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ロンジン/コラムホイール クロノグラフ(1/1) 2012年01月号(No.38)

LONGINES COLUMN-WHEEL CHRONOGRAPH

時計の歴史の中で、数々の貢献を果たしてきたロンジン。現在、控えめな印象だが、今後、新たな展開を迎える期待が高まっている。新型専用キャリバーの登場は、実力派の底力とポテンシャルを見せつけてくれた。

アレクサンダー・リンツ: 文 Text by Alexander Linz
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

point
・オリジナルキャリバーを搭載
・トレンドの設計を最新技術で提示
・緩急調整が完璧
・コストパフォーマンスに優れた価格設定

point
・プッシュボタンのセッティングが安定感に欠ける
・ラグ先端のシェイプが直線的
・日付修正ボタンが小さすぎる

 

第2幕への予鈴

ンジンが2010年に発表したコラムホイール クロノグラフで見せてくれた開発力とパフォーマンスは、もう称賛するほかはない。現在のロンジンは、スウォッチ グループの中でのブランドとしての格付けは、ティソやサーチナより明らかに上だが、オメガの下に押し込まれている感は否めない。しかし、その実体は、サンティミエに根を下ろし、世界に輝かしき名を馳せてきた実力派の老舗である。成功の鍵は商品そのものにある。そして、適正な価格設定が販売店との長い取引関係を築き上げてきたのだ。

そのロンジンが、ブランドオリジナルのクロノグラフムーブメントをコレクションに加えたのがこのモデルだ。機械式ムーブメントの粋を集めた新キャリバーL688・2は、ETAが自社キャリバーA08・231をロンジンのために仕上げたエクスクルーシブムーブメントであり、今後も専用機として独占使用が決定している。
開発プロジェクトが始まったのは08年。翌09年のバーゼルワールドでキャリバーL688・2が発表され、10年にクロノグラフの新製品として披露された。それ以降、着々とデリバリーされている。このロンジン専用新型クロノグラフムーブメントは、ETAの従来のクロノグラフムーブメントに比べてはるかに知的な仕上がりになっている。なにしろ設計したエンジニアと時計師は、精巧なクロノグラフムーブメントにかけてはノウハウに長けたスペシャリストたちだからだ。既存ムーブメントの何を生かして何を新しくするかは早々と決まった。まず、腕の動きをきっちりと一方向に整流して伝える片方向巻き上げ方式や、ニヴァロックス製の2万8800振動/時の脱進機、10時位置のケースサイドに修正ボタンを置く日付のクイックコレクト機構などが採用されている。

そして、クロノグラフ機構には信頼性に定評のあるスイングピニオンによる伝達方式が採り入れられた。これは揺れ動くように組み込まれた軸(ピニオン)の上下それぞれの端に備えられたカナが、時計の通常輪列とクロノグラフ輪列を連結する機構である。軸の文字盤側にあるカナは、スモールセコンドを動かす4番車と常に噛み合う。クロノグラフのスタートボタンを押すと、軸の裏蓋側にあるカナが発停レバーによって秒クロノグラフ車(クロノグラフランナー)の歯先に噛み合い、4番車の動力をクロノグラフ機構に伝達し、計測が始まる仕組みになっている。
キャリバーL688・2では、可能な限り経路の短い効率的な切り替え制御を追求してきたこれまでの改良技術が発揮され、厳選された少ないパーツ数で高い品質基準を実現。さらに、メンテナンスしやすいのも特徴だ。スタート/ストップボタンおよびリセットボタンの相関的なメカニズムは、このキャリバーでも存分に生かされている。その中で重要な役割を果たすのが、クロノグラフ秒針と積算計の針を瞬時に帰零させるふたまたのリセットハンマーである。

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コラムホイール方式を採り入れたロンジン専用キャリバーL688.2は、今までの改良ノウハウがトレンドに生かされた会心の出来だ。外観は装飾的ではないが、この価格帯では満足の仕上がり。

