パテック フィリップ/ノーチラス

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.05.03

生まれ変わったカレントピース

Ref.5711/1A

Ref.5711/1A
2006年初出。最新版では、ムーブメントがCal.315 SCからCal.324 SCに置き換わっている。またノーチラスを特徴付ける2ピースケースが廃され、3ピースケースとなった。これは2006年以降のノーチラスに共通した特徴である。従来モデル同様、ケースやブレスレットの加工精度は極めて良い。自動巻き。SS(径40mm/10時から4時方向で計測、厚さ8.3mm)。120m防水。279万円。
Cal.324 SC

Cal.324 SC
Cal.310 SC、330 SCに始まる薄型センターセコンド自動巻きの完成形。315 SCの振動数を高め、携帯精度をより高めている。315 SCの数少ない弱点とされた「振り当たり」は、324でほぼ解消された。簡潔にして堅牢な設計を持つ名機。片方向巻き上げ自動巻き。直径27mm、厚さ3.3mm。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。

 オリリジナルにほぼ同じディメンションを持つのが、最新作のRef.5711/1A(Aはステンレスを指す)である。初出は2006年だが、最新版のムーブメントは315 SCから、324 SCに置き換わった。ジャイロマックス式のフリースプラング、片巻き上げ自動巻きという特徴は330 SCや315 SCに同じだが、振動数は2万8800に高振動化している。そのため携帯精度はより向上した。また基本設計が1970年代にさかのぼるため、信頼性も極めて高い。28-255Cほどの審美性は備えていないが、ノーチラスという「スポーツウォッチ」には、より相応しいムーブメントだろう。

 外装も、オリジナルとは若干異なる。ケースのサイズは43㎜に拡大し(オリジナル+1㎜)、左右の「耳」は膨らみを帯びた。また風防のカットもより鋭角になっている。ケースの変更に呼応するように、インデックスや針も、若干大ぶりになった。つまり05年の3711/1Aのケースを拡大し、ややマッシヴに改めたのが、5711/1Aと言える。

 細かな変化は枚挙にいとまがない。ブレスレットの各コマは若干短くなり、ノーチラスの美点であるフィット感はより向上した。またバックルを固定するベアリングも、摩耗しにくいセラミック製ボールに替わっている(色が白いことで判断できる)。いずれもわずかな違いだが、実用性を重んじるパテックらしい改良と言えそうだ。しかし、ノーチラスを特徴付ける薄いケースは一貫して不変であり、時計全体の印象や装着感は、3700にかなり近い。

 オリジナルの意匠に、高い実用性と、より優れた装着感を両立させた5711/1A。これこそ、デザイナーであるジェラルド・ジェンタが70年代に夢見た、ノーチラスの完成形と言って過言ではないだろう。

(上左)オリジナル同様、18KWG製のインデックスと針を備える。エッジの効いた風防は、加工精度の向上を反映している。(上右)現在のSS素材は316L。クロムの含有量が高いため、白っぽく見える。(下左)マッシヴになったベゼルと「耳」。(下中)3ピース化されたケース。これにより、分割式の巻き芯を持たないCal.315系の搭載が可能となった。(下右)2006年モデルから一新されたブレスレットとバックル。コマが若干短くなっている。