、複雑ムーブメントを専門に扱うアトリエを開設したヴァレ・ド・ジュウ(ジュウ渓谷)だ。1891年、ルイ-エリゼ・ピゲは、ジュウ渓谷に位置するル・ブラッシュ中心の丘の上に建つ古い工場を購入。ブランパンは、この工場を「ファーム」と名付け、このアトリエにおいて複雑機構の伝統を継承する。1970年代のクォーツウォッチの普及による機械式時計の冬の時代を経て、1980年代には、より興味深い機械式時計を製作することで機械式時計復活の狼煙(のろし)を上げ、1991年に6つのコンプリケーションを組み合わせた前代未聞の自動巻き腕時計「1735」が誕生したのも、このファームである。

 今日でもル・ブラッシュのこのアトリエでは、熟練した時計職人たちが、ミニッツリピーターやスプリットセコンドクロノグラフ、カルーセルやトゥールビヨンといった複雑機構の開発に注力する。加えて、現在、ファームにはメティエダールのアトリエも併設され、エングレービングやエナメル細密画など、文字盤やムーブメント部品に精緻な装飾を施したり、シャクドー(赤銅)や日本の備長炭など、これまでの高級時計には見られなかった新たな技巧を採り入れるなどして、ウォッチメイキングの可能を広げるさまざまな表現にも果敢に挑戦し、常に研鑽を重ねている。

(左)ブランパンのルーツのひとつ、ジュウ渓谷のル・ブラッシュに位置するブランパンのアトリエ。1891年にルイ-エリゼ・ピゲが買い取り、複雑ムーブメントのアトリエとして改修し、今日に継承する。現在はメティエダールのアトリエも併設され、文字盤やムーブメントに緻密な装飾を施す。
(右)ジュウ渓谷のル・サンティエにあるマニュファクチュール ブランパン。ルイ-エリゼ・ピゲ以来、ブランパンのムーブメント製造を手掛けてきたムーブメント製造会社フレデリック・ピゲ。2010年にブランパンが同社を完全統合し、マニュファクチュール ブランパンと改称した。

 ブランパンの長い歴史において注目すべきは、20世紀に入ってから半ばにかけての、懐中時計から腕時計への移行期と普及期である。この時代に、ブランパンは現代にも影響を与えるマイルストーンと言うべき数々の腕時計を手掛けている。その中でも、1953年に誕生したモダンダイバーズウォッチの“祖”である「フィフティ ファゾムス」と、1956年に発表された直径11.85mmの女性用ムーブメントを搭載した「レディバード」は、今日にも受け継がれるブランパンを代表するアイコニックピースであり、ブランパンが機械式時計の継承と発展に今なお尽力していることを証す名作である。

 1961年、ブランパンは、オメガ、ティソ、レマニアを擁するSSIH(Société Suisse pour l'Industrie Horlogère)と合併し、SSIHグループのムーブメント製造拠点となるが、1970年代にはクォーツ時計の普及に押され、スイス時計産業は未曾有の危機を迎える。だが、その逆境をいち早く乗り越えたのも、ほかならぬブランパンである。

 1983年に復興を遂げて以降、ブランパンは機械式時計の開発・製造に注力し、その技術の粋として「シックス・マスターピース」と呼ばれる6つの複雑時計を発表するに至る。ウルトラスリム、ムーンフェイズ、スプリットセコンドクロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン、ミニッツリピーターという、現在においても難易度の高い複雑機構を含む腕時計を6モデルも発表することで、機械式時計の本格的なブームが訪れんとする前夜に、ブランパンはその嚆矢として、時計業界にその名を知らしめたのだ。