スタート、ストップ、リセットの
メカニズム

ここで、クロノグラフ機能使用時のメカニズムを見てみよう。2時位置のスタートボタンを押すと、作動レバーが押される。たいていのクロノグラフでは長いパーツを使用しているが、このキャリバーではかなり短めに作られており、これがコラムホイールを押し回して正しいポジションに導くことに技術力が現れる。コラムホイール制御レバーがポジションをキープしつつ、コラムホイールが右回りに動くと、発停レバーの片方の先端がコラムホイールの柱と柱の間に入り込み、発停レバー全体が右に傾く。もう片方の端にはスイングピニオンレバーを動かすポストが取り付けられ、ポストは右回りに少し傾く。

すると、スイングピニオンレバーの端が連動して反対方向に傾き、裏蓋側のスイングピニオンのカナが右に寄って、秒クロノグラフ車(クロノグラフランナー)に噛み合い、スイングピニオンによる動力伝達によって文字盤側の4番車の動きとシンクロする。これらの動きと同時に時クロノグラフ車を止めていたブレーキレバーが解除され、クロノグラフの計測が始まる。秒クロノグラフ車と分クロノグラフ車の間には中間車があり、動力がリレーされて分積算計測が成立する。ブレーキレバーが解除されると時クロノグラフ車もゆっくりと動き出す。この歯車は、伝統的に香箱車から直接、動力を得て駆動する設計である。

2時位置のプッシュボタンを再度押してストップをかけると、コラムホイールが再び右へ回る。柱の位置がワンポジション移動することにより、発停レバーの先端が柱の間から押し出され、レバー全体が左側に寄る。すると、スイングピニオンレバーは右に動いて秒クロノグラフ車と噛み合っていたスイングピニオンのカナを引き離し、同時にブレーキレバーが働いて秒クロノグラフ車を止め、クロノグラフ機能は停止する。さらに、プッシュボタンを押さない限り、この状態はキープされ、文字盤上の計測データはそのまま残る。この状態からもう一度、2時位置のプッシュボタンを押すと再スタートし、中断時点からの計測を継続していく。

spec130116lo67c.jpg

堅実なムーブメントとフェアプライスは、ほかにはない逸品。ケースのディテールには今後の改善を期待。10時位置のケースサイドには日付修正用のプッシュピースがある。修正には付属品の専用スティックが必要。

理論が裏付ける実力

今回のテストウォッチも、プッシュボタンのなめらかな押し心地に関しては想像通りだ。しかし、これは筆者の個人的な感想なのだが、少々満足できないところもあった。プッシュボタンの押し心地自体はよいのだが、取り付けにゆとりがありすぎてカタカタしていたのだ。これはケース側面のプッシュボタンホールの位置取りがずれていたからではないだろうか。これだけ魅力的に作られたムーブメントを載せた安価とは言えない時計だけに、これはやはりいただけない。それともうひとつ。ラグの先端のシェイプは直線的過ぎると言わざるを得ない。この2点が玉にきずといったところだろうか。
しかし、それより目を引くのはパーフェクトな精度だ。歩度測定機にかけた結果、日差はゼロからごく狭い幅にとどまった。クロノグラフのオン、オフどちらの場合もである。この安定性は極めて模範的だ。それは6姿勢すべてにおいて、振り角が同じ調子であることからも大いに納得させられる。着用テストでも同様の結果であった。これこそが、ロンジン新キャリバーのクォリティなのだ。

ブリッジや地板、着色処理の青いコラムホイールなどのムーブメントの美しい仕上げも、この価格帯では上々で好印象が持てる。日付のクイックコレクト用プッシュピースが、10時位置のケース側面にあるのも悪くない。もっとも、プッシュポイントはもっと気を使って、こんなに小さくしないでもらいたかった。専用の修正スティックが付属品としてあるにはあるが、こういうものを、外で使いたい時にちゃんと携帯していたためしがあるだろうか?

