ジン/103 Part.1

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.09.15

今や、世界的な知名度を誇るようになったジン特殊時計会社。しかし、そんな同社が腕時計クロノグラフの製造を始めたのは1960年代も後半になってからのことだった。ミリタリーユースを意識した防水ケース入りの「103」は、80年代後半以降、ジンを代表するモデルへと変貌を遂げる。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Special thanks to Michele Tripi (vintage-sinn-collector.de)
[クロノス日本版 2020年7月号初出]


103.B [1980's]
縦型カウンターのスタイルを決めた80年代モデル

103.B

103.B
1980年代にリリースされた第3世代の103。後のモデルと異なり、リュウズガードがないほか、ベゼルの形状なども異なる。おそらく、ブレスレットもオリジナルである。手巻き(ETA7760)。17石。2万8800振動/時。SS(直径41mm、厚さ13mm)。4気圧防水。参考商品(撮影協力/阿部時計店)。

 元ドイツ空軍のパイロットで、ラリードライバーでもあったヘルムート・ジン。彼はさまざまな職に就いた後、1961年にヘルムート・ジン特殊時計社を創業。当初、ジンはルフトハンザ航空向けにコクピットクロックなどを製作していたが、やがて腕時計の製造も始めるようになった。その代表作が、60年代後半に発売されたジン「103コンパックス」である。もっとも、当時のジンは、サプライヤーから部品を購入して組み立てる、または既存の時計の名前を変えてジン銘で提供するアッセンブラー(組み立て屋)であり、本格的な時計メーカーとは言いがたかった。

 ジンの103が本格的なコレクションとなったのは86年だ。それ以前、寄せ集めの部品で組み立てられていた103は、最新のETA7760、もしくは7750を搭載するようになり、ロットごとに変わっていたケースも統一されたのである。著名なジンコレクターにして、ヘルムート・ジンと懇意だったミケーレ・トリピはこう記す。「本当にジンの103が誕生したのはこのときだった」。

 もっとも、組み立て屋であったジンの個性は、最初期のモデルに色濃く残っている。ラグが細く、リュウズガードを持たないケースはオールドストックの転用であり、オリジナルと思われるエクスパンドロ銘のブレスレット(当時のカタログに同品が掲載されている)も、やはり昔の在庫品だろう。縦3つ目の黒文字盤も、同時代のジンに比べて仕上がりは甘く、いかにもアッセンブラーが組み立てたクロノグラフ、という雰囲気を強く漂わせる。

 もっとも、防水ケースに入った視認性の高いクロノグラフ、という103のコンセプトは、まさに多くの時計好きが望んでいたものだった。リリース後、103はドイツだけでなく日本でもヒット作となり、たちまちジンの定番として認識されるようになってゆく。

103.B

(右)今や103のアイコンとなったアラビックインデックス。追加されたのは、1970年代の第2世代からとされる。なおホワイトインダイアル仕様が「103.A」、オールブラックのダイアルが「103.B」と呼ばれる。後の103に比べて、文字盤の印字は明らかに甘い。また、曜日表示がなく、日付表示は白地である。(左上)リュウズガードを持たない、すっきりとしたケースサイド。ジン蒐集家のミケーレ・トリピ曰く「このケースはジラール・ペルゴのオールドストックだった」とのこと。

103.B

ケースサイド。103のデザインは、明らかに「タイプ20」のそれに倣っている。とりわけ、最初期のモデルは、ケース自体も各社のリリースした「タイプ20」から転用したものだった。後のモデルと異なり、ベゼルは低く抑えられ、強化アクリルで作られた風防の立ち上がりも異なる。昔のケースらしく、ベゼルの刻みも一定ではない。

103.B

(右下)いかにもミリタリーウォッチ風のラグ。この造形は後の103にも転用されたが、昔のケースを転用した最初期型は、ラグの斜面が強調されている。(左下)ねじ込み式の裏蓋。後のケースと異なり、レンチで開ける仕様になっている。なお、当時のカタログには10気圧防水とあるが、ケースには4気圧防水との刻印がある。このケースはリュウズもねじ込み式ではない。


103.B.AUTO [1980's〜90's]
自動巻きムーブメントを搭載する初期モデル

103.B.AUTO

103.B.AUTO
1980年代後半から90年代頭にかけて製造されたと思われる初期モデル。デザインは最初期型に準じているが、ケースなどはまったく別物である。103の基礎を打ち立てた傑作だ。自動巻き(Cal.ETA7750)。17石もしくは25石。2万8800 振動/時。SS(直径41mm、厚さ16mm)。参考商品。

 カタログから推測するに、1986年にリリースされた第3世代の103には、ETA7750の手巻きバージョンである7760搭載機しかなかった可能性が高い。当時のジンは新しい103を廉価でシンプルなクロノグラフと見なしていた節があり、自動巻きの搭載は意味がない、と考えていたのではないか? 事実、この時代のジンは、自動巻きクロノグラフに、高価で多機能なムーブメントしか採用しなかった。好例は60分の同軸積算計と24時間表示を持つレマニア5100であり、仮にETA7750を使う場合も、ムーンフェイズやフルカレンダーが主だったのである。唯一の例外は「144」だが、これは廉価版という位置付けだったのか、風防はサファイアガラスではなくミネラルガラスを採用していた。

 しかし103は、やがて自動巻きのETA7750搭載機がメインとなっていった。カタログを見る限り、オールドストックのケースを持つモデルと、新しいケースを持つモデルはしばらく併売されており、発表当初の自動巻きモデルもオールドストックのケースを備えていた可能性はある。もっともミケーレ・トリピは、第3世代の最初期モデルがオールドケースを用いた理由を「新しいケースが出来るまでのつなぎだった」と記している。古いケースの在庫がなくなった後、103のケースは手巻き、自動巻きを問わず、新規設計されたものに統一された。

 写真のモデルは、ケースが新しくなった後の自動巻きモデルである。年代は不明だが、80年代後半から90年代初期だろう。曜日表示を持たないほか、ケースの造形も多少異なるが、基本的な外観は現行モデルにほぼ同じである。1960年代に誕生し、80年代後半に完成したパイロットウォッチの103。このモデルは、以降、ほとんど変わらないまま継続して生産されることとなる。

103.B.AUTO

(右)初期型の自動巻きモデルには曜日表示がない。そのためSinnのロゴは、日付と同じ位置にある。印字の甘さから判断するに、文字盤のサプライヤーは最初期型と同じではないか。視認性を高めるため、日付表示の下地は、白から、表面を荒らした黒に変更されている。(左)新しいケースは、リュウズガードがないほか、プッシュボタンもケースに埋め込まれている。黒い回転ベゼルはアルミ製。12時位置の夜光表示が変更された以外、デザインは現行モデルに踏襲されている。

103.B.AUTO

ケースサイド。全長はオールドストックのケースに同じ47mm。しかし、ケースの厚みに対応してラグの曲げが強くなったほか、おそらくケースを薄く見せるため、ケースサイドは強く絞られている。また、回転ベゼルの厚みが増したほか、加工自体も良くなっている。リュウズはねじ込み式。

103.B.AUTO

(右)直線状に改められたラグ。その造形は、1960年代後半以降に普及した、ピケレ製の防水ケースに酷似している。結果として、新しいケースを持つ103の見た目は、1960年代から70年代の103に回帰することとなった。(左)標準的なねじ込み式に変更されたケース。このケース形状はその後も踏襲されるが、不思議なことに、このモデルには防水性能の記述がない。



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