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ジャガー・ルクルト/ジオフィジック 1958(1/1) 2015年07月号(No.59)

JAEGER-LECOULTRE Geophysic 1958

気品を尊重するか、実用性を重んじるか。
昨今では、どちらかだけに偏りがちだ。
科学への情熱と過去の作品へのオマージュで、
今や廃れたかのような文武両道の風雅さがよみがえった。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

 
point
・考え抜かれたデザイン
・優秀な自社開発ムーブメントを搭載

point
・気軽に手を出し難い価格
・長短針のバランスが今ひとつ整っていない

958年とは、国際地球観測年であると高らかに宣言がなされた年だった。それに際して、包括的な学術研究がボーダーレスにいちだんと進められた。これをきっかけに作られたモデルこそが、ジャガー・ルクルトのジオフィジックだ。これには科学者や研究者が調査したり、実験したりするときに伴ってほしい時計という意味が込められている。そのために、耐磁性と防水性に優れ、発光塗料付きの針を装備した、クロノメーターとしての正確さを持った手巻きムーブメントが用意された。

しかし、これが後にコレクターに非常に人気なアイテムとなったのは、何よりもすっきりしたデザインと、1000本限定として出ていたことが大きい。そして今や、当時のオマージュとしての限定モデルが、その名もジオフィジック 1958として登場している。そのビジュアルは、往年のモデルに範を取っているのがはっきりと分かる仕上がりだ。傾斜のつけられたベゼルやストレートに伸びたラグ、数字のフォントや針、これらすべてがオリジナルモデルを思わせる形状になっている。今回のテストで取り上げたステンレススティールバージョンについては、文字盤もまさにかつての姿通り。極細の十字に、3時、6時、9時、12時に置かれたアラビア数字。長めのアワーインデックスとミニッツインデックスの佇まい。5分おきの位置には指標の数字が記されている。ちなみに、プラチナバージョンでは、ヒストリカルピースのようにバーインデックスと組み合わせた数字のインデックスは2カ所のみだ。ふたつのバージョンを比べると、より調和しているのはステンレススティールバージョンに思える。デザインスピリットの踏襲を感じさせる決め手になっているのは、大きな剣形の針だろう。これはオレンジ色を帯びたヴィンテージカラーの夜光塗料付きだが、当時のものより発光性が高い。
サイズに関しても、今日に見合った大きさになっている。38・5㎜という直径は、今やオリジナルモデルの35㎜と似たような感覚だろう。総合すると、ジオフィジック 1958は過去をポジティブにとらえることのできる、破綻のない仕上がりになっているといえる。それは日付表示がないからというせいでもある。デザイン上は、その方が好都合なのだ。
ジャガー・ルクルトは、50年代当時すでに、読み取りやすい文字盤とはいかにして設計されるかを知っていたと思われる。そんなデザインではあるが、暗がりでの視認性に関してだけは別で、夜間のアワーインデックスとなる発光塗料付きのドットがいかにも小さい。一方、現代のモデルでは、ベゼルの内側の見返しにドットが据え付けられている。緩やかなドーム型の風防は、もちろんサファイアクリスタル製だ。
文字盤表面は、オリジナルモデル同様に細かく均一な砂目状で、見栄えは非常によい。リュウズについても、かつてのものを思わせる出来だ。軽く膨らみを持たせ、鏡面に磨き上げられたヘッドには、ロゴが入っていない。これは現在のジャガー・ルクルトのモデルにおいては、極めて珍しいことだ。スリーピース構造のケースの真ん中の部分に、注意深く入ったサテンなどを見ても、全体の仕上げ加工の良さが伝わってくる。ただ、ラグ間の側面の狭いスペースにまでサテンは入れなくてもいいように思える。普通はここまで見ないし、むしろサテンが入ってないほうがいいのではないだろうか。

耐磁性がものをいう

外からは検分できないのはムーブメントだ。これに関しては特に訳がある。というのも、中の機械は軟鉄製のインナーケースに格納され、磁界から遮断されているのだ。これも50年以上前にジオフィジックが登場した時と同じだ。その当時でも、磁気の影響は機器類を扱う研究者だけの問題ではなく、今日のように日常生活上でも注意すべきことだった。精度が思わしくないという理由で時計師のもとに運ばれてくる時計の多くは、磁気を帯びてしまっているが、磁気を抜くと再び好精度に戻るものだ。
ねじ込み式の裏蓋には、ジャガー・ルクルトのイニシャルが、国際地球観測年のマークである経緯線入りの地球の上に美しく彫られている。さらに、世界800本限定であることと、防水性が10気圧の高さであることも記載がある。ただし、エレガントなアリゲーターストラップは水泳用のものではないため、海水に濡れたら傷んでしまうだろう。すっきりと整いの良いストラップは、縁をくるんで糊付けしてあり、セミボンベスタイルといったところ。機械縫いのため、縫い目は規則正しく続いている。裏側に当てられているのは水牛革。これはよく見かける裂き革よりは汗がこもらない。肌当たりも柔らかだ。時計本体の重さが抑えめになっているのと、ストラップが広めの幅に作られていることで、装着感を高めているようだ。
ストラップの留め具が尾錠式であるのも、大きく縦幅を取るフォールディングバックルより快適に感じる。他のジャガー・ルクルトのモデルと同様に、尾錠はロゴ入りだ。サテンと鏡面を組み合わせ、ケースとの均衡も良くすっきりと仕上がっている。細かいことを言うならば、ルーペを通して見ると、裏側についてだけは磨きが物足りなく感じないでもない。あと一歩踏み込んでほしいところだ。

