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パネライ/ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47mm(1/1) 2016年03月号(No.63)

PANERAI
Luminor Marina 1950 3 Days Acciaio-47mm

1950年代、パネライは特殊潜水部隊のためだけに時計を作っていた。
隊員たちは当時、パネライの時計をどのように利用したのだろうか。
かつての様式を踏襲した今日のパネライと、
当時、実際に使用されていた装備品の双方を携え、
潜水テストに臨む。

イェンス・コッホ: 文
Text by Jens Koch
OK-PHOTOGRAPHY: 写真
Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
岡本美枝: 翻訳
Translation by Yoshie Okamoto

point

・1950年代に使用されていた装備品にほぼ忠実
・素晴らしいデザイン
・極めて秀逸な加工

point

・万人向けではないサイズ感
・誰にでも手が届く価格ではない

時代を超える
新旧パネライの真価

紀の中盤にイタリア海軍で使用されていた装備品に忠実な、回転式ベゼルのないレザーストラップのパネライのモデルを見ると、この計器を身に着けて本当に海に潜っていたのかと問いたくなる。もちろん、それを証明する歴史的な証拠は十分にそろっているが、当時、パネライの計器はコンバットスイマーたちの目にどのように映っていたのだろう。クロノスドイツ版編集部は、登録団体歴史的ダイバー協会(訳注:Die Historische Tauchergesellschaft e.V.)に所属する経験豊富な戦闘水泳隊員と共に、その痕跡を探る旅に出た。当時の状況をよりリアルに再現し、かつての戦闘水泳隊員たちが海中で得た感覚を検証するため、我々は、当時、実際に使用されていた装備品と、1950年代のデザインを踏襲したパネライ ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜を携行することにした。
 パネライは1936年からイタリア海軍の特殊潜水部隊のために時計を作っている。特徴的なリュウズガードが与えられたのは1950年代の中盤以降である。これらの美しい特殊時計への人気がオークションで加速したのを受け、パネライは1993年、一般向けにも時計を販売するようになる。
 
デザインの継続性
 幸いなことに、パネライの多くのモデルは今日でも60年前と同じ外観を維持している。我々は今回の検証に、1950年代のオリジナルモデルとデザインが極めて類似しており、ケース径47㎜でリュウズガードを持つルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜を選んだ。スモールセコンドが搭載されている点も、当時と比較する上で信憑性がある。パネライが、パワーリザーブ約36時間、秒針なしのロレックス製手巻きムーブメントの搭載をやめ、スモールセコンド搭載、パワーリザーブ約8日間のアンジェリュス製ムーブメントに切り替えたのが、ちょうど1956年頃だからである。パワーリザーブについては、今回のテストウォッチはそこまで長くないが、3日間あれば手巻き時計としては十分だろう。

 熟練の戦闘水泳隊員であり、ドイツ海軍特殊潜水部隊隊員の資格も持つイェンス・ヘーナー氏は、前述の登録団体歴史的ダイバー協会に所属し、洞窟や難破船の調査にも参加するダイバーである。スキューバダイビングでは240mという記録の保持者であり、フリーダイビングでもさまざまな記録を樹立している。今回のテストのため、クロノスドイツ版はヘーナー氏とこの団体の協力を得て、特別なシナリオを企画した。1950年代と60年代の特殊潜水部隊と同じように装備し、パネライの当時のモデルを忠実に踏襲したルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜を身に着けて潜水するというものである。

パネライ製のナビゲーション計器の数々。当時、実際に使用されていた深度計とコンパス、そして、今回テストした現行のルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47mm。

見えなければならないが、
見られてはならない
 今日もそうだが、特殊潜水部隊において当時、特に重要だった装備品が、リブリーザー(もしくはクローズド・サーキット・リブリーザー)と呼ばれる循環式酸素ボンベである。スポーツ潜水で使用される大きな空気ボンベとは異なり、リブリーザーは容量が小さく、気泡を出さないことから、兵士は敵に見つかることなく長時間、海中に滞在することができた。小さいとはいえ、2、3時間の潜水には十分な容量である。吐いた息に含まれる二酸化炭素が内蔵されたソーダ石灰で吸着される仕組みだが、リブリーザーには純粋な酸素が充填されているため、水深が深くなると酸素分圧が高くなり、酸素中毒を起こす危険がある。そのため、リブリーザーを用いて確実かつ安全に潜水できる深度は約6mまでとされている。だが、この程度の深さまで潜れるのであれば、特殊潜水部隊の任務はほぼすべて遂行することができる。なぜなら、彼らの目的は深く潜水することではなく、敵に発見されないように沿岸部の海中を長い距離にわたって進み、監視や橋の爆破、あるいは、陸に近づくことだからである。
 特殊潜水部隊の任務では方角を知ることも極めて重要である。そのためには、深度計、コンパス、沿岸海域の地形図、そしてもちろん、時計が必要となる。ヘーナー氏はこれらの装備品に加え、海岸測量機も前腕に巻きつけた。水陸両用作戦に備え、当時のコンバットスイマーたちはこれらの計器を使用して沿岸の地形を測量し、記録していたのである。武器や爆薬など、テストに必要のない装備品は今回、携行しなかった。

