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A.ランゲ&ゾーネ / サクソニア・アニュアルカレンダー(1/1) 2010年11月号(No.31)

A. LANGE & SÖHNE SAXONIA ANNUAL CALENDAR

サクソニア・アニュアルカレンダーによって、A.ランゲ&ゾーネは年次カレンダーという有意義な複雑機構を初めて市場に送り出す。永久カレンダー搭載モデルよりもかなりリーズナブルでありながら、使い勝手はほとんど変わらない。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・調和の取れた デザイン
・完璧な加工品質
・美しいマニュファクチュールキャリバー
・視認性に優れた日付表示

point
・日付の切り替わりが遅い
・精度がやや劣る

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便利なゼロリセット機構により、リュウズを引き出すと同時に
秒針がゼロにジャンプし、正確な時刻合わせが簡単に行える。

ハンドエングレービングが施されたSAX-0-MATほど、自動巻き機構と伝統が見事に融合したキャリバーは数少ない。カレンダー機構は文字盤のすぐ下に格納されている。

待ち望まれた成果

ニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネは、すでにいくつもの複雑機構を時計に搭載している。レパートリーは、アウトサイズデイトからムーンフェイズ表示、ワールドタイム機能、クロノグラフ、そして、トゥールビヨンや永久カレンダーに至るまで幅広い。また、チェーンフュジーによる駆動、分積算計のラトラパント針、瞬転数字ディスクによる時・分表示といったA.ランゲ&ゾーネならではの特殊機構も数多い。だが、多彩なラインナップの中で唯一、欠けていたのが年次カレンダーなのである。

永久カレンダーなら、A.ランゲ&ゾーネはすでにランゲマティック・パーペチュアルで搭載している。サクソニア・アニュアルカレンダーは、このモデルと著しく類似した自動巻きキャリバーであるにもかかわらず、657万3000円というランゲマティック・パーペチュアル(18KPGケース+クロコダイルベルト)の価格の半分に少々プラスした金額で手に入る(371万7000円)。サクソニア・アニュアルカレンダーに対するランゲマティック・パーペチュアルの付加機能は、閏年表示とデイ・ナイト表示である。もちろん、カレンダーを修正する回数が圧倒的に少なくて済むのは、永久カレンダーの最大の利点だろう。永久カレンダーは閏年になっても2月の日数を間違えない。そのため、我々が使用しているグレゴリオ暦の規則に従って閏年が省略される次の世紀年、つまり、2100年まではカレンダーを修正しなくてもよいのだ(グレゴリオ暦では世紀の変わり目となる年を100年ごとの世紀年と定め、その年の閏年を省略することで暦のずれを調整する。ただし、400で割り切れる年は例外として閏年となる)。

年次カレンダーでも永久カレンダーと同様に、日数が30日の小の月と31日ある大の月は正しく切り替わる。12月から1月、7月から8月のように、大の月が連続する場合も問題ない。ただ、小の月でも日数の少ない2月は認識されずに30日と見なされてしまうため、1年に1回、2月末日から3月1日に切り替わる時だけは手動で修正しなければならない。それでも、普通のカレンダーでは1年に5回、手動修正が必要なことを考えれば、年次カレンダーの優位性は明らかである。その点を考慮すると、永久カレンダーの最大の長所は少々色褪せて見えてしまう。年次カレンダーも永久カレンダーと同じように、曜日や月、ムーンフェイズを表示できるからだ。そればかりか、サクソニア・アニュアルカレンダーはきわめて高精度のムーンフェイズをランゲマティック・パーペチュアルから受け継いでいるので、ムーンフェイズに1日の誤差が生じるのは122年に1度だけである。

いずれにしても、サクソニア・アニュアルカレンダーは、デザインの面ではランゲマティック・パーペチュアルよりも成功していると言えるだろう。月を表示するサブダイアルの下端にあった針付きの小さな閏年表示と、曜日表示の内側にあった針付きのデイ・ナイト表示を廃したことで、レイアウトはすっきりとまとまり、完璧にシンメトリックな文字盤構成が実現した。また、4面すべてにファセットを施したバーインデックスやふくらみを持たせたランセット型(披針形)ハンド、ムーンフェイズディスクに出現する完璧に磨き込まれた月など、ディテールへのこだわりも随所に見ることができる。
サクソニア・アニュアルカレンダーのデザインは、非常に調和が取れている。しかし、まさにこの点がゆえに、ランゲ1やランゲ・ツァイトヴェルクの並外れたデザインのような独自性をあまり感じられないのも事実である。

シンプルなデザインの副産物として、サクソニア・アニュアルカレンダーは良好な視認性を実現することができた。ブルースティールの針は、シルバー無垢の文字盤とのコントラストが抜群である。A.ランゲ&ゾーネ特有のふたつの窓で表示するアウトサイズデイトによって、日付はひと目で読み取ることができ、月表示は奇数月を省略したことで、かえって視認性が向上した。曜日と月については、英語表示だけでなく、ドイツ語版のバリエーションも用意されている。だが、曜日と月のサブダイアルの場合は、表示情報を即座に読み取るというわけにはいかない。また、夜光塗料が使用されていないので、夜間は文字盤も暗いままだ。
サファイアクリスタルの風防も視認性に貢献している。ガラスがあることがほとんど見えないくらいに無反射加工のクォリティが高く、一瞬、組み立て時に風防を付け忘れてしまったのではないかと疑うほどである。

