「タグ・ホイヤー カレラ」新章幕開け 60周年に証明された圧倒的オリジナリティー(後編)

2023.06.19

1963年の誕生以来、クロノグラフのタイムレスなアイコンとして存在感を放ち続けて60年。「タグ・ホイヤー カレラ」は、偉大なヘリテージを継承しながら、進化の道を自ら切り開いてきた。革新的な時計づくりに反映されているのは、TAG(テクニック・アヴァンギャルド)すなわち最先端技術だ。60周年を迎えて展開するコレクションを通じて、その新しい世界をひもとく。

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura (P.125, P.132)
菅原茂:文 Text by Shigeru Sugawara
安部毅:編集 Edited by Takeshi Abe
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]


開けた視界で際立つ複雑機構

「カレラ」60周年記念のハイライトといえば、トゥールビヨンを搭載するクロノグラフ。「グラスボックス」の下にブルーダイアルと複雑機構が展開し、その眺めは格別だ。搭載するムーブメントは、巻き上げ効率を改良した自社製の自動巻きキャリバーTH20-09。トゥールビヨン搭載のスポーツウォッチとして完成度も抜群なのである。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン

新たに開発されたモダンヴィンテージとも言うべきデザインによって、フェイス全体がシンプルに整理されたことに加え、両面無反射コーティングの「グラスボックス」型サファイアクリスタル風防が導入されたことで、6時位置のトゥールビヨンが一段と際立って見える。

「カレラ」のトゥールビヨンといえば、タキメータースケールのベゼルを配し、スポーティールックやハイテクを強調した「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T クロノグラフ トゥールビヨン」という人気モデルが2016年からコレクションに存在しているが、新作トゥールビヨンは、60周年を記念してローンチされた斬新なデザインコードを用い、性能が向上した自社製の新型ムーブメントが特色の進化版である。

 外観の際立った特徴は、ケースの縁まで広がり、ベゼルレスの構造を実現する、「グラスボックス」と呼ばれるドーム型サファイアクリスタル風防だ。このユニークな風防がトゥールビヨン搭載モデルに用いられるのは今回が初めてだ。また新作ではタキメータースケールがなく、ベゼルレスで、42mm径ケースの縁ぎりぎりまでサファイアクリスタルで覆われているので、ダイアル面は広大で、クロノグラフの積算計のみならず、6時位置に搭載されたトゥールビヨン機構とその回転運動も一段とクリアに見渡せる。

Cal.TH20-09

「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン」に搭載されているCal.TH20-09。

 新しいトゥールビヨンムーブメントのCal.TH20-09は、ホイヤー02を改良したTH20-00と同様に、ホイヤー02Tをベースにしてアップデートを図ったもの。両方向巻き上げによる高効率の自動巻き機構、毎時2万8800振動、約65時間のパワーリザーブなどの特徴に加え、C.O.S.C.認定クロノメーターの高精度という申し分のないスペックだ。

 ダイアルのカラーリングも愛好者の興味を誘う。ダイアルのブルーとクロノグラフ秒針や目盛りの一部を彩る鮮やかなオレンジは、まさにモータースポーツ黄金期の1970年代に多くのバリエーションが誕生した自動巻き「カレラ クロノグラフ」を想起させるのだから。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン
60年代のオリジナルから想を得ながら、現代的に洗練したデザインコードを用い、巻き上げ効率の向上を図った自社製の新型ムーブメントを搭載する新作は、トゥールビヨン搭載「カレラ」でも従来とはまったく別物のイメージ。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.TH20-09)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。280万5000円(税込み)。


レースの世界を具現化する情熱色

 最新トゥールビヨンと同様に、モータースポーツ黄金期とされる時代の「カレラ」のイメージを当時の自動巻きクロノグラフによく用いられたブルーとオレンジで表現した最新作。鮮烈なカラーリングはカーレースの世界を象徴し、ダイアルを1周するグラデーションのオレンジのラインは、まるでレーシングカーの加速を彷彿させるディテールだ。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ

