オーデマ ピゲ、伝説へのマイルストーン「ふたつのアイコン、ふたつの節目」

FEATURE本誌記事
2023.06.08

今年、オーデマ ピゲを代表するふたつのコレクションが、それぞれ節目を迎えた。ひとつは誕生5年目の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。そしてもうひとつが、誕生30周年となる「ロイヤル オーク オフショア」だ。記念すべき2023年に送り出された新作は、どれもオーデマ ピゲのアイコンを祝うにふさわしい完成度を誇る。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ

(左)CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ
シグネチャーカラーの「ナイトブルー、クラウド50」モデル。3つあるインダイアルのうち、6時位置のスモールセコンドのみグレーとすることで、クロノグラフ用の積算計とひと目で見分けられるようにしている。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.6mm)。3気圧防水。434万5000円(税込み)。
(右)CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック
SSモデルでは唯一のグラデーション文字盤を持つのが、セラミックスとのコンビネーションモデルだ。ミドルケースのほかに、リュウズにもブラックセラミックスが使用される。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×セラミックケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。346万5000円(税込み)。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
細田雄人(本誌):取材・文 Edited and Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]


CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ

 2019年のSIHHで話題を集めた「CODE 11.59 バイ オーデマピゲ」(以下、CODE 11.59)も、ついに登場から5年目の節目を迎えた。発表当初は賛否の飛び交った同シリーズだったが、実際に愛好家の手に触れる機会が多くなるに連れ、市場に受け入れられていったのも記憶に新しい。過去のオーデマ ピゲのプロダクトを総括した、しかし全く新しいデザインを持つ腕時計。発表当時、一風変わった扱いを受けていたCODE 11.59も、今やブランドを代表するコレクションのひとつとなった。

CODE 11.59

SS×セラミックケースモデルは3針、クロノグラフともにスモークベージュ文字盤を採用する。基本的にCODE 11.59のSSモデルは文字盤の着色にPVDを用いるが、スモークベージュのみベースカラーをガルバニックで施したのち、ブラックラッカーを塗布してグラデーションを付ける。ラッカーを吹き付けても、文字盤のスタンプにダレは一切見られない。

 そんなCODE 11.59の5年目は、これまでで最も革新的な年かもしれない。というのも、ケース素材は18Kゴールドもしくはセラミックスというこれまでの慣例を破り、初めてステンレススティールを使用したのである。これまでCODE 11.59 がスティールをケースに用いてこなかった理由は、マーケティング的な意味合いだけではなく、凝った形状のケースデザインが大きかったと考えていた。ゴールドより硬いステンレススティールで、8角形のミドルケースやラグと一体化したベゼルを切削によって成形することは技術的に難しい、と。

 しかし、実際はそうではなかったようだ。掲載カットを見ても明らかなように、ケース構造を変えることなく、オーデマ ピゲは見事にCODE 11.59のケースをステンレススティールで再現してみせたのである。ミドルケースの面と面が重なり合う8つの角が見事に切り立っているなど、仕上げの質は18Kゴールドと遜色ない。

SSケースでも独特のケース構造は変わらず、ラグはベゼルと一体成形される。ミドルケースの稜線にポリッシュが入れられる点も同じだ。

 ケース素材の変更に合わせて、既存モデルとの差別化を図ったのが文字盤だ。CODE 11.59といえば磨き上げられたラッカー文字盤も特徴のひとつだったが、ステンレススティールモデルでは、プレスによってパターンを型打ちし、その上からPVD(ベージュ文字盤のみガルバニック)で色を載せている。塗装にしなかったのは深く打ちつけた型の立体感を損なわないためだろう。ラッカーと比べ、薄い皮膜を作るこれらの手法は、パターンのエッジをスポイルすることなく、文字盤の着色を可能にした。光の当たり方で表情を変える平滑なラッカー文字盤も魅力的だが、かつてSSケースを持つロイヤル オーク オフショアが、エンボスによるパターン文字盤をブランドの象徴にまで育て上げたことを考えれば、CODE 11.59のSSモデルには、このエンボス文字盤の方がしっくりくる。

