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オメガ/スピードマスター マークII(1/1) 2014年09月号(No.54)

OMEGA Speedmaster Mark II

デザインに典型的な特徴を持つのがいわゆる70年代モデル。その復活は、単なる懐古主義ではお話にならない。当時のエナジーを彷彿とさせるのは、デザインだけではなく、未来を見据える技術革新にあった。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・考え抜かれたレトロデザイン
・精度に優れている
・汎用機からかなり向上したムーブメントを搭載

point
・日付修正時に早送りができない
・ケース本体が若干ボリューム過多

70年代のエナジーを乗せて

ピードマスターを語る時、必ず引き合いに出されるのは月面着陸だ。
これは確かに興味深いエピソードのひとつではあるが、同時期に生まれたマークⅡが地球を飛び出して月へ到達していなくても、その魅力はなんら変わることはない。肝心なのは、マークⅡが徹頭徹尾スピードマスターそのものであるということなのだ。
スピードマスター マークⅡが最初に発売されたのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のアポロ11号が月面着陸に成功した1969年のことだった。当時、オメガが打ち出したかったのは時代に見合ったデザインだ。ケースとブレスレットはそれにふさわしい形状に仕立て、クロノグラフ針と積算計の針や目盛りにはオレンジの差し色を使用し、クラシックな文字盤スタイルよりも押し出しの強さを優先した。ひょっとすると、オメガはこれをもって従来のスピードマスターのクラシックなイメージの刷新をもくろんでいたのかもしれない。しかし、NASAは既に自身で検査して認定した時計を、また新たにテストし直してまで別のものに替えるつもりはなかったのだろう。オメガにとってNASAとの共同開発は威信を懸けたものだったが故に、旧来のモデルも作り続けることになったのである。

膨らみを持たせたパイロットライン型ケースは放射状にサテン仕上げが入り、エッジは面取りされている。当時を彷彿とさせる典型的な70年代デザインが効いている。

オリジナルに近い仕上がり

それから45年の時を経た今年、マークⅡの新装版が登場した。その出来は、驚くべきことに誕生当時のものにかなり近い。ラグと一体化したパイロットライン型ケースには放射状のサテン仕上げを施し、ブレスレットは膨らみを持たせたコマを3列つないだスタイル、文字盤はクラシックなスピードマスターと同様に、インダイアルが横目に並ぶレイアウトだ。蛍光オレンジをクロノグラフ秒針と30分および12時間積算計の針、5秒おきのインデックスのカラーに使用した"レーシングダイアル"と呼ばれる文字盤のほかに、黒文字盤に白の印字を施したバージョンもある。
サイズも横幅が約42㎜と、当時のものにかなり迫った仕上がりになっている。リバイバルモデルは、サイズに注意しないと印象にかなり差が出てしまうものだ。
タキメーターはかつてのように風防の内側のすぐ下にリングが置かれている。この目盛りはダメージを受けやすい部分なだけに、これはかなり手の込んだ手法と言えよう。そして、ここには良い変化が確認できる。以前のものとは違って夜光仕様になったのだ。アルミニウム製のリングの下に蓄光塗料のスーパールミノヴァを仕込み、暗がりではリングを透かして数字が光るようになっている。このために、あえて黒地に白抜きのデザインにしているというわけだ。
このほかにも技術的な改良点がある。日付表示がほとんど邪魔にならないようなかたちで、12時間積算計にうまく組み込まれたのだ。そして、もちろん風防も、ミネラルガラスからサファイアクリスタルに変更された。
だが、文字盤にはまったく変わっていないところもある。それは通常の時刻もクロノグラフの計測タイムも、非常に読み取りやすいという点だ。視認性は今やないがしろにされることも少なくないだけに、時計として重要なポイントを押さえているのは喜ばしい限りだ。

ブレスレットもオリジナル発表当時のものより快適なものになっている。バックルの内側にある微調整用の小さな突起を押すと、約1㎝は延長可能なエクステンション機能が備わった。ケース本体は厚く重さがあり、裏蓋にはレリーフが入って凹凸があるにもかかわらず、着用感は向上している。

ブレスレットはレトロなデザインに仕立てつつ、バックル内側には実用性を妨げることのないように考慮されたエクステンション機構が組み込まれている。

細やかにチューニングされたインナーワールド

スピードマスターではおなじみのシーホースのレリーフが施されたねじ込み式の裏蓋を外すと、そこにも進化の跡を見ることができる。ケースの中に鎮座するCal.3330は、2012年の新作のスピードマスター レーシングから搭載され始めたムーブメントだ。フレデリック・ピゲ製ムーブメントを基にしたCal.3313とは異なり、ベースムーブメントは汎用機としてよく知られているETA7750。もっとも、これは筋金入りの時計愛好家でも容易に見分けがつくようにはなっていない。ブリッジやローターの形状、制御および緩急スタイルはオメガ仕様にチューニングされ、ありふれたものとはまったく違う。このキャリバーは、かつてないようなモディファイがなされているのだ。従来のスイス・レバー脱進機ではなく自社固有のコーアクシャル脱進機を搭載、ヒゲゼンマイはシリコン製のものに替え、緩急調整はテンワに取り付けられた4つの偏心スクリューで行うフリースプラング式。クロノグラフの制御方法は、エレガントさに欠けるカム式から見目麗しきコラムホイール式になった。パワーリザーブも約44時間から約52時間に延びている。ベースムーブメント由来の構造は、数点の歯車のほかにはスイングピニオン式のクラッチとリセット機構のみ残った格好だ。

