オメガ/コンステレーション Part.1

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.10.29

1952年に発表されたオメガのコンステレーションはわずか10年でスイス時計の代名詞的存在となった。名声をもたらした高精度に加えて、薄さとデザインの追求はコンステレーションに多様さをもたらすこととなった。82年のマンハッタンを経て、今に至る道のりをムーブメント、薄さ、デザインの観点から振り返ってみたい。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年9月号初出]


1952年に誕生したリストクロノメーターの金字塔

自動巻きの開発競争で遅れを取っていたオメガは、1948年のセンテナリー以降、急速に巻き返しを図った。その方向性を決定づけたのが、1952年発表の自動巻きクロノメーター、コンステレーションである。自動巻きを刷新し続けた1960年代初頭、コンステレーションは実用時計としての完成を見た。

Ref.CK 2652

1952年に製造されたRef.CK 2652。他モデルに同じく、ムーブメントは350系を搭載する。しかし、60年代のモデルに先駆けて、パッキンを持つ裏蓋と、シーマスターから転用した、金属製のテンションリングで防水性を持たせた風防を採用している。SS。参考商品。

 オメガの3代目社長を務めたポール=エミール・ブランはこう語った。「人々が、毎日手でゼンマイを巻くことを忘れるほど怠惰ならば、私たちは時計作りをやめるべきだ」。自動巻きに懐疑的なブランは、かのジョン・ハーウッドが自動巻きの製品化を持ちかけた際も拒絶したという。

 しかし、他社の自動巻きが支持されるようになると、オメガの技術者たちとセールス部門は、自動巻きの必要性を痛感するようになった。1942年にオメガに加わったシャルル・ペルゴーは、アンリ・ゲルバーらと共同で自動巻きの開発に取り組んだ。自動巻きのベースに選ばれたのは、小径のキャリバー23.4。彼らはこの上に、爪でゼンマイを巻き上げるラチェット式の自動巻き機構を被せ、ハーフローターの自動巻きに仕立て直したのである。これは他社も採用する手法だったが、小さなベースムーブメントの精度を改善すべく、振動数を1万9800振動/時に高めたのが違いだった。完成したのが、オメガ初の自動巻きムーブメントとなる、キャリバー330(30.10/直径30mm)と、小径のキャリバー340(28.10/直径28mm)だった。

Ref.KO 2648

1952年製のRef.KO 2648。注目すべきは、すでに特徴的な、12角のパイ-パン ダイアルを採用している点。センテナリーの流れを汲むためか、裏蓋は非防水のスナップバックである。ケースはSSに金張りを施したものである。自動巻き(Cal.28.10 RA SC-351)。参考商品。
コンステレーション

コンステレーションの裏蓋にはジュネーブ天文台のモチーフと、名前の由来となった星座の模様が施された。初期の18Kゴールドモデルに限り、模様は手作業で彫られていた。対してSSモデルにはゴールド製のメダリオンが施された。デザインはジョルジュ・ヴィッキーによる。

 48年、オメガは創立100周年を記念して「センテナリー」をリリースした。搭載されたのは、キャリバー330または340のクロノメーター版。おそらく、ブランが否定的だったためか、このモデルはあくまで限定生産でしかなかった。しかし、セールス部門はこの高精度機の量産化を強く希望した。そこで誕生したのが、センテナリーと同じ自動巻きを載せたクロノメーターの「コンステレーション」である。52年のことだった。センテナリーとの明らかな違いは、搭載するムーブメントがスモールセコンドではなく、センターセコンド版のキャリバー350系(キャリバー28.10 RA SC)に置き換わったことだった。

 このモデルがセールス部門の主導で生まれたことは、命名のいきさつからも想像できる。オメガの資料に従うと、コンステレーションという名前は、オメガのイタリア代理店である「カルロ・デ・マーチ」の責任者であったブルーノ・パッソーニが、オメガのセールスマネージャーを務めるアドルフ・バレに提案したものだったと言われている。

