シャネル/J12

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.05.14

J12 PHASE DE LUNE
ムーンフェイズを搭載するブランニュー

J12 ファーズ ドゥ リュヌ
ポインター式のデイトとムーンフェイズ表示を備えた新作。搭載する機構はコンベンショナルだが、この時計はディテールが際立って良い。立体感と仕上げという現在のシャネルの文脈を忠実にトレースしている。インデックスと完全に重なった針にも注目。他モデルからの流用ではなく、新規に起こしたものだろう。自動巻き。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ハイテク セラミック(直径38mm)。100m防水。91万2500円。

 2013年に発表されたプチコンプリケーションが「J12 ファーズ ドゥ リュヌ」である。「J12 マリン」やハイ ジュエリーモデルを例外として、モノトーンを貫いてきたシャネル。しかし仕上げの多様化に合わせてか、このモデルではインデックスなどにブルーが彩色されている。

 J12 ファーズ ドゥ リュヌとは、言ってしまえばポインターデイト付きのムーンフェイズである。しかしありきたりの時計とならなかったのは、ここ数年の、細部に対するシャネルの執念故だろう。6時位置のムーンフェイズは、ムーンディスクが回転するのではなく、アベンチュリン製のサブダイアル上を針が回って月相を示すもの。こういった試みは過去にもあるが、シャネルらしいのは、鉱物がバランス良く散らばった良質のアベンチュリンを採用した点にある。星空に光る星を表現するには、石英に内包される鉱物がバランス良く散っている必要がある。筆者の見た限りだが、これほど良いアベンチュリンを採用したムーンフェイズは初めてではないか。加えてシャネルはその上にツヤのあるラッカーを吹き、表面を平たく均している。

既存のJ12に対して細くなったベゼル。加えて風防を固定する銀枠を太くすることで、実際以上にベゼルは細く見える。ベゼル上の数字はバーに変更された。

6時位置のムーンフェイズ。良質なアベンチュリンにラッカーをかけ、その上におそらくシールで4つのムーンフェイズを転写している。質感と立体感は見事というほかない。

 ツヤを強調したムーンディスクに対して、文字盤はやや強めのツヤ消し仕上げ。レイルウェイトラックとロゴは、おそらくシール転写となっている。マットな「地」と対比させるためにツヤを出したかったのだろう、針も塗装からロジウム仕上げとされている。

 やや意地の悪い見方になるが、完成された意匠とモノトーンという色彩故に、J12は初出のモデルを越えられないのではないかと筆者は疑っていた。しかしシャネルは本作で、筆者の想像を軽やかに越えてみせた。それを実現したのは、ジャック・エリュがいうところの「精密さ」に対する執念だろう。


J12 SUPERLEGGERA
完全刷新を遂げたスポーツクロノグラフ

J12 スーパーレッジェーラ
古典的な2カウンタークロノグラフに範を取ったスポーツウォッチ。2005年の初作はアルミニウム製のケースを持っていたが、新作はセラミック製。加えて時計としての立体感と質感も増した。このモデルが示すように、シャネルのディテールへの熱の入れようは、一般的な水準をはるかに超えている。自動巻き。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ハイテク セラミック(直径41mm)。200m防水。95万円。

 J12のラインナップからもうひとつ逸品を挙げるなら、「J12 スーパーレッジェーラ」になるだろう。2005年に発表された2カウンターのクロノグラフは、イタリア語で〝超軽量〟という名称にふさわしく、アルミケースを持っていた。筆者はその伊達な意匠を好んでいたが、惜しくもディスコンとなっていた。

 2013年に復活したスーパーレッジェーラは、ケースをセラミックに改め、マットさを強調したものである。加えてここ数年のJ12に同じく、時計としての立体感と質感をさらに向上させている。文字盤の外周にインナーリングを設けて立体感を増す手法は、07年の「J12 GMT」や、09年のJ12以降の流れを汲んだものである。しかしインナーリングの仕上げは明らかに異なり、ちりめん状のツヤ消し仕上げとなった。文字盤も同じ仕上げに変更され、それに対応させるためか、針やインデックスは筋目仕上げとなっている。ただし全面ツヤ消しとしなかったのは、シャネルらしいバランス感覚だ。お馴染みの銀枠は相変わらずツヤを持っており、加えてインナーリングに備えられた銀のドットも、やはりツヤありである。

ツヤ消しに変更されたケースとブレスレット。ベゼル外周のメタルリングも筋目仕上げに改められている。おそらくはJ12初となる、立体的な風防にも注目だ。

タキメーターを刻んだインナーリング。風防と接触する部分には夜光塗料が施されている。なおマット感を強調した文字盤にあって、銀枠とカボション状のドットはツヤありである。

 立体感への配慮も、いっそう進化をみせている。ふたつのインダイアルの枠は、文字盤からわずかに飛び出している。しかし文字盤とのつなぎ目を深く削り、銀の色を出すことで、実際以上に立体感を強調してみせた。

 ジャック・エリュが敬愛したガブリエル・シャネルは、かつてこう述べたという。「ファッションとは、直ちに使える面白いアイデアで構成されている。対してスタイルは、仮にそれが違うフォルムを帯びたとしても、永遠に残る」。J12の進化から見えてくるもの。逆説的な物言いになるが、そこから浮かび上がってくるのはJ12という〝不変のスタイル〟である。


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2020年 シャネルの新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/45457