名設計者が手掛ける タグ・ホイヤーの未来を先取りする 「オンリーウォッチ」オークション2021出品モデル

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2021.11.06

2021年11月6日(土)中央ヨーロッパ時間の14時(日本時間同日22時)にスイス・ジュネーブで開催されるチャリティーオークション「オンリーウォッチ」。
タグ・ホイヤーが出品する「タグ・ホイヤー オンリーウォッチ カーボン モナコ」は、同社に移籍した稀代の名設計者キャロル・カザピが手掛けた最初のモデルとなった。そこには、テクノロジーを追求してきたタグ・ホイヤーのDNAが受け継がれると同時に、そのユニークピースは同社の未来を予見する試金石でもあるのだ。

キャロル・カザピ

Carole Kasapi(キャロル・カザピ)
1969年、フランス生まれ。ラ・ショー・ド・フォン時計学校を卒業後、90年にコンセイユレイ・エンジニアリング・オルロジェに入社。ゼニス「クラス エリート(クラス6)」などの設計に携わる。92年からルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ)、97年からはユリス・ナルダンに在籍。両社では多くのムーブメント設計を手掛けた。99年よりカルティエの設計責任者を務めた後、2020年3月、タグ・ホイヤーに移籍した。
広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2021年11月06日掲載記事

  現在を代表する名設計者は誰か? 人によって意見は異なるだろうが、彼女を挙げることに異論を挟む人は少ないだろう。キャロル・カザピ(Carole Kasapi)。ユリス・ナルダン「フリーク」の事実上の生みの親であり、ゼニスのインハウスムーブメント「エリート」の設計者にして、カルティエ在籍中には、同社だけでなく、さまざまなメーカーに複雑時計を製造した、当代きっての大設計者だ。もちろん傑作と言われるムーブメントを手掛けた設計者は他にもいる。しかし、仕事の幅の広さにおいて、彼女に比肩する存在はないのではないか?

 その彼女が、カルティエを離れ、なんとタグ・ホイヤーに移籍した。2020年3月のことだ。前任者はかのギィ・セモン。確かに、彼の後を継げるほどの設計者は、カザピ以外にはありえないだろう。そんな彼女のタグ・ホイヤー最初の仕事が、2021年11月開催の「オンリーウォッチ」オークション出品モデルだった。「タグ・ホイヤー オンリーウォッチ カーボン モナコ」である。キャロル・カザピは言う。

タグ・ホイヤー オンリーウォッチ カーボン モナコ
コレクターの間で「ダーク ロード」として知られるモナコRef.74033N。それを再解釈したのが本作だ。ケースと文字盤の素材はカーボン。また、ムーブメントにもカーボン製のヒゲゼンマイが採用された。ストラップも、メタル風に成形されたレザーという凝りようだ。ケースバックの大きな開口部にはめられたサファイアクリスタル越しにカーボン製の地板を持つムーブメントを見ることができ、ローターの外周には「オンリーウォッチ」を意識したオレンジからイエローのグラデーションがペイントされる。
自動巻き(Cal.Heuer 02)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。カーボン(縦39×横39mm、厚さ15.56mm)。100m防水。落札予想価格:5万~10万スイスフラン。

「今回はカーボン製のヒゲゼンマイをクロノグラフに初採用しました。トゥールビヨンにはすでに使っていましたが、クロノグラフでは初ですね。採用の理由は、非磁性であること、既存のヒゲゼンマイに比べて軽いこと、ですね。姿勢差誤差は小さくなりました。この個体で言うと、精度は1秒から2秒程度でしょうか」

 シリコン製のヒゲゼンマイとは異なり、カーボンのそれは、緩急針で挟んでも割れることはない。つまり、フリースプラングテンプを載せずとも、従来の緩急針付きのテンプでも耐磁性を上げられる。タグ・ホイヤーが、シリコンよりも汎用性の高いカーボンに傾倒したのは納得だ。加えて、ムーブメントの仕上げも一新された。カザピいわく、「モダンな時計に、ユニークな仕上げを加えたかった」とのこと。確かに手作業で施された面取りは、今までにないほど凝っている。

クロノグラフとしては初めてカーボン製のヒゲゼンマイを搭載した「タグ・ホイヤー オンリーウォッチ カーボン モナコ」。カーボンは非磁性素材であり、同じ非磁性素材のシリコン製ヒゲゼンマイとは異なり、緩急針のヒゲ棒でヒゲゼンマイを挟んでも破損することがないため、フリースプラングではなく、緩急針による歩度調整を採用しつつも、耐磁性を高められる。

「これからの計画も考えていますよ。ですから、オンリーウォッチに出品しました。私は、テクニカルな時計を作るというタグ・ホイヤーのDNAを受け継ぎつつも、新しいページを開きたいのです。アドベンチャーはモチベーションになるでしょう。数年後には、新しいコレクションをお見せできると思いますよ」

オープンワークが施されたモダンなデザインの文字盤も、ケースとベゼル同様にカーボン製。素材の探求は、テクニカルなウォッチメイキングを追求してきたタグ・ホイヤーのDNAのひとつである。

 初回ということもあり、あっさりと終わったインタビュー。しかし、最後に彼女から質問を受けた。いわく、「あなたはタグ・ホイヤーからどのようなオートオルロジュリーが出てくることを期待していますか?」。対して、「新素材と高級時計作りを両立させたメーカーはそう多くはない。タグ・ホイヤーにはそういう時計作りをして欲しい」。そう答えたところ、彼女はニヤリと微笑んだ。今後、大きく変わるであろうタグ・ホイヤー。「タグ・ホイヤー オンリーウォッチ カーボン モナコ」とは、まさにその先駆けとなるはずだ。


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