修正可能なカレンダー

わずかな欠点を挙げるとすれば、日付が完全に切り替わるのに午後11時55分前から午前0時25分まで、30分かかることだろう。時計を長期間、着用しなかった場合は、カレンダー表示をケース側面にある埋め込み式プッシャーで修正することができる。アウトサイズデイトは10時位置、曜日は9時位置、ムーンフェイズは8時位置、そして、月は3時半の位置にある埋め込み式プッシャーで修正する。この時、滑ってケースを傷付けないように、修正用のピンが同梱されている。これらの修正用プッシャーは、作り込みの秀逸なケースのサテン仕上げの胴にうまく埋め込まれているので、外観はほとんど害されていない。リュウズは容易に引き出して回すことができる。リュウズを引き出すと、特許技術の秒針位置合わせメカニズム、ゼロリセット機構によってテンプが止まるだけでなく、秒針が瞬時にゼロの位置にジャンプする。リュウズを押し込めば、秒針は再び動き出す。この便利な機構は、クロノグラフ機構と同じように4番真(秒針軸)に取り付けられたハートカムによって作動する仕組みで、時刻を時報や電波時計と完璧に同期させることができる。
装着感を高める

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サクソニア・アニュアルカレンダーは、クラシカルなフォルムと
シンメトリックな文字盤構成により、ほぼ完璧な調和を生み出している。

サクソニア・アニュアルカレンダーのディテールへのこだわり。ファセットカットされたインデックスとふくらみを持たせたランセット型ハンドは加工が完璧。

装着感を高める尾錠とストラップの品質

一般にはフォールディングバックルのほうが好まれる傾向があるが、尾錠も実用的である。ストラップの通りが良い尾錠とカーブを持たせたツク棒によって、ストラップは折れ曲がることがなく、尾錠はぴったりと手首に収まる。A.ランゲ&ゾーネの尾錠にはバーがもう1本、横に渡されているので、安定感も抜群だ。薄く、長さも短い尾錠には圧迫感がまったくなく、装着感はフォールディングバックルに勝る。また、ズボン用のベルトのバックルと比べてみても、尾錠の取り扱いがとりわけ面倒というわけでもない。
尾錠もケースと同じようにクリーンな作り込みで、きわめて入念なポリッシュ仕上げが施されている。ストラップにもコストや労力を惜しんでいない。斑の美しいクロコダイルレザーを使用したストラップは、数あるベルト仕立ての中でも最も贅沢なへり返し仕立てである。へり返し仕立てとは、表革の縁で中の芯材を包み込んで接着し、裏革を縫い合わせていく方法だ。A.ランゲ&ゾーネのストラップの場合は、馬具縫いと呼ばれる手法によって、仕上げの縫製が手作業で行われている。
ストラップは十分なしなやかさを備えているため、手首に着ければ装着感の良さになおのことうなずけるだろう。100グラムに満たない軽量構造と10mm未満のケースの厚さ、そして、滑らかなサファイアクリスタル製トランスパレントバックの恩恵により、サクソニア・アニュアルカレンダーは身に着けるのが非常に心地良い時計に仕上がっている。

ムーブメントの素晴らしい眺め

サファイアクリスタルのトランスパレントバックにも風防と同じことが言える。ガラスの存在を忘れさせるほど、無反射コーティングのクォリティは高い。そのおかげで、SAX-0-MATと呼ばれる自動巻きキャリバーL085・1を隅々まで堪能することができる。A.ランゲ&ゾーネの特徴でもある贅沢な装飾が随所に施されたキャリバーは、まさに鑑賞する価値がある。唯一、手巻きキャリバーに見られるビス留め式ゴールドシャトンは諦めなければならないが、同社のブランド名を手彫りで美しいレリーフに仕上げたゴールド製4分の3スケールローターが十分、その埋め合わせをしてくれる。このほか、洋銀製の4分の3プレートや受け、地板には、A.ランゲ&ゾーネ独特のストライプ、ペルラージュ模様、サンバースト仕上げなど、さまざまな模様彫りがなされている。ハンドエングレービングが施されたテンプ受けも、スワンネック型緩急調整装置や、ガンギ車を固定するブラックポリッシュ仕上げの受けと同様、マニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネのお家芸のひとつである。さらに、チラネジテンプ、頭部を鏡面で仕上げたブルースクリュー、そして、面取りしてポリッシュをかけたエッジなど、A.ランゲ&ゾーネの装飾は見飽きることがない。