 いわば量産型のセンテナリーだったコンステレーション。仮にエミール・ブランがオメガに君臨し続けていたら、このモデルはディスコンになったかもしれない。しかし、ブランの後継者たちは、彼よりもずっと柔軟だった。コンステレーションの謳い文句である、自動巻きムーブメントと高精度が、やがて大きな価値を持つと理解していたのである。

コンステレーション グラン リュクス

1953年のRef.OT.14.355。「コンステレーション グラン リュクス」という名称に相応しく、ケースとブレスレットは18KRG製、ボックスも銀製だった。オメガはコレクションの最上級版に、デラックスやリュクスの名称を与えた。自動巻き(Cal.28.10 RA SC RG-354)。参考商品。

 60年代後半まで、コンステレーションの歩みとは、オメガ自動巻きの進化と同義語であった。42年に開発された330/340系は、センターセコンドの350系に進化し、以降もオメガの屋台骨であり続けた。しかし、ハーフローターを持つこの自動巻きは、コンステレーションの発表時点でさえ、お世辞にも新しい設計とは言えなかった。対してオメガは、55年にまったく新しい自動巻きの470/490/500系をリリースした。設計者はエドゥワルト・シュワール。この両方向巻き上げのスイッチングロッカーを持つ全回転ローターの自動巻きにより、コンステレーションはようやく近代的な自動巻きクロノメーターへと脱皮したのである。コンステレーションが世界的な名声を得るのは、500系自動巻きを搭載した、50年代後半以降と言ってよいだろう。

 新しい500系自動巻きは、大きくなったベースムーブメントにより、理論上はより高い精度を持っていた。また、ローターが全回転となったため、ハーフローターに付きものの不快な衝撃も解消された。しかし、コンパクトな切り替え装置が左右に首を振ることで、巻き上げ方向を整流するスイッチングロッカーは、自動巻きの効率が低い。オメガはローターを厚くして対処したが、各社が自動巻きの薄型化を図るようになると、この厚い自動巻きは、たちまち時代遅れとなった。

コンステレーションが掲載された初の広告。1952年のものである。上に見えるのは、同年ヘルシンキオリンピックでの公式計時担当25周年を記念して授与された勲章。後にこの授与を記念して、文字盤に勲章が描かれた限定モデルが製作された(1956年)。

高精度機たる証明のひとつ。1969年8月25日にクロノメーター検定をパスしたコンステレーション(Ref. ST168.018、Cal.564搭載機)は2005年の10月25日に、再びクロノメーター検定を通った。平均日差+4.9秒は、現代のクロノメーター並みに優秀である。

 オメガ自動巻きの決定版が、58年に発表された550系である。直径は27.9mmと、500系にほぼ同じ。しかし厚さは1mm減の4.5mmとなった。設計者はマルク・コロンボとアンリ・ゲルバー。薄型化に成功した理由は、自動巻き機構をスイッチングロッカーからコンパクトな上下重ねのリバーサーに変更し、それをベースムーブメントに押し込んだためである。この時代、他社の自動巻きは、IWCにせよロレックスにせよ、ベースムーブメント+自動巻きモジュールという構成を持っていた。これらに比べると、輪列と自動巻きが完全に同じ階層に置かれたわけではないものの、設計の先進性は明らかだった。また、テンワからチラネジを廃した結果、テンワの慣性モーメントはさらに拡大し、コンステレーションの精度はいっそう向上した。後にこのムーブメントは、日付表示を加えた決定版の560系と、日付+曜日表示を加えた750系に進化する。

 薄い550/560系の採用により、オメガはコンステレーションの実用性をいっそう改善した。シーマスターから転用したねじ込み式の裏蓋と、見返しに金属リングを加えて気密性を高めた新しい風防は、ケースの厚みを変えることなく、防水性能を大幅に高めることに成功したのである。

