ブルガリ「オクト」は、いかにして”ブルガリの新しいアンバサダー“となったのか

FEATUREアイコニックピースの肖像
2022.02.24

2012年に発表されたブルガリの「オクト」は、同社の新しいアイコンとして認知されただけでなく、今やさまざまなバリエーションを擁するに至った。2004年のニッチなモデルから始まったこのコレクションは、いかにして”ブルガリの新しいアンバサダー“となったのか。

オクト

吉江正倫、奥山栄一:写真
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第39回/クロノス日本版 2017年5月号初出]


OCTO
マニッシュさを象徴する〝ブルガリナイズ〟の原点

オクト

オクト
2012年初出。04年にリリースされたジェラルド・ジェンタ オクトのデザインを継承しつつも、スポーツウォッチの要素を加味した基幹モデルである。写真のモデルは、自社製ムーブメントを搭載した直径38mm版。自動巻き(Cal.ソロテンポ)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS。100m防水。81万円。

 2012年7月12日、ローマの中心部にある「コンプレッソ モニュメンターレ サント スピリト インサッシャ」で、ブルガリの新しい基幹コレクションとなる「オクト」が発表された。現在はミュージアムとして使われるこの旧病院は、バシリカ様式の建築と、八角形の天窓を持つ小部屋〝ティブリオ〟で知られていた。八角形とは、つまりオクトのケース形状である。

 当時CEOだったマイケル・バークはプレゼンテーションの口火をこう切った。「新しいオクトが象徴するのは、普遍的な価値です。そしてここローマは、永遠の都です」。続けて彼は力、美、そして永遠を語ったが、つまるところ、それがオクトの目指すものだった。

 もっともこのモデルの原型は、04年には存在していた。それがジェラルド・ジェンタ銘のオクトである。ブルガリ傘下となって初の新製品となった本作は、ジェンタ・デザインでこそなかったが、彼の好んだ八角形モチーフのケースを持ち、しかも外装はすべて切削で仕上げられていた。ウブロでさえケースを鍛造で作っていた04年当時、切削による多面体ケースを持つオクトは、極めて野心的な時計だったのである。

 ではこのモデルが、なぜブルガリの基幹コレクションへと脱皮を遂げたのか。時計部門の責任者を務めるグイド・テレーニは理由をこう語る。「(当時の)ジェラルド・ジェンタとダニエル・ロートはニッチなコンプリケーションを作っていた。00年、その両社をブルガリに統合するにあたって、もっと数を作ろうとなった。それがブルガリのオクトだ」。

 もっともブルガリは、04年の〝ジェンタ オクト〟を3針に改めただけで、新しい基幹コレクションになるとは考えていなかった。同社はそこに開発中の自社製ムーブメントを載せるだけでなく、バークが言うところの力と美、そして普遍性を加えたのである。

オクト

(左)オクトを特徴付ける、110ものファセットを持つケース。ケースを製造する旧フィンガー(現ブルガリ・マニュファクチュール)は、オクトのケースを新造するため、レコマティック製の全自動多軸CNCを導入した。(右)ブルガリ・ブルガリから転用されたインデックスとポリッシュラッカー文字盤。デザインセンターシニアディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ曰く「12と6にアラビア数字を用いたインデックスは、ブルガリのディテールである」。インデックスの上面には筋目仕上げが施された結果、視認性ははるかに向上した。

オクト

基本的なプロポーションは04年の“ジェンタ オクト”に同じだが、ラグの処理などが変更された結果、腰高感は抑えられた。立体感を強調する、縦方向の筋目仕上げにも注目。

オクト

(左)オクトが搭載するのは自社製のCal.ソロテンポである。2012年のお披露目には間に合わなかったが、14年の38mmモデル以降に採用されている。既存モデルのヴォーシェ製に比べるとパワーリザーブは短いが、感触は明らかに優れている。(右)オクトの特徴が、極端に広いブレスレット。1ピースコマを繋げただけだが、左右の遊びも適切で、装着感は悪くない。ただ個人的な好みを言うと、ブレスレットはネジ留めであるべきだろう。