一方、装飾研磨に関しては、ほどほどに抑えた仕上がりになっている。ローターや自動巻き機構のブリッジ、テンプ受けにはコート・ド・ジュネーブ、そのほかの箇所も部分的にはペルラージュが入れられ、ネジ頭は鏡面に磨かれているのだが、地板は装飾なしでエッジも面取りされていない。それでも元来のETA7750に比べると、明らかに向上したことが分かる。これはコラムホイールという魅惑的な要素を取り入れたことと、レバー類が、よりがっしりしたものになったことが大きい。その半面、30分積算計を3時位置に移設したために、日付早送り機構は諦めざるを得なかった。とはいえ、ケースサイドの10時位置に埋め込まれた日付単独修正ボタンが大いに役立ってくれるはずだ。
これに対して、増築によって逆にすっきりとしたために使い勝手が良くなったのはクロノグラフのプッシュボタンだ。制御がコラムホイール式になったので、カム式に特徴的なプッシュボタン操作時の重さが解消され、オン・オフが軽やかで快適になった。

さてその精度だが、このマークⅡに搭載される全てのムーブメントは、ひとつひとつスイスの公式クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)で試験に掛けられ、合格したものだ。これはいやが上にも期待が高まる。編集部所有の歩度検査機ウィッチ クロノスコープ X1は、スイス・レバー脱進機とは刻音が明らかに違うコーアクシャル脱進機搭載のムーブメントも計測可能だ。結果は、我々編集部の期待を裏切ることはなかった。最大姿勢差は4秒、平均日差はプラス3秒、両者間の開きは極めて小さい。クロノグラフ作動時も、平常時と比べて数値はごくわずかしか変動しなかった。振り角落ちが小さかったことも評価すべきところだ。平置き姿勢から垂直姿勢に変えた時の差も、クロノグラフのオン・オフの差も、いずれも10度以内に収まっていた。多くのクロノグラフムーブメントにおいて、オン・オフの差は30度以上にも及ぶこともあるのだ。ついでに言うと、このところスペックテストに取り上げてきたオメガのモデルは、一様に良好な歩度データが出ている。

ベースムーブメントではスイス・レバー式だった脱進機をコーアクシャル式にチューンナップしたCal.3330。シリコン製ヒゲゼンマイを採用し、緩急針を廃したフリースプラングが確かな性能を導き出す。

価値と釣り合った価格設定

まずまず抑制が利いていると言えるのは、うれしいことに価格も同様だ。スピードマスター マークⅡは税抜き価格が57万円。実のところ、同じムーブメントを搭載したスピードマスター レーシングは十数万円ほどお値打ちで、さらにコストパフォーマンスがいい。とはいえ、コーアクシャル脱進機を使用した自社製クロノグラフムーブメントCal.9300搭載のムーンウォッチが79万円からということを考えると、その隔たりは明らかだ。マークⅡは、価格から受ける印象以上の価値がある。加工の良質さ、現代的なエクステンションブレスレットを組み込みつつレトロにまとめ上げたデザインの決まり具合、そして何と言ってもムーブメントの優秀さ。なにしろコーアクシャル脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイを搭載したフリースプラング式テンプ、コラムホイールの採用により、精度は極めて高く、使用感も爽快なのだ。
オメガがスピードマスター マークⅡをよみがえらせた。その本気っぷりはレトロデザインから伝わるが、ムーブメントのラジカルなまでのチューニングを見ても説明がつく。先輩モデルのように、月へ行った栄誉にはあずかっていないが、マークⅡはスピードマスターの中でも、とりわけクールな奴なのだ。

時計師からひと言

マークⅡを新生復活させたオメガのやり方は、全て理にかなっていると言えるでしょう。デザインはほぼ誕生当時のままにして、ムーブメントの精度の良さから信頼性を導き出しており、技術面では今日的な見地にかなっているわけです。価格もまずまずといったところではないでしょうか。エクステンションブレスレットなどのように、特に優れた要素を加えているのも評価できます。今後、ベストセラーモデルになるかもしれませんね。

ライナー・メラート
ウルム、ケルナー時計宝飾店オーナー兼マイスター時計師

技術仕様
オメガ/スピードマスター マークII

製造者: オメガ
Ref.: 327.10.43.50.06.001(グレーダイアル)
機能: 時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、30分積算計、12時間積算計、日付表示
ムーブメント: Cal.3330(C.O.S.C.認定公式クロノメーター、ベースムーブメント:ETA7750)、自動巻き、2万8800振動/時、31石、耐震軸受け(ニヴァショック使用)、バランスウェイト付きテンワ、シリコン製ヒゲゼンマイ、パワーリザーブ約52時間、直径30㎜、厚さ7.9㎜
ケース: ステンレススティール製、無反射加工フラット型サファイアクリスタル風防、スクリュー式ソリッドバック、10気圧防水
ブレスレットとバックル: ステンレススティール製ブレスレットおよびラックを用いた微調整可能なプッシャークラスプ
サイズ: 縦46.2×横42.4㎜、厚さ14.85㎜、総重量181g
バリエーション: 黒文字盤バージョンあり
価格: 57万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時     / クロノグラフ作動時
文字盤上 +4 +6
文字盤下 +5 +5
3時上 +3 +4
3時下 +1 +1
3時左 +2 +2
3時右 +3 +4
最大姿勢差: 4 5
平均日差: +3 +3.7
平均振り角:
水平姿勢 279° 267°
垂直姿勢 268° 257°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 7pt.
ムーブメント(20pt.) 15pt.
精度安定性(10pt.) 9pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 82pt.

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