現行モデルの「タグ・ホイヤー カレラ キャリバーホイヤー02 クロノグラフ」をベースにした新作だが、「カレラ」60周年を記念し、オレンジをアクセントにした新たなカラーリングによって、レーシングクロノグラフのキャラクターをさらに強調している。

「カレラ」60周年を記念する新作コレクションには、1963年の初代モデルにインスパイアされたオリジナルデザインを用い、70年代の自動巻きモデルにしばしば用いられたカラーリングによってレーシングクロノグラフのイメージを強く打ち出したモデルも、そのラインナップに加わった。

 ヴィンテージ感とともにスタイリッシュな表情を際立たせるのは、ブルーとオレンジの組み合わせだ。オレンジは存在感溢れる三角形のクロノグラフ秒針をはじめ、30分と12時間積算計の針、スモールセコンドの秒目盛りなどに用いられているが、このモデルを一段と魅力的に見せるのは、アプライドインデックスとダイアル外周の4分の1秒目盛りとの間に走るオレンジのラインである。そのオレンジも、12時位置から時計回りに淡色から濃色へと変化するグラデーションを描きながら1周するという、非常に凝ったデザイン。まさにそれが加速するレーシングカーのスピードを連想させるのだ。このダイアルには、オレンジの色使いは同一で、サンレイ仕上げのブルーとブラックの2種類があり、ダイアルとトーンを合わせたカーフスキンストラップもスポーティーな表情を醸し出す。

Cal.ホイヤー02

「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」に搭載されているCal.ホイヤー02。

 ステンレススティールケースは、2020年発表の直径42mmバージョンと同様の2ピースケースで、グラスボックス型のサファイアクリスタル風防は使われていない。

 そして、搭載されるのは自社製自動巻きキャリバー ホイヤー02。タグ・ホイヤーのシュヴネの工場で一貫して製造され、コラムホイールや垂直クラッチなど168の部品から構成される自社製ムーブメントだ。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ
モデル名は39mm径ケースの最新作と同一だが、42mm径ケースの現行モデルにレーシングクロノグラフのイメージを強調する色使いを施し、軽快なカーフスキンストラップを組み合わせた。自動巻きムーブメントのCal.ホイヤー02を搭載。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。72万500円(税込み)。


〝個〟に寄り添うための進化と改良点

「タグ・ホイヤー カレラ」には、アイコニックなデザインに現代的な洗練を加えた3針モデルも新登場。ケース径はかつてのオリジナル「カレラ」と同じ36mm。そこに程よいサイズと装着感が快適なブレスレット、さらにファッショナブルなカラーダイアルを採用している。デザインを一新し、ムーブメントも改良した「タグ・ホイヤー カレラ デイト」は、性別や年齢を問わずに着けられる万能のシンプルウォッチだ。

タグ・ホイヤー カレラ デイト

「タグ・ホイヤー カレラ デイト」は、トーンの異なる4色のダイアルカラーを展開。サンレイサテン仕上げのシックなシルバーは、ローズゴールドプレートの時針と分針、アプライドインデックス、グレーラッカー仕上げのセンター秒針を装備。
タグ・ホイヤー カレラ デイト

スネイル仕上げの鮮やかなビブラントピンクは、時針と分針、センター秒針、アプライドインデックスをロジウムプレートで統一。

 タグ・ホイヤーは「カレラ」60周年を記念する一連のクロノグラフのみならず、クロノグラフを装備しないシンプルな3針デイト表示付きの自動巻きモデル「タグ・ホイヤー カレラ デイト」についてもリデザインとアップデートを行った。デザインのほかに、エンジニアが取り組んだ改良点は着用感だ。