裏蓋を飾るのはブランドロゴと経緯線入りの地球儀のエングレービング。その下に内蔵されているのは自社開発の自動巻きキャリバー898/1。軟鉄製のインナーケースに格納され、磁界の影響からガードされている。

歴史的モデルへのオマージュとして似つかわしい留め具はやはり尾錠。見目よく、着用感も心地よい。

使い勝手は快適そのもの

我々、クロノスドイツ版編集部は、基本的にフォールディングバックルよりシンプルな尾錠派なので、使い勝手にも好感が持てる。リュウズについても、日付表示機構がないためだけでなく、ストップセコンド仕様でねじ込み式ではないので操作しやすいのだ。
オリジナルモデルもすでにストップセコンド機構を備え、日付表示を断念してはいた。その搭載ムーブメントは公式クロノメーターの手巻き自社製キャリバー478BWSbr。しかし、外観ががらりと変わった後続モデルでは自動巻きムーブメントを使用、名前もジオマティックとなった。そして、現行のジオフィジック 1958に搭載されているのは、自社開発の自動巻きムーブメント898/1。これは公式クロノメーターとして認定されているものだ。公式クロノメーター機関による試験のみならず、自社内での独自の基準に則った1000時間コントロールと呼ばれるテストが実行されている。約6週間にも及ぶこのテストは、C.O.S.C.の基準よりもさらに厳しい。まず、C.O.S.C.ではむき出しのムーブメントだけが試験対象になるが、1000時間コントロールでは時計としてケーシングされた状態でテストが行われる。さらに、試験姿勢は6姿勢。C.O.S.C.では5姿勢だ。その上、精度はムービングマシンに掛けた時と一致していなければならない。これらをクリアしてようやく、出荷されるようになっている。
キャリバー898/1は、有名なキャリバー889に手を加えて派生したものだ。振動数は2万8800振動/時、ローターにセラミックス製のボールベアリングを仕込んだモダン仕様だ。パワーリザーブは約43時間と、最近の多くの新型ムーブメントより上を行っている。フリースプラングのため、緩急調整はテンワに取り付けられた専用のバランス・ウェイトで行う。より細やかな調整が可能なので、精度も向上している。
ケースの裏蓋はスクリューバック、加えて軟鉄製インナーケースに格納されるにもかかわらず、ムーブメントにはさまざまな装飾仕上げが施されている。地板にはペルラージュ、ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ、ローターにも弧を描いてコート・ド・ジュネーブが入り、ステンレススティールパーツはサテン仕上げだ。ブルーのネジやエングレービングの文字が金色になっているのも美しい。しかし、いくつかのパーツは面取りされているが、そこを鏡面に磨いてまではいない。バネ類も一部は薄い板バネが使われている。それでもムーブメントとしては期待を裏切ることなく、中の上クラスには収まっているだろう。
精度は、腕に着用時の日差はプラス2秒。歩度測定機に掛けると、全姿勢で2秒から7秒の進みが見られたが、各姿勢間の差はかなり少ない。24時間後に計測した平均日差がプラス4秒というのは、クロノメーター規格の範囲内だ。水平姿勢から垂直姿勢にしたときの振り角落ちが、35度だったのも十分低い値といえる。
ジオフィジック 1958の価格は95万円。マニュファクチュールの限定モデルとしては見合った金額だろう。ジャガー・ルクルトの他のいくつかのモデルを見ても、価格設定はこんな感じだ。世界800本限定であることを考慮すると、まずまずの価格と言える。
穏やかな印象と耐磁という抵抗力に基づく、気品と実用のコンビネーションは、日常生活において役立つだけに非常に魅力的だ。歴史的なモデルにおいて、デザインだけではなく、コンセプトが引き継がれたのは喜ばしい限り。レトロデザインもディテールまでよく練られたオリジナルに沿っているが、普段使いの上でのすべての要求を満たしているのもお手のものといった感がある。それくらい弱点がほとんどないに等しい。予算との折り合いに悩むこともあろうが、最終的にはエレガントでありながらパワフルに立ち向かえる骨っぷしの強さという構造の魅力がすべてを凌駕するだろう。

 こちらは国際地球観測年だった1958年に発売されたオリジナルモデル。今回の新登場にあたって、デザインが注意深く踏襲されていることが分かる。

技術仕様

ジャガー・ルクルト/ジオフィジック 1958

製造者: ジャガー・ルクルト
Ref.: Ref.Q8008520
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)
ムーブメント: 自社製Cal.898/1、自動巻き、2万8800振動/時、30石、耐震軸受け(キフ使用)、緩急調整用バランス・ウェイト付きグリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約43時間、直径26.6mm、厚さ3.3mm
ケース: ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防、軟鉄製耐磁インナーケース、スクリューバック、10気圧防水
ブレスレットとクラスプ: アリゲーター製ストラップ、ステンレススティール製尾錠
サイズ: 直径38.5mm、厚さ11.32mm、総重量72g
バリエーション:  ピンクゴールドケース200万円(300本限定)、プラチナケース310万円(58本限定)
価格: 95万円(世界800本限定)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時         
文字盤上 +5  
文字盤下 +7  
3時上 +3  
3時下 +3  
3時左 +4  
3時右 +2  
最大姿勢差: 5  
平均日差: +4  
平均振り角:    
水平姿勢 289°  
垂直姿勢 254°  

 

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 10pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.)  8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 11pt.
合計 84pt.
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