ル・ブラッシュにあるブランパンのアトリエ「ファーム」において、複雑時計を組み立て・調整する熟練の時計師たち。

 特に“顔”を持つムーンフェイズは、そのノスタルジックな表情とともに、機械式時計へのロマンを掻き立て、ブランパンを象徴する機構となった。

 ここでは、現代のブランパンを代表するコレクションである「ヴィルレ」と「フィフティ ファゾムス」に注目し、厳選した10モデルをそのディテールとともに紹介する。

 創業以来、機械式時計のみを作り続け、スイスウォッチメイキングの伝統と技術力を受け継ぐと同時に、その愉しみ方をも提供し続けるブランパン。その長い歴史において、今なお色褪せることなく、それらが叶えられている背景には、現社長兼CEOのマーク A. ハイエック氏が掲げる「革新こそ伝統」という哲学があることを忘れてはならない。

 革新を求めて挑戦し、常に進化を遂げているからこそ、ブランパンはいつの時代も機械式時計の嚆矢でいられるのだ。ここで紹介するブランパンの定番モデルにも、もちろん、 “革新”を追求するという同ブランドの“伝統”が脈々と息づいているのが見て取れるだろう。


機械式時計の正統派継承者「ヴィルレ」コレクション

 1735年、ジャン-ジャック・ブランパンによってスイス・ジュラ地方のヴィルレで設立されたブランパン。ブランドの原点である誕生の地をその名に冠した、マニュファクチュールにとって最もクラシカルなコレクションが「ヴィルレ」である。

 数あるブランパンのコレクションにおいて、最もクラシックでシンプルなデザインを持つヴィルレは、その名の通り、ブランパンの伝統と美意識を受け継ぎ、それを具現化する使命を負ったモデルだ。

ヴィルレ エクストラスリム

ヴィルレ エクストラスリム
クラシカルな伝統にのっとった薄型ケースを持つが、ダブルステップ・ベゼルによってエレガントな個性を巧みに演出。ゴールド製のアプライドインデックスは立体感と存在感を備え、視認性向上にも寄与する。自動巻き(Cal.1150)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。18Kレッドゴールドケース(直径38.00mm、厚さ8.35mm)。30m防水。172万円(税別)。

 シンプルゆえにピュアな文字盤には、ゴールド製のインデックスが手作業で植字される。この立体的なインデックスは、研磨されたゴールドの輝きを持ち、文字盤と一層明瞭なコントラストを成すため、高い視認性をも備える。

 また、ドレスウォッチの伝統を継承する薄型ケースには、ダブルステップ・ ベゼルを与えることで、すっきりとしたスレンダーなシルエットの中にも確たる個性と品格を生み出し、同時にアイコニックなフォルムをもかなえている。

(左)「ヴィルレ」コレクションの特徴である独創的な形状のローマンインデックス。レッドゴールド製のインデックスを植字することで高級感を演出するとともに、立体感とコントラストによって視認性の向上にも寄与している。
(右)セージの葉をかたどった時針と分針は中央部がくり抜かれ、軽量化されると同時に、日付表示窓に重なってもすべてを隠すことがないため、判読性にも優れる。よりスリムな秒針には十分な長さが与えられ、創業者のイニシャル「JB」をあしらったカウンターウェイトによって巧妙にバランスを取っている。

(左)「ヴィルレ」コレクションの大きな特徴のひとつがベゼルを2段に成形したダブルステップ・ベゼルである。ラグの形状とともに、シンプルかつドレッシーな厚さ8.35mmのケースに個性と品格、存在感を与えている。
(右)サファイアクリスタル製のケースバックからはムーブメントCal.1150が見られる。サーキュラーグレインが施された地板とコート・ド・ジュネーブで装飾された受けを持つムーブメントは、ハニカム・パターンがあしらわれたゴールド製ローターを備える。テンプはシリコン製ヒゲゼンマイを採用する。

 ブランドのルーツと伝統を背負いつつも、現在のヴィルレは、シンプルなダイアルとセージの葉をかたどったくり抜かれた時分針、創業者ジャン-ジャック・ブランパンのイニシャルをカウンターウェイトに備えたスリムな秒針の絶妙なバランスによって、コンテンポラリーな意匠にまとめ上げられ、現代という時代と見事な調和見せているのも特筆すべきポイントだ。