 まずはケース。現行モデルで用いられている36mmという直径はそのままに、プロポーションが見直された。「カレラ」の特徴的なラグの上端から下端までの全長を43.55mmから41.6mmに変更。約2mmという目視では変化に気付かないほどの微妙な切り詰めである。全厚も2mm薄い10mmになった。厚さにおける2mmの差はけっこう大きく、腕に着けるとすぐに薄さが実感できるだろう。

タグ・ホイヤー カレラ デイト

ニュアンスに富むサンレイサテン仕上げのパステルグリーンもローズゴールドプレートの時針と分針、センター秒針、アプライドインデックスを採用。ダイアル外周のフランジも同色で揃えられているため、ダイアルに一層の広がりを感じる。
タグ・ホイヤー カレラ デイト

タグ・ホイヤーらしいサンレイサテン仕上げのブルーはローズゴールドプレートの時針と分針、センター秒針、アプライドインデックスを装備。

 新たなプロポーションを得た新型ケースに合わせて、リュウズはケースと隙間なく収まるように改良され、サテンとポリッシュ仕上げのブレスレットもケースとの連続性や一体感がいっそう強調されている。人間工学のアプローチによって誰もが快適に着用できる腕時計としての最適値を導き出し、エレガントな美観にも十分に注意を払った結果、最新の「タグ・ホイヤー カレラ デイト」は、改良の余地を残さないほどの完成度を手に入れた。小径ケースと普遍的デザインの融合は、近年のトレンドのひとつに数えられるが、その新定番になりうるだろう。

タグ・ホイヤー カレラ デイト

装着感の改良に取り組んだ新型ケースは、従来の直径36mmをキープしながら、ラグからラグまでの全長を43.55mmから41.6mm に切り詰め、厚さも2mm 薄い10mmへとスリム化された。ブレスレットもケースとの一体感や装着感に一層の注意が払われている。

 そして、新しさといえばダイアルも同様だ。「カレラ」に共通のデザインコードを保持しつつ、伝統的なモノクロームのダイアルから脱却し、大胆かつ新鮮なカラーリングを展開している。昨今の時計市場では既成概念にとらわれないカラーダイアルの全盛期だが、タグ・ホイヤーがここで選んだのは4色。シルバー、スネイル仕上げのビブラントピンク、シャイニーなサンレイサテン仕上げのブルー、そしてパステルグリーンである。4分の1秒目盛りを配したダイアル外周のフランジも同じカラーで彩られている。連続するカラーによって、フェイス自体が外に向かって広がっていくような視覚的効果を生み、小ぶりなサイズを上回る存在感を感じさせるところも巧妙だ。

Cal.7

Cal.7
トランスパレント仕様のケースバックから見えるのは自動巻きムーブメントのCal.7。従来のモデルに搭載されていたCal.5の約38時間よりも長い、約56時間のパワーリザーブが備えられ、実用面での性能がさらに向上した。

 ムーブメントの性能向上も「カレラ」60周年のテーマのひとつだが、ここでも自動巻きムーブメントを刷新。従来モデルに搭載のCal.5を最新作ではすべてCal.7に置き換え、パワーリザーブを約38時間から約56時間へと延ばした。またこの変更に伴い、日付表示が3時位置から6時位置に移動した。

 タイムレスなデザイン、着けやすさ、高性能が揃った最新モデルは、時計愛好家にとって魅力的な選択肢になるだろう。

タグ・ホイヤー カレラ デイト

タグ・ホイヤー カレラ デイト
着けやすく、装着感に優れる36mm径の新ケースを採用し、メンズやレディースといったカテゴリーを超えるモデルとしてコレクションに加わったシンプルな3針「カレラ」。日常使いに適した万能腕時計の新定番だ。自動巻き(Cal.7)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径36.0mm)。50m防水。39万6000円(税込み)。


加速する「カレラ」のアヴァンギャルド

 昨年に続き、天然ダイヤモンドと同じ成分と組成を持つラボグロウンダイヤモンドを大胆に用いた「カレラ」の新作が2種類発表された。トゥールビヨン搭載クロノグラフは、前作を凌駕する衝撃的なデザインだ。そしてハイテクダイヤモンドは、直径36mmの3針モデルにもセッティング。最上位の複雑時計とシンプルウォッチ、ふたつの「カレラ」を演出するテクニックに、アヴァンギャルドの真骨頂が見て取れる。

