【84点】IWC/ポルトギーゼ・オートマティック

FEATUREスペックテスト
2015.08.04

格段に向上した耐摩耗性。IWCは、ブラックセラミックスを投入することで、ペラトン自動巻き機構の摩耗を軽減した。

ペラトン自動巻き機構の素材は、3世代にわたって改良されてきた。
右から、2005年、2013年、2015年版の巻き上げ爪と巻き上げ車。

よりシンプルに

ムーブメントを進化させるにあたり、IWCは構造の簡素化を目指した。その一例がローターである。以前は小さなネジでローターに固定されていたが、新型ムーブメントではリベット留めになった。簡素化の一環として、受け石の数も42個から31個に減っている。これは有意義な決断である。なぜなら、簡素化は通常、機能性の強化にもつながり、故障や不具合も減るからである。ネジの数が減れば、緩んで不具合の原因となる数も少なくなるのは言うまでもない。
 ローター、ブリッジ、輪列、テンプ、香箱と、順に取り外した後に残るのは、ムーブメントの全面を覆うような2枚の薄い地板である。ここには、秒針位置合わせメカニズムと巻き上げ機構の大部分、そして、パワーリザーブ表示機構を構成する驚くべき数の歯車が収められている。2枚の地板を外すと、ムーブメントはついにネジの最後の1本まで分解されたことになる。我々は改めて、広範囲に及ぶモディファイと、数多くの改良点に感銘を受けた。
 一方、ケースはあまり改良されていない。そもそも、改良すべき理由がほとんどないのだ。ラグにはわずかに手が加えられ、バネ棒には緩やかなカーブが与えられた。大型腕時計では時折、手首の上でぐらつくものもあるが、ポルトギーゼは滑らず、着用感は非常に快適だ。ケース径42・3㎜のポルトギーゼは、サイズの上では今日、それほど大型とは言えなくなったが、大きな風防、小さな数字、そして、フラットな文字盤が故に、大きな印象を与える。
 レイルウェイミニッツトラックや、レコード盤のような溝を施したシンメトリックなサブダイアル、アプライド型のアワーインデックス、そして、ほっそりとしたリーフ針による均整の取れた文字盤は、まさにポルトギーゼの顏であり、時計愛好家を魅了してやまないスタイルアイコンである。シルバーカラーの文字盤と、ブルーカラーの針とインデックスはコントラストが抜群で、十分な明るさが確保されている限り、視認性も素晴らしい。エレガントなポルトギーゼ ・オートマティックには蓄光塗料が塗布されていないのだ。
 ケースは一見、シンプルだが、隅々までディテールへのこだわりを感じさせる仕上がりである。ケース側面にはサテン仕上げが施され、ポリッシュで仕上げられた凹状のベゼルを備えている。ベゼルの様式はポリッシュ仕上げの美麗なケースバックにも再現されており、周りが凹状の溝で囲まれている。加工のレベルは高く、ポリッシュ仕上げは非常にクリーンで、加工の痕跡はまったく見当たらなかった。
 作り込みの良さはアリゲーター・ストラップにも当てはまる。ミシンで丁寧にステッチがかけられた切り目仕上げのストラップは、表面の塗りが美しい。フォールディングバックルは、サテン仕上げの面とポリッシュ仕上げのエッジがケースとよくマッチしていて、機能においてもIWCで長年、その実力を証明してきた。
 フォールディングバックルは開閉操作が簡単で、外れにくく安全に腕に留まる。時刻合わせは、ねじ込み式ではない大きなリュウズ、ストップセコンド機能、日付早送り調整機能により、簡単かつ正確に行うことができる。
 ポルトギーゼ・オートマティックの弱点をあえて挙げるなら、ステンレススティールモデルでも145万円するという価格だろう。約7日間のパワーリザーブを備えたムーブメントがいかに秀逸で、加工に非の打ちどころがないにしても、かなりの高額である。いかにムーブメントが改良されたとはいえ、ポルトギーゼ・オートマティックがかなり高額な印象を与えることは否めない。
 価格に驚かない覚悟があれば、IWC史上、最も優れたポルトギーゼ・オートマティックを手にすることができる。シンプルな美しさはそのままに、古典的名作は強化された自社製ムーブメントを搭載することで、手首のためのスタイルアイコンへと、さらなる進化を遂げたのである。