視認性については、ライトトーンの文字盤とロジウムメッキの針なので、普通の明るさで読み取る時は見やすい。だが、明るすぎる時や暗すぎる時は、事情が異なる。明るすぎると光が反射してコントラストがはっきりしない。そして、強力と誉れ高い夜光塗料スーパールミノーバが、文字盤と時針・分針に使われてはいるが、蓄光式の夜光塗料は最初に光を受けてこそ、暗い環境下で浮かび上がる性質のため、この小さな使用面積ではいきなり暗いところで見るには少々厳しいだろう。
針の長さに関しては苦言を呈したい。分針とクロノグラフ秒針があと1mm長ければ、文字盤外周のドットインデックスにきちんと届くものを。こうした点は、普通に考えたら取るに足らないウィークポイントだと言われたらそれまでだが、クロノグラフを購入しようとする多くの愛好家にとっては気になるところだろう。

この観点からすると、捨て置けない点はほかにもある。このモデルのムーブメントは8振動/秒なのだが、ドットインデックスの間に8分の1秒刻みの目盛りが入っていないのだ。クロノグラフにおける目盛りの有無は、朝食のゆで卵の固さやスパゲティのゆで具合、紅茶の抽出時間の長さ同様、永遠のテーマでもあるのだが、クロノグラフにトラッドかつ洗練された風格を添える要素のひとつなのだ。しかし、目盛りがないだけに、明らかにトラッド感よりスポーティーさが表現されていると言えよう。

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尾錠には伝統のロゴマーク“翼の砂時計"があしらわれている。形状はシンプルだが、生真面目さが伝わる作りだ。

拍手をもって迎えたい佳作

いずれにしても強調したいのは、ロンジンがコラムホイール式のクロノグラフを作るようになったことは素晴らしいということだ。この奮闘には、やはり“ブラボー”のひと声をかけたい。なんといっても、現在、このフェアプライスでこれだけ堅実な設計のものは、ほかには見当たらないのだ。
願わくは、我々クロノグラフ愛好家の批評が、ロンジンに建設的に受け止められんことを。我々はかつてのロンジンの栄華を知っている。今回、新キャリバーで底力を見せつけてくれたロンジン。このコラムホイール クロノグラフの登場は、ロンジンの新たな展開を我々に見せる、第2幕への予鈴のように思えてならない。

技術仕様
ロンジン/コラムホイール クロノグラフ

製造者: ロンジン
Ref.: L2.733.4.72.2
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、60秒・30分・12時間積算計を備えたクロノグラフ
ムーブメント: Cal.L688.2(ETA Cal.A08.231)、自動巻き、2万8800振動/時、27石、耐震軸受け(エタショック使用)、平ヒゲゼンマイ(ニヴァロックス1使用)、グリュシデュール製テンワ、拘束角53°、片方向巻き上げ式ローター、パワーリザーブ約54時間、直径30.0mm(13 1/4リーニュ)、厚さ7.9mm
ケース: SS製スリーピース、スナップ式裏蓋、トランスパレントバック仕様、サファイアクリスタル風防(片面無反射コーティング)、3気圧防水
ストラップとバックル: クロコダイルストラップおよびSS製尾錠
サイズ: 直径39mm、厚さ13mm、重量102g
バリエーション:  
価格: 32万5500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時     /  クロノグラフ作動時
文字盤上 0 -0.5
文字盤下 +3 +3
3時上 +1 +2
3時下 +1  0
3時左 +2 +2
3時右 +1 0
最大姿勢差: 3 3.5
平均日差: +1.3 +1.1
平均振り角:    
水平姿勢 311° 297°
垂直姿勢 285° 268°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 6pt.
デザイン(15pt.) 12pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 15pt.
精度安定性(10pt.) 10pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 80pt.

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