このムーブメントには、構造の面でも説得力がある。外周部にプラチナ製の分銅を備えたゴールドローターはボールベアリング式で、両方向に巻き上げる。スイッチングロッカーと減速中間車のスムーズな動きを確保するのは、4カ所に内蔵されたボールベアリングである。また、先述のゼロリセット機構によって秒針が瞬時にゼロに戻るため、時刻を正確かつ容易に合わせることが可能である。ただ、年次カレンダーは文字盤側に格納されているので、そのメカニズムを見ることはできない。

では、A.ランゲ&ゾーネの年次カレンダーはどのように機能するのだろうか。まず、筒車の動きが24時車に伝わる。24時車の上には独立した切り替え爪が固定されている。この切り替え爪は、午前0時になると曜日とムーンフェイズを1日分、先に送る一方で、メインレバーを通じて31日車も1日分、先に進める。31日車は、日付が31日から1日に切り替わる時に月車も一緒に切り替える。では、日数が30日の小の月では、どのように次の月の1日に切り替わるのだろう。この動作のために、月プログラム車と呼ばれる、小の月用の段差を持つディスクが月車と同軸に取り付けられている。小の月の段差を触針が読み取ることで、触針と連結したシーソープレートが月プログラム車から押し出される仕組みだ。毎日の切り替わり時には、メインレバーによってこの触針も動く。この時、触針は31日車の上に固定されたスネイルカムを先に進めようとするが、触針がスネイルカムに噛み合う月末にならないと、このメカニズムは機能しない。小の月の場合、この現象が30日の時点で起こる。なぜなら、触針がシーソープレートとともに月プログラム車から押し出されるからである。

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見事な尾錠の造形と仕上げ。
使い勝手の良い尾錠は、フォールディングバックルの存在意義を脅かすかもしれない。

永久への小さな一歩

技術に造詣の深い読者なら、サクソニア・アニュアルカレンダーが永久カレンダーとよく似たメカニズムであることに、すでにお気づきではないだろうか。特に、48の段差を持つ月プログラム車が4年で1回転することや、月を表示するために減速歯車がもうひとつ必要な点などがよく似ている。ランゲマティック・パーペチュアルの永久カレンダーの構造を見てみても、使用されている技術は実際、同じである。年次カレンダーではデイ・ナイト表示の針と閏年を示す針がなく、48の段差を持つ月プログラム車の2月の段差が永久カレンダーほど深く切り込まれていないことが、わずかな相違点である。つまり、部品点数476個のサクソニア・アニュアルカレンダーのムーブメントが、ランゲマティック・パーペチュアルよりも2個、部品が少ないだけで、厚さもほとんど変わらないのは、少しも不思議ではないのだ。

これは、ポルシェがエントリーモデルをポルシェ911の半額で提供するケースに例えられるだろう。タイヤの仕様が異なるために最高速度が時速280kmではなく時速140kmに制限されているのが、唯一の違いである。こうしたケースは、自動車の世界だけではなく、時計でも珍しくない。だが、例えばパテック フィリップなど、他社の年次カレンダーは、永久カレンダーよりもかなりシンプルに設計されており、永久カレンダーとは別に開発された独自の構造を持っている。

複雑であるという理由だけで永久カレンダーの価格が跳ね上がる実情を鑑みれば、A.ランゲ&ゾーネの取った行動には一層驚かされる。しかし、年次カレンダー専用のカレンダー機構を別途開発するほうが、永久カレンダーをモディファイするよりももっとコストがかかることなのだろう。いずれにしても、サクソニア・アニュアルカレンダーの購入者にとっては、永久カレンダー並みに複雑な技術を搭載した時計が、ランゲ1・ムーンフェイズのゴールドモデル(393万7500円)を下回る価格で手に入れられるわけだから、これほどうれしいことはない。

技術仕様
A.ランゲ&ゾーネ/サクソニア・アニュアルカレンダー

製造者: A.ランゲ&ゾーネ
Ref.: LS3303AP
機能: 時、分、秒、アウトサイズデイト、曜日表示、月表示、ムーンフェイズ
ムーブメント: L085.1、自動巻き、2万1600振動/時、43石、耐震軸受(KIF使用)、グリュシデュール製テンワ、スワンネック型緩急調整装置、ハンドエングレービングが施されたテンプ受け、パワーリザーブ約46時間、直径30.4mm、厚さ5.4mm
ケース: 18KWG製、サファイアクリスタル製の風防ガラス(無反射コーティング)、6カ所でネジ留めされたサファイアクリスタルのトランスパレントバック(無反射コーティング)、3気圧防水
ストラップとバックル: 手縫いのクロコダイルベルトおよび18KWG製尾錠
サイズ: 直径38.5mm、厚さ9.8mm、総重量96g
バリエーション: 18Kピンクゴールド(371万7000円)
価格: 371万7000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時
文字盤上 +7
文字盤下 +5
3時上 -3
3時下 -3
3時左 -4
3時右 -3
最大日差: 11
平均日差: 0
平均振り角:
水平姿勢 321°
垂直姿勢 284°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 6pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 86pt.

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