ロンジンの歴史を現代に伝える、ヘリテージコレクションの探求(後編)

FEATUREWatchTime
2021.05.08

スイス・サンティミエの名門、ロンジン。同社の長い歴史の中で培われてきた豊富なアーカイブスを題材にしたヘリテージコレクションは、いまやロンジンの魅力のひとつだ。現在のヴィンテージウォッチブームよりはるか前から良質な復刻モデルを手掛けてきたロンジンの取り組みを、前後編の2回にわたって振り返っていく。前半はこちらから

ロンジン ヘリテージ ミリタリー

2016年発表の「ロンジン ヘリテージ ミリタリー」。まだこの頃の復刻ではカレンダーは文字盤上に残されていた。
Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
Edit by Tsuyoshi Hasegawa
2021年5月8日掲載記事


実用的なフィールドウォッチスタイル

 空と海を制覇した後に、ロンジンが目を向けたのは陸地である。しっかりと実用的なフィールドウォッチスタイルのタイムピースが、20世紀の世界大戦時期に軍用として作られていた過去があるのだ。2013年にロンジンが発表したモデルこそ、歴史から派生した3本の「ヘリテージ ミリタリー 1938」である。

 このミニコレクションには、シンプルなデイト付き3針の「ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938」、GMTを搭載する「ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938 24アワーズ」、そしてバイコンパックスクロノグラフの「ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938 クロノグラフ」が含まれている。すべてのモデルにETAの自動巻きムーブメントが搭載され、ケースはステンレススティール製、また全モデルは1938年製タイムピースの外観をまとっている。

 2016年には第一次世界大戦終戦間際の1918年に生産されたモデルから着想を得た「ロンジン ヘリテージ ミリタリー」が発表。ロンジン・ミュージアムが所蔵するアーカイブを参考に復刻された同作は、大きなアラビア数字のインデックスとブレゲスタイルの針、レイルロードタイプのチャプターリング、それに6時位置のスモールセコンドなど、当時人気の要素を網羅したスタイルを持つ。

ロンジン ヘリテージ ミリタリー

2018年の「ロンジン ヘリテージ ミリタリー」。オリジナルモデルが英国の王立空軍にゆかりを持つタイムピースらしく、手袋をしたままでも巻きやすい大振りなリュウズはしっかりと再現されている。

 そして6時位置のスモールセコンドに被るデイト表示や、ヴィンテージ調のロンジンロゴの代わりに現行ロゴを配すなど、僅かな現代的要素とアレンジが加えられている。オリジナルの尖った細身のラグの代わりに、スムーズな一体型ラグを備えた直径44mmスティール製ケースの内側には、自動巻きムーブメントであるETA2895/2、つまりロンジンのキャリバーL615.2が搭載されている。

 その後18年に発表された「ロンジン ヘリテージ ミリタリー」は、青写真とその由来を示すストーリーが用意されていた。第二次世界大戦時代の特別な時計が選ばれ、前作よりさらに時代考証に忠実なディテールが再現されたところに特徴がある。このコンテンポラリーピースに影響を与えたロンジンの歴史的なウォッチとは一体何か? それは1940年代英国の、王立空軍(Royal Air Force/RAF)に供給されたモデルである。

 デザインに関しヒントになったのは、英国のコレクターが所有していた時計であり、RAFの無線電信オペレーターを務めた経験と叙勲歴を持つ英国兵士、スタンリー・ターナーが機上で着用していたモデルだ。新作の38.5mm径ケースは、それよりわずかに小さい32.5mmであったターナー着用モデルを彷彿させる絶妙なサイズ感。コックピットにて操作しやすいよう設計されていたヴィンテージウォッチの大きな巻き上げ用リュウズは、現代的タイムピースにおいて、ボックス型風防と合わせることで適切なスペースを確保している。

 オパーリンの文字盤には歴史的にふさわしい青焼きのスティール針とアラビア数字のインデックスが合わせられ、丁寧に吹き付けられたペイントにより、オリジナルモデルが見せる酸化部分の再現と相まって、魅力的な経年変化の雰囲気を巧みに漂わせている。自動巻き機械式ムーブメント(ETA A31.L01ベースのロンジン キャリバーL.888.2)が搭載されているにも関わらず、1940年代のルックスに迫るべく、文字盤から「Automatic」の表記をあえて外した文字盤により、ロンジンのその他の自動巻きモデルとは明らかに異なる1本である点も、特筆すべきポイントと言えるだろう。

ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938

2020年発表の「ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938」。オリジナルと同じく、手巻きのスモールセコンドムーブメントを搭載するなど、ロンジンの本気度が伝わってくる1本だ。

 レトロ調外観のトレンドの中にあるもうひとつのトレンド、歴史的事実に対し忠実で、なおかつ顧客と時計愛好家によって求められているものが、「ヘリテージ ミリタリー」の最新作、「ロンジン ヘリテージ ミリタリー 1938」の要素となっている。スモールセコンドを備えたシンプルな2針式のこのモデルは、前作のベーシックな部分に回帰していると言える。

 オリジナルと同様の43mm径ステンレススティール製ケースに、細く面取りされたベゼル、戦場の兵士たちが操作しやすいように作ったとロンジンが説明する雲丹形のリュウズ(初出の年がふたつの世界大戦の間であったことは考慮するに足らない)を備えている。

 マットブラックの文字盤には、バトン型のロディウム加工による針、アラビア数字のインデックス、レイルウェイのミニッツトラックが組み合わされ、レイルウェイトラックを備えた6時位置のスモールセコンドとともに、当時のモデルらしいシンプルで非常に高い視認性が再現されている。針とインデックスはクリーム色のスーパールミノバにより、経年変化を伴った「ヴィンテージ調」外観を作り出している。純正マニアにとって一番重要であるのが、同じ名前とインスピレーションの源を共有する、13年モデルに見られるデイト表示を取り除いた点であろうか。