SS×セラミックスのケース側面。異なる素材ながら、サテンの仕上げがそろえられている。

 既存のモデルとは素材もキャラクターも異なる、新バリエーションの誕生。これはCODE 11.59が、今後数十年にわたりアイコンとしてブランドを引っ張っていくために必要不可欠な挑戦である。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック
こちらはグリーン文字盤モデル。色味はカーキに近く、テキスタイル調の同色ストラップと組み合わせることによって、落ち着きのある仕上がりを得た。なお、SSモデルではインデックスと時分針に蓄光塗料を塗布する。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。313万5000円(税込み)。


オーデマ ピゲ 日本特別コンテンツ
オフィシャルウェブサイト内の日本特別コンテンツでは、「時計のはなし」やスタイリング提案を公開中。


30周年を迎えた〝ビースト〟

ロイヤル オーク オフショア

(左)ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
30周年を記念して現行モデルに加わった新色。直径43mmと大ぶりだが、手首に沿うケース構造と軽量なセラミックスのため、装着感は良好だ。接触面が大きく取られたプッシュボタンのおかげで、クロノグラフの操作感にも優れる。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックス×18KYGケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。748万円(税込み)。
(右)ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
初代オフショアを復刻したRef. 26238CE。オフショアとしては初のフルセラミックモデルでもある。ケース素材とムーブメント以外はケースのエッジの立ち方まで含めて、忠実に再現されている。外装のクォリティを見れば、価格も納得だ。自動巻き(Cal.4404)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックケース(直径42mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。1045万円(税込み)。

「ロイヤル オーク オフショア」のアニバーサリーイヤーを祝うのは、オリジナルモデルである“ビースト”の復刻モデルと、オリジナルの正常進化モデルという、ふたつの「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」だ。ここではオフショアの歴史を簡単に振り返ったうえで、今年の新作であるこの2モデルの特徴を見ていきたい。

ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
1999年発売のアーノルド・シュワルツェネッガーとのコラボレーションモデル「エンド オブ デイズ」をモチーフにした限定品。オフショアの人気を決定的にした名作を彷彿させる。ムーブメントスペックはレギュラーモデルに同じ。ブラックセラミックス×Tiケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。世界限定500本。748万円(税込み)。

 昨年の「ロイヤル オーク」50周年に続いて、誕生30周年を迎えた「ロイヤル オーク オフショア」。そもそもロイヤル オーク オフショアは、ジェラルド・ジェンタによってデザインされたロイヤル オークを若者向けに仕立て直したい、という当時のCEOステファン・ウルクハートの命によって、開発がスタートしたモデルだった。リデザインに当たったのは当時、社内デザイナーだったエマニュエル・ギュエ。今でこそ名デザイナーと評される彼だが、計画がスタートした1989年時点ではまだ22歳と若く、これが事実上の初作品であった。

エマニュエル・ギュエ

22歳にして初代ロイヤル オーク オフショアのデザインを任されたエマニュエル・ギュエ。ロイヤル オークを拡大し、若者受けのするマッシブなスポーツウォッチを生み出した。バーゼル・フェアに並べられたオフショアを見て、ロイヤル オークをデザインしたジェラルド・ジェンタが怒鳴り込んできたのは有名な話だ。 

 今でこそ信じ難いが、ギュエによって生まれ変わったロイヤル オーク オフショアは、かつてのロイヤル オークや後年の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」同様にデビュー当初、否定的な声が多かった。直径42mmのケースが当時としては異例な大きさだったことに加え、価格も並行して販売されていたロイヤル オーク Ref.14790の約2倍だったというから、同作の成功を疑問視する声が多かったことも無理はないだろう。しかし、結果は周知の通り。ロイヤル オーク同様にイタリア市場を起点に売り上げを伸ばしていった“ビースト”は、オーデマ ピゲが若年層の新しい顧客を獲得することに貢献したのだ。