 550/560系を載せた60年代初頭の「コンステレーションⅡ」をもって、コンステレーションは時計としてひと通りの完成を見た、といってよい。以降のオメガは、コンステレーションの次なる方向性を模索するようになる。具体的には、薄型化と多様なデザイン性の追求である。


GLOBEMASTER MASTER CHRONOMETER
初代コンステレーションの意匠を引き継ぐ
世界初のマスター クロノメーター

グローブマスター マスター クロノメーター

グローブマスター マスター クロノメーター
初代コンステレーションの意匠を受け継いだ新コレクション。ムーブメントには、Cal.8500をマスター クロノメーター化したCal.8901を搭載する。自動巻き。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KYG(直径39mm)。100m防水。219万円。

 1952年に発表された高精度機のコンステレーションは、明らかに北米市場を意識したモデルだった。防水ケースや、センターセコンドは当時のアメリカが強く望んだものである。しかし、肝心の北米市場でその象徴的な名称は使えなかった。すでに他社が登録していたためである。対してオメガのアメリカ代理店は「グローブマスター」という名称で新しいクロノメーターを販売せざるを得なかった。名称に関する問題は56年には解消したものの、以降もオメガは、北米市場向けの一部モデルにグローブマスターという名前を用い続けた。

 2015年、オメガは1万5000ガウスの耐磁性能に加えて、0秒から+5秒以内と、一般的なC.O.S.C.認定クロノメーターより厳格な精度基準を持つマスター クロノメーター規格を導入した。数あるモデルの中から、オメガが初めてこの規格を与えたのは、新コレクションのグローブマスターだった。第1号機のリリースは15年10月21日だった。

 コンステレーションという名称こそ強調されていなかったが、オメガはこのモデルを正統派の後継機と見なしていたに違いない。事実、そのデザインは往年のコンステレーションに極めて似ていたうえ、文字盤にはコンステレーションを示す星、そして裏蓋にはお馴染みの天文台レリーフを象ったメダリオンが施されていたのである。あえてコンステレーションの名前を控えめにしたのは、1982年にリリースされた“マンハッタン”シリーズとのデザイン的な混同を避けるためだろう。

 しかしこのモデルは、名称の由来や伝統的なデザイン、そしてきわめて高精度なムーブメントを含めて、正真のコンステレーション後継機と言って良い。オメガは、コンステレーション=高精度なクロノメーターという伝統を、“新しいグローブマスター”でも高らかに謳い上げたのである。

グローブマスター マスター クロノメーター

(右)初代コンステレーションよろしく、12角形のパターンが採用された文字盤。デザインのモチーフは1960年代のCal.561搭載機か? 文字盤の仕上げは、わずかにツヤを落としたオパーリン仕上げである。鏡面で仕上げた針とインデックスとのコントラストを強調することで、視認性を確保している。(左)現代風の要素が、刻み模様のフルーテッドベゼルである。SSモデルでは、ベゼルの素材は硬いタングステン合金に変更される。加工精度の高さは、写真が示す通り。ベゼル上の鏡面は完全にフラットになっている。

グローブマスター マスター クロノメーター

ケースサイド。ラグを強調した1950年代から60年代のモデルと異なり、ラグとケースサイドは一体化された。そのデザイン処理は、1964年にリリースされた、Cラインケースを思わせる。また、ラグを短く切ることで取り回しにも優れている。

グローブマスター マスター クロノメーター

(右)立体的なラグ。先端を断ち落とすデザイン処理は、やはり60年代のCラインケースに見られるものだ。ケースサイドを裏蓋側に絞ることで、プロファイルを立体的に見せているのが分かる。(左)グローブマスターの特徴が、マスター クロノメーター規格をクリアした自動巻きのCal.8900系である。1万5000ガウスの耐磁性能と、±0~+5秒/日以内の精度を誇る。



Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400


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