 最もシンプルな3針・デイト付きの「ヴィルレ エクストラスリム」に対し、最もブランパンらしいと言われるムーンフェイズを備えた「ヴィルレ コンプリートカレンダー」は見た目の華やかさはもちろんだが、月・日・曜日表示が高い実用性を提供する。この機械式のムーンフェイズとコンプリートカレンダー(月・日・曜日)表示の組み合わせは、1983年にブランパンが他社に先駆けて復活させて以来の“伝統”として今なお「ヴィルレ」コレクションに受け継がれるヘリテージのひとつである。

 ブランパンの強みは、何もこうした“伝統”ばかりではない。「ヴィルレ コンプリートカレンダー」においては、月・日・曜日・ムーンフェイズを調整するコレクター(調整ボタン)をすべて4つのラグの裏側に配し、しかも専用工具なしで調整を可能にしている。結果、通常のトリプルカレンダームーンフェイズモデルのケースサイドにあるコレクターボタンは廃され、すっきりしたそのビュアネスを表現すると同時に、専用工具を不要とすることでユーティリティーも向上した。

最もベーシックなコレクションでありながらも、ブランパンの掲げる「革新こそ伝統」という哲学をシンプルに実現している点も見逃せない。

ヴィルレ コンプリートカレンダー
ムーンフェイズに加え、日付・曜日・月表示のコンプリートカレンダーを備えながらも、ケースの厚さを10.65mmにとどめる。ムーンフェイズの月に顔を持つのがブランパンの大きな特徴のひとつ。自動巻き(Cal.6654)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.65mm)。30m防水。148万円(税別)。

(左)「ヴィルレ」コレクションのステンレススティールケースのモデルにはホワイトゴールド製のローマンインデックスが植字される。コンプリートカレンダーを構成する曜日と月表示は12時位置の下にふたつの小窓からディスク表示される。
(右)ムーンフェイズ表示の月に“顔”が描かれるのがブランパンの特徴。コンプリートカレンダーを構成する日付表示は指針式で、ブルースティールのサーペント針によって示される。

(左)最もシンプルで薄型の「ヴィルレ エクストラスリム」に比べて、コンプリートカレンダーとムーンフェイズを搭載する「ヴィルレ コンプリートカレンダー」のケース厚は2mm以上厚いが、ダブルステップ・ベゼルはいずれとも見事な調和を見せる。
(中)サファイアクリスタル製ケースバックからはコンプリートカレンダーとムーンフェイズを搭載したムーブメントCal.6654が見られる。ふたつの香箱は約72時間のパワーリザーブとトルクの安定性をもたらす。
(右)コンプリートカレンダーを構成する月・日・曜日表示とムーンフェイズ表示はそれぞれ4カ所のラグの裏側に設けられたコレクターによって、専用の工具を用いることなく手動で調整することができる。ケースサイドのコレクターをなくすことでヴィルレのピュアなケースデザインが一層際立つ。


「ヴィルレ」コレクションカタログ

ヴィルレ エクストラスリム

ヴィルレ エクストラスリム
2020年に「ヴィルレ」コレクションに加わったミッドナイトブルーダイアルを持つモデル。ミッドナイトブルーダイアルがレッドゴールド製ケースと組み合わされるのはこのモデルが初めて。サンバースト仕上げの文字盤がブルーカラーに深みを与え、レッドゴールド製のアプライドローマンインデックスとよく調和している。自動巻き(Cal.1151)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。18Kレッドゴールドケース(直径40mm、厚さ8.7mm)。30m防水。192万円(税別)。

ヴィルレ パーペチュアルカレンダー
ブランパンを象徴するムーンフェイズ表示に加え、永久カレンダーを搭載したモデル。ステンレススティールケースのこのモデルは、複雑時計でありながらも実用的。既存の直径42mmのモデルに対し、直径を40mmに小型化することで、より多くのユーザーに合わせやすくなった。自動巻き(Cal.5954)。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.1mm)。30m防水。337万円(税別)。