【83点】パネライ/ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47mm

FEATUREスペックテスト
2016.02.04

回転式ベゼルは今日、
どのダイバーズウォッチにも搭載されているが、
あまり深くない海中で長時間、
目標に向かって泳ぎ進むことが
コンバットスイマーの任務だったことから、
潜水時間を知るための回転式ベゼルは
必ずしも必要な要素ではなかった。
当時と同じように装備した潜降直前のコンバットスイマー。

回転式ベゼルのないダイバーズウォッチ
 回転式ベゼルは、1953年にはロレックスのサブマリーナーによってすでに導入されていたが、コンバットスイマーたちの任務があまり深くない海中で長時間に及ぶことを考慮すると、海軍の装備品として作られたパネライの時計には必ずしも必要な機能ではなかったことが理解できる。パネライの時計は主に、最大深度6mの海中で1時間以上の出動時に使用されていた。大深度まで潜降するケースとは異なり、6m以内の潜水時には減圧停止を行う必要がない。そのため、分目盛りを配した回転式ベゼルは、あったとしても利用されなかったのである。
 パネライの時計はどちらかと言えばナビゲーション計器と見なされ、目標に向かって決められたルートで決められた時間内に泳ぎ進むために利用された。泳ぐ速度は正確に計測できないことから、ミニッツインデックスもそれほど重視されなかった。
 特殊潜水部隊の任務のほとんどが、暗闇に紛れて行われるのは今も昔も変わらない。そのため、軍用時計には暗所でも明るく発光する蓄光塗料が不可欠だ。蓄光塗料はパネライが得意とする分野であり、ラジウムを含むラジオミールを開発したのもパネライである。ラジオミールは後に、放射性物質を含むということで使用されなくなり、新たに開発されたルミノールがそれに代わって採用されることとなる。また、蓄光塗料の開発と同時に重視されたのがサンドイッチ文字盤である。蓄光塗料を塗布した下層のディスクにインデックスと数字をくりぬいた上層のディスクを重ねるサンドイッチ文字盤は、数字を文字盤にプリントしたり、描いたりするよりも多くの蓄光塗料を使用できるので発光力も強い。ただし、1分刻みでミニッツインデックスもくりぬいてしまうと、文字盤の強度が失われてしまうため、当時も現在も5分刻みのインデックスのみ配されているのだが、長い出動時間を想定していたため、精度はこれで十分とされてきた。
 閉じた円は、その内側全体がくりぬかれ、数字の形通りには抜けないというデザイン上の制約から、このサンドイッチ文字盤のために円を開いたフォルムを持つ数字の6が考案された。機能性を最優先に設計するという軍用時計特有の条件があったにもかかわらず、窮地を美徳に変え、美しい文字盤を作り上げる技は、イタリア人ならではの意匠センスと言えるだろう。
 
耐水性のあるレザーストラップ
 当時に近い状況を再現するため、潜水テストでは同梱のラバーストラップではなく、あえてレザーストラップを採用した。ちなみに、ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜の取扱説明書は、レザーストラップを水中で使っても問題なし、と明言している。とはいえ、高価なストラップを海中に持ち込むには、多少、心の葛藤を克服しなければならない。だが、心配は無用である。今日のモデルでもそうだが、パネライのストラップにはほぼ無処理のレザーが使用されていて、驚くほど水に強いからである。陸上に戻ってからストラップが完全に乾くまで多少時間がかかるものの、濡れてもまったく劣化しない。当然のことながら、レザーストラップに潜水用のエクステンションは装備されていないが、XLサイズのストラップを使用することで、ダイビングスーツの上からでも手首に巻くことができた。
 ダイビングスーツを着た後、ヘーナー氏は自らカモフラージュメイクを施し、リブリーザーを着けるためのベルトを締めた。このカモフラージュメイクは1950年代にはすでにあった手法で、今回使用したリブリーザーは、1960年代初頭にドレーゲル社が開発したプロトタイプである。ヘーナー氏はこの後マスクも着けたが、これも、パネライがまだイタリア海軍の装備品を製作していた頃に生まれたものである。これで海に入る準備ができた。ヘーナー氏は慣れた様子で、後ろ向きで水に入っていく。これが、フィンを着けた状態で最も素早く移動する方法だからである。水中メガネを海水で濡らし、リブリーザーのマウスピースを歯と歯の間に挟んで時計を一瞥した後、ヘーナー氏は気泡をまったく残さず、海中に消えて行った。
 ルミノール マリーナ 1950 3デイズ アッチャイオ-47㎜の風防が陸上よりも暗い水中で反射することはほとんどなく、サイズも大きいことから、特殊潜水部隊の任務時に最も重要な要件である良好な視認性は十分に確保されている。だが、せっかくメイクや泥でカモフラージュしたのに、ポリッシュ仕上げのケースがコンバットスイマーの腕できらめきを放つ。以前から変わらずケースにはポリッシュ仕上げが施されているのだが、姿が見破られないように、なぜ反射の少ないサテン仕上げにしなかったのか、いまだに謎である。イタリア人ならではの審美的センスがそれを許さなかったのかもしれない。