回転式ベゼルは今日、
どのダイバーズウォッチにも搭載されているが、
あまり深くない海中で長時間、
目標に向かって泳ぎ進むことが
コンバットスイマーの任務だったことから、
潜水時間を知るための回転式ベゼルは
必ずしも必要な要素ではなかった。
当時と同じように装備した潜降直前のコンバットスイマー。

回転式ベゼルのないダイバーズウォッチ
 回転式ベゼルは、1953年にはロレックスのサブマリーナーによってすでに導入されていたが、コンバットスイマーたちの任務があまり深くない海中で長時間に及ぶことを考慮すると、海軍の装備品として作られたパネライの時計には必ずしも必要な機能ではなかったことが理解できる。パネライの時計は主に、最大深度6mの海中で1時間以上の出動時に使用されていた。大深度まで潜降するケースとは異なり、6m以内の潜水時には減圧停止を行う必要がない。そのため、分目盛りを配した回転式ベゼルは、あったとしても利用されなかったのである。
 パネライの時計はどちらかと言えばナビゲーション計器と見なされ、目標に向かって決められたルートで決められた時間内に泳ぎ進むために利用された。泳ぐ速度は正確に計測できないことから、ミニッツインデックスもそれほど重視されなかった。
 特殊潜水部隊の任務のほとんどが、暗闇に紛れて行われるのは今も昔も変わらない。そのため、軍用時計には暗所でも明るく発光する蓄光塗料が不可欠だ。蓄光塗料はパネライが得意とする分野であり、ラジウムを含むラジオミールを開発したのもパネライである。ラジオミールは後に、放射性物質を含むということで使用されなくなり、新たに開発されたルミノールがそれに代わって採用されることとなる。また、蓄光塗料の開発と同時に重視されたのがサンドイッチ文字盤である。蓄光塗料を塗布した下層のディスクにインデックスと数字をくりぬいた上層のディスクを重ねるサンドイッチ文字盤は、数字を文字盤にプリントしたり、描いたりするよりも多くの蓄光塗料を使用できるので発光力も強い。ただし、1分刻みでミニッツインデックスもくりぬいてしまうと、文字盤の強度が失われてしまうため、当時も現在も5分刻みのインデックスのみ配されているのだが、長い出動時間を想定していたため、精度はこれで十分とされてきた。
 閉じた円は、その内側全体がくりぬかれ、数字の形通りには抜けないというデザイン上の制約から、このサンドイッチ文字盤のために円を開いたフォルムを持つ数字の6が考案された。機能性を最優先に設計するという軍用時計特有の条件があったにもかかわらず、窮地を美徳に変え、美しい文字盤を作り上げる技は、イタリア人ならではの意匠センスと言えるだろう。
 
耐水性のあるレザーストラップ
 当時に近い状況を再現するため、潜水テストでは同梱のラバーストラップではなく、あえてレザーストラップを採用した。ちなみに、ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜の取扱説明書は、レザーストラップを水中で使っても問題なし、と明言している。とはいえ、高価なストラップを海中に持ち込むには、多少、心の葛藤を克服しなければならない。だが、心配は無用である。今日のモデルでもそうだが、パネライのストラップにはほぼ無処理のレザーが使用されていて、驚くほど水に強いからである。陸上に戻ってからストラップが完全に乾くまで多少時間がかかるものの、濡れてもまったく劣化しない。当然のことながら、レザーストラップに潜水用のエクステンションは装備されていないが、XLサイズのストラップを使用することで、ダイビングスーツの上からでも手首に巻くことができた。
 ダイビングスーツを着た後、ヘーナー氏は自らカモフラージュメイクを施し、リブリーザーを着けるためのベルトを締めた。このカモフラージュメイクは1950年代にはすでにあった手法で、今回使用したリブリーザーは、1960年代初頭にドレーゲル社が開発したプロトタイプである。ヘーナー氏はこの後マスクも着けたが、これも、パネライがまだイタリア海軍の装備品を製作していた頃に生まれたものである。これで海に入る準備ができた。ヘーナー氏は慣れた様子で、後ろ向きで水に入っていく。これが、フィンを着けた状態で最も素早く移動する方法だからである。水中メガネを海水で濡らし、リブリーザーのマウスピースを歯と歯の間に挟んで時計を一瞥した後、ヘーナー氏は気泡をまったく残さず、海中に消えて行った。
 ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜の風防が陸上よりも暗い水中で反射することはほとんどなく、サイズも大きいことから、特殊潜水部隊の任務時に最も重要な要件である良好な視認性は十分に確保されている。だが、せっかくメイクや泥でカモフラージュしたのに、ポリッシュ仕上げのケースがコンバットスイマーの腕できらめきを放つ。以前から変わらずケースにはポリッシュ仕上げが施されているのだが、姿が見破られないように、なぜ反射の少ないサテン仕上げにしなかったのか、いまだに謎である。イタリア人ならではの審美的センスがそれを許さなかったのかもしれない。

