ヴァシュロン・コンスタンタンが紡ぐ天空の時 第1回「レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー」

FEATURE本誌記事
2022.10.04

現代のヴァシュロン・コンスタンタンが、19世紀に隆盛を極めた高級時計製造の伝統を受け継ぐ「レ・キャビノティエ」を復活させたのは2006年のこと。一品製作の特注部門であるその工房からは、非公開を含む、数多くのユニークピースが生み出されてきた。
この連載では、そうした中からセレスティアルウォッチに焦点を絞り、ハイエンドウォッチメイキングの真髄に迫る。

レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー

レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー
2021年にキャビノティエで製作されたユニークピース。Cal.2755からダイアル側の永久カレンダーモジュールを取り去り、バックケース側に恒星時表示と星座盤を追加。ダイアルには獅子座を象ったギヨシェ彫りが施される。手巻き(Cal.2755 TMRCC)。38石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約58時間。18KWG(直径45mm、厚さ15.1mm)。世界限定1本。
Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


王の星座を象るスカイチャート

レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー

 2000年代以降のヴァシュロン・コンスタンタンには、聖杯と呼ぶべきふたつのムーブメントが存在した。腕時計の分野では、創業250周年を祝う2005年に発表された「トゥール・ド・リル」のキャリバー2750がその最高峰だろう。懐中時計にまで視野を広げるなら、同じく創業260周年時に登場した「Ref.57260」が極北として挙げられる。何よりも重要なことは、その血脈を受け継ぐ超複雑時計の数々が、現代も作り続けられているということだ。

レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー

 2005年にキャリバー2750を完成させたヴァシュロン・コンスタンタンはその技術資産を下敷きとして、翌06年から顧客の要望に応じたユニークピースを一品製作する「アトリエ・キャビノティエ・スペシャルオーダー」サービスを開始。当時アンティコルムの副チェアマンを務めていたドミニク・ベルナスを招聘して工房の責任者に置いた。そこで作られた逸品の数々は、その特性から非公開となることが多かったのだが、14年からビスポークの手法をプレタポルテに転用したユニークピースのコレクション「メートル・キャビノティエ」を製造開始。現在は両者を包括した「レ・キャビノティエ」とその名を改めている。

 ヴァシュロン・コンスタンタンのビスポーク工房として発展してきたキャビノティエで、最も多く用いられてきたムーブメントがキャリバー2755系だ。これは16もの複雑機構が搭載されたトゥール・ド・リルのキャリバー2750をベースにして、複雑機構をトゥールビヨンとミニッツリピーターのみに絞り込んだエボーシュであり、そこに顧客の要望に合わせた付加機構を追加することで、多様なユニークピースが生み出されてきた。

Cal.2755 TMRCC

Cal.2755 TMRCC
レ・キャビノティエで最も多く用いられてきたCal.2755系のムーブメント。このモデルでは、通常ダイアル側に重ねられている永久カレンダーモジュールを備えないため、ミニッツリピーターの読み取り機構がよく見える。右ページの写真はバックケース側に置かれるスカイチャートモジュールで、6時側の楕円内が、北半球から見える星座の位置となる。総パーツ数は413点。

 2021年に発表された「レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー」もそうした中の1本で、バックケース側に巨大なセレスティアルディスクを置いている。星座盤は1恒星日に相当する23時間56分04秒で、反時計回りに1回転し、バックケースのベゼル部分には10分間隔で24時間目盛りが刻まれている。サファイアクリスタルディスクに設けられたオフセンターの楕円は、こうしたセレスティアルウォッチには不可欠なもので、時計の示す時間に北半球で見られる星座の位置を、擬似的に表示するのに用いられる。星座盤の外周にあるのはカレンダーディスクだが、目盛りの幅が不均一になっているのは、月の大小に対応させるためだ。

 ダークブルーのオパーリンダイアルに描かれるのは、手彫りのギヨシェ旋盤で彫り込まれた獅子座。古くから王権の象徴とされてきたこの星座を形づくる9つの恒星部分にはダイヤモンドが埋め込まれているが、面白いのは天空に浮かぶライオンのイメージを、幾何学的なタッチのギヨシェ彫りで表現していること。ベゼルやラグ、リュウズ、ミニッツリピーターのスライダーに施された計100個のバゲットカットサファイアと相まって、静謐なイメージを醸し出してくれる。

レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン・スカイチャート 獅子座ジュエリー

プラン・レ・ワットの本社工房内に置かれたメティエ・ダール部門で製作されたダイアル。ハンドギヨシェで獅子座を彫り込み、恒星とアワーマーカーの部分にダイヤモンドを埋め込む。ケースやラグに施されたバゲットカットサファイアのジェムセッティングも、同じくメティエ・ダール部門の仕事となる。


広田ハカセの「ココがスゴイ!」

広田雅将

広田雅将 [クロノス日本版 編集長]
1974年、大阪府生まれ。2ちゃんねるのコテハンとして活躍した後、脱サラして時計ジャーナリストに転身。いつの間にやら業界ご意見番に。多くの時計専門誌に寄稿する傍ら、『クロノス日本版』では創刊2号から主筆を務める。2016年より編集長に就任。

 ヴァシュロン・コンスタンタンの特注工房「キャビノティエ」は、毎年驚くほどの複雑時計を製作している。機構やデザインはもちろんだが、傑出した仕上げにも一層磨きがかかっている。繊細に抜かれたレバー類や深い面取りなどは、本工房の作品を一層魅力的に見せる要素だ。機械式時計の最盛期でさえ望むべくもないユニークさと完成度を誇るレ・キャビノティエの創作は、現代の聖杯といっても過言ではない。(広田雅将:本誌)


Contact info: ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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