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ
「カレラ プラズマ」第2弾。CVDテクノロジーをさらに発展させ、ダイアルのインデックス、ケース、ベゼル、リュウズ、ブレスレットに特異な形状のアヴァンギャルドダイヤモンドが合計124個もセットされている。自動巻き(Cal.ホイヤー02T ナノグラフ)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。アルマイトケース(直径44mm)。要価格問い合わせ。

 2022年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表された「タグ・ホイヤー カレラ プラズマ トゥールビヨン ナノグラフ」は既成概念を覆す、まさにアヴァンギャルドの極致をゆくものだった。それからわずか1年、早くも次の衝撃作がベールを脱いだ。最先端の化学蒸着CVDテクノロジーをさらに発展させ、ケースやリュウズ、多結晶ダイヤモンドのプレートから成るダイアルのインデックスだけでなく、ブラックのアルミニウム製ベゼルやブレスレットにディアマンテ ド アヴァンギャルドの特異な形状をしたラボグロウンダイヤモンドを合計で124個あしらった新作である。その名も「タグ・ホイヤー カレラ プラズマ」。

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ

ディアマンテ ド アヴァンギャルドと呼ばれる化学蒸着(CVD)技術から生み出されたラボグロウンダイヤモンドは、天然のダイヤモンドと同じ成分、同じ組成を持つ。独創的な形状はレーザーによるカッティングによるものだ。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ

ケースバックから見える自社製ムーブメントのCal.ホイヤー02T ナノグラフは、カーボン製ヒゲゼンマイを装備する。

 宝石で時計を装飾する一般的なジュエリーウォッチの概念とは完全に異なり、先端技術による前衛アートの作品という趣だ。搭載するキャリバー ホイヤー02トゥールビヨン ナノグラフは、前作と同じ。非磁性で衝撃や温度変化への耐性に優れるカーボン製ヒゲゼンマイを装備し、内部の機構もまさに最先端を物語る。

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ

サンドブラスト加工を施したブラックのアルミニウム製のベゼルに26個、ケースに48個、ブレスレットに34個のラボグロウンダイヤモンドが輝く。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ

リュウズには、形状に合わせた2.5カラットもの巨大なラボグロウンダイヤモンドが。天然ダイヤモンドで同じことはまず不可能だ。

 天然ダイヤモンドと同じ地質環境をラボで再現して創るラボグロウンダイヤモンドを生かしたもうひとつのモデルは、今回初登場のシンプルな3針自動巻きの「カレラ」だ。そして、ここにも一歩進んだ技術を披露する。時計業界では初という淡いピンクのラボグロウンダイヤモンドをタグ・ホイヤーの盾型ロゴとリュウズに使用しているのだ。

 人間が最先端技術で創った宝石は、ラグジュアリーの可能性をさらに押し広げた。タグ・ホイヤーにおいて加速するアヴァンギャルドはまた、持続可能なラグジュアリーにも貢献するのだ。

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ド アヴァンギャルド 36mm

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ド アヴァンギャルド 36mm
36mm径ケースの3針「カレラ」は、淡いピンクのラボグロウンダイヤモンドをタグ・ホイヤーのロゴとリュウズに採用。また多結晶ダイヤモンド製ダイアルのインデックスにもラボグロウンダイヤモンドをセット。自動巻き(Cal.7)。パワーリザーブ約56時間。18KWGケース。要価格問い合わせ。



Contact info: LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054


2023年 タグ・ホイヤーの新作時計まとめ

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タグ・ホイヤー「カレラ」の新作は、見た目よし、中身よし、価格よしの大金星!

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アイコニックピースの肖像 タグ・ホイヤー/カレラ

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