サファイアクリスタル製トランスパレントバックを通して、パワーリザーブインジケーターを搭載した自社製キャリバーP.3001の全容を観察することができる。

現代のムーブメント
 ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜の内部では、自社製の手巻きムーブメント、キャリバーP.3001が時を刻む。直径16 ½リーニュ(37・2㎜)のこのムーブメントは、当時のモデルに搭載されていた16リーニュのアンジェリュス製ムーブメントに対して、ヒゲゼンマイが規制なく自由に振動することができるフリースプラング方式のムーブメントで、テンワに取り付けられたバランスウェイトスクリューで微調整を行う。テンプは、両持ちの頑丈なテンプ受けの下で振動する。
 ムーブメントの装飾もこの時計の趣旨にかなっている。控えめでテクニカルな印象を与えるヘアライン仕上げが何よりも印象的だ。ヘアライン仕上げは、テンプ受けとふたつの大きな受けで乱れなく同じ方向に施されており、そこに彫り込まれたブルーの文字がこれによく似合う。
 ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜は操作性においても優秀である。リュウズを1段引き出したポジションでは、分針に影響を与えることなく、時針を1時間刻みで合わせることができる。他のタイムゾーンに移動した際や、サマータイムに切り替わった時に、分や秒を変えずに時針だけを合わせられるので快適である。リュウズを2段引き出したポジションでは通常通り、時針と連動させて分針を合わせることができる。このポジションにリュウズを引き出した瞬間に秒針がゼロにジャンプして戻るので、電波時計と簡単に同期できて便利である。
 こうした機能は、当時のパネライの時計には搭載されていなかった。当時、最も重視されたのは、水中での視認性と防水性だったからである。
 コンバットスイマーたちが当時、パネライの時計をいかに利用していたのか、ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜を観察すれば直ちに明確になるだろう。いわゆるダイバーズウォッチとしての典型的な外観は備えていないが、あまり深くない海中で長時間にわたる海兵隊の任務において、必要条件を満たすには、パネライのデザインこそふさわしいものだったのである。コンバットスイマーたちは回転式ベゼルを必ずしも必要とはしなかったし、レザーストラップが潜水後もまったく劣化しないことは、今回のテストでも十分に証明された。何と言っても、パネライの時計が優れた機能だけでなく、美しさも備えているのは、今も昔も、イタリア人の卓抜した意匠センスの賜物なのである。

海中でも海上でも、良好な視認性は戦闘水泳隊員にとって必須条件。

技術仕様

パネライ/ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47mm

製造者: オフィチーネ パネライ
Ref.: PAM00422
機能: 時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、パワーリザーブインジケーター(裏蓋側に搭載)
ムーブメント: 自社製キャリバーP.3001、手巻き、2万1600振動/時、ゼロリセットセコンド機能、21石、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約72時間、直径37.2mm、厚さ6.3mm
ケース: ステンレススティール製、ドーム型サファイアクリスタル製風防(無反射加工)、ねじ込み式サファイアクリスタル製トランスパレントバック、リュウズガード、10気圧防水
ストラップとバックル: カーフレザーストラップ、ステンレススティール製尾錠
サイズ: 直径47mm、厚さ17.2mm、重量146g
バリエーション:
価格: 111万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時
文字盤上 +10
文字盤下 +10
3時上 +4
3時下 -4
3時左 0
3時右 +3
最大姿勢差: 14
平均日差: +3.8
平均振り角:
水平姿勢 286°
垂直姿勢 255°


評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 6pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 83pt.
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