ゼニス/エル・プリメロ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.10.26

El Primero New Vintage 1969 Original
誕生40周年に復刻された限定モデル

エル・プリメロ ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル

エル・プリメロ ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル
2009年発表の限定モデル。エル・プリメロ40周年を記念して、18KRG/250本、SS/500本、Ti(ブラックPVD)/250本が製作された。“原点回帰”という流れを作った1本である。ケースや文字盤の質感も高いが、現行品はさらに良好。Cal.400Z以降のムーブメントは信頼性も大きく高まった。自動巻き(Cal.469)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径40mm)。5気圧防水。参考商品。

 ジャン-フレデリック・デュフール氏が前CEOに就任して以降、原点回帰を目指すゼニス。そんな同社の転換点となったのが、2009年発表の「ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル」だろう。企画はティエリー・ナタフ氏の時代だが、このモデルの成功が後のゼニスを変えたことは想像に難くない。先達が残した良き遺産のひとつであろう。このモデル、ケース形状はA384を踏まえているが、直径を40㎜に拡大。またダイアルのデザインはA384ではなく、同じく1969年に発売されたA386に範を取っている。インダイアル(とりわけ12時間積算計)が拡大され、文字盤の外周にも斜めに成形されたリングが設けられた。風防の盛り上がりはA384より控えめだが、このリングのおかげで、見返しは決して過剰に見えない。厳密な意味での復刻版ではないが、オリジナルのエッセンスを見事に抽出した記念モデルと言える。

 加えて外装の作りもかなり良質だ。立体的な風防はプレキシガラスからサファイアガラスに置き換わり、サテンとポリッシュを併用したケースは表面も平滑となった。ダイアルの印字も、旧来よりはるかに改善された印象を持つ。ナタフ時代の同社は、針のペイントに赤を多用したが、いずれも面に歪みがあった。しかし09年のこのモデルは例外的に良質だ。もちろん最新型のムーブメントを搭載するため、信頼性も大きく高まっている。

 かつての意匠に、優れた質感と、高い完成度を盛り込んだニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル。残念ながらこれは限定版だが、その点を嘆く必要はなさそうだ。というのも現在のエル・プリメロ搭載機は、これよりいっそう高い質感を持っているうえ、価格も控えめなのである。トータルバランスから考えても、現在のエル・プリメロは本当に買うべき時計となったのである。

(左上)A386に範を取った文字盤。斜めに切ったリングを外周に配し、見返しの幅を抑えている。重なり合うインダイアルは現行品も同じだが、視認性の観点から言うと、このモデルの方が勝っている。30分積算計を12時間積算計の上に重ねることで、それぞれの積算表示がはっきり読み取れる。筆者は現行のゼニスを大変好むが、この点だけはニュー・ヴィンテージの仕様に戻して欲しい。
(右上)緻密なダイアル。オリジナルはほとんどマット仕上げだが、このモデルでは若干ツヤが加わった。印字は立体的ではないが、エッジに歪みはなくクリアな印象だ。
(中)ケースサイド。造形はオリジナルのA384にほぼ同じだが、ケース径は3mm拡大されている。プッシュボタンが大きくなり、併せてミドルケースもやや厚くなった。風防はプレキシガラスからサファイアガラスに変更されている。
(左下)ファーストを忠実に模した裏ブタ。しかし90年代以降のゼニスはトランスパレントバックが標準となっている。現在は改善されているが、このモデルではまだ刻印が細く、彫りも浅めだ。ムーブメントナンバーの「469」は、発表年にちなんだ復刻版専用のものだが、内容はZスペックのCal.400と同一。
(右下)斜めに切り立った文字盤外周のリング。高品質な印字は写真が示す通り。