インターチェンジャブル機構

現行のロイヤル オーク オフショア クロノグラフに採用されるインターチェンジャブル機構。ロイヤル オークおよびオフショアのデザイン的特徴であるスタッズに、ストラップの取り外し機能を与えている。デザイン面、機能面共に、現在流通する各社のインターチェンジャブル機構の中でも最高峰だ。

 そんなロイヤル オーク オフショアのアニバーサリーイヤーを祝うにふさわしい新作が、3つの「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」だ。ひとつは初代ビーストをオフショア初のフルセラミックスで復刻したRef.26238CEである。同作ではプチタペストリーの文字盤や通称“ジェンタ針”といった、初代ならではの意匠が忠実に再現されている。同作を手に取れば、ギュエがどんな意図を持ってロイヤル オークを拡大し、厚みを持たせ、マッシブなオフショアを生み出したのかが伝わってくる。

Ref. 26238CEのセラミックブレスレット。各パーツの成形精度から仕上げ、コマの遊びに至るまで、やはりセラミックス製ブレスレットとして最上級の完成度を誇る。ラグとブレスレットで筋目の細かさが異なるのは、オリジナルへのオマージュだ。

 対して2型がラインナップされるRef.26420CEは、ビーストの正常進化モデルとも言うべき存在だ。太くなった「AP」ロゴやメガタペストリー文字盤など、オフショアのマッシブさをより強調したデザインは、次世代型オフショアの在るべき姿を反映したと言える。

 なお、初代復刻デザインの26238CEと、新デザインを持つ26420CEは同じセラミックケースながら、明確に設計思想が異なっている。前者はケースの角が切り立っており、非常にシャープに仕上げられているのに対して、後者の角は適度に落とされているのだ。26238CEのケースの立ち方は、間違いなく1990年代の価値観を踏襲した、まさに復刻と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。しかし、半面、装着感は肌あたりの良い26420CEに分がある。ケースデザインに人間工学を取り入れ、秀でたインターチェンジャブルストラップ機構を採用する現行オフショアのレギュラーモデルとしてはこちらの方が正統だ。

Ref.26420CEの文字盤。オリジナルでは“プチ”だったエンボス加工が、メガタペストリーへと大型化している。また、ロゴも太くなるなど、全体的によりマッシブな方向へ調整されているのが分かる。

 今やブランドを代表するアイコンにまで成長したロイヤル オーク オフショア。ロイヤル オークを仕立て直すというアイデアからスタートしたオフショアが、ひとつのコレクションとしてこれほどまでに発信力を持てたのは、プロダクトのコンセプトが明確に設定されていたからだ。それを何よりも物語っているのが、前述した26238CEと26420CEの、異なるケース仕上げなのである。

ロイヤル オーク オフショア 30年間の歩み

1993年 ロイヤル オーク オフショア デビュー①
1996年 6モデルが追加で発表
2003年 10周年の年に、スイスのヨットチーム、アリンギとのコラボ
レーションモデルRef.25995IPが登場②
2005年 ミュージシャンのジェイ・Zとのコラボレーションモデル
Ref.26005を発表。ミュージシャンとの協業はこれが初
2013年 20周年の年に、NBL選手のレブロン・ジェームス限定モ
デル、Ref.26210が登場③
2023年 デビュー30周年を記念したRef.26420が発表される


ロイヤル オーク オフショア 30周年オリジナルコンテンツ
オフィシャルウェブサイト内では、今年30周年を迎えたロイヤル オーク オフショアの歴史をまとめたオリジナルコンテンツを公開中。


特別展示「ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み」
銀座ブティックでは30周年を記念した特別展示「ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み」を開催中だ。


Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


2023年 オーデマ ピゲの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/93578/
オーデマ ピゲ 止まらない躍進「ロイヤル オーク×アイコニックデザイン」

https://www.webchronos.net/features/87092/
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」を創る数字の秘密

https://www.webchronos.net/watchaddict/82323/