レイモンド ウェイル 時代の波に乗る「ミレジム」とフラッグシップ「フリーランサー」

2025.07.15

GPHGでのチャレンジウォッチ部門賞受賞以降、さらに存在感を増すレイモンド ウェイル。フラッグシップコレクション「フリーランサー」の最新作を例に、同社が世界的に高い評価を得る理由を探る。

吉江正倫:写真
Photographs by Masanori Yoshie
野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
Edited by Yuto Hosoda(Chronos Japan)


〝新進気鋭〞から〝成熟定番〞へ

フリーランサー コンプリートカレンダー

フリーランサー コンプリートカレンダー
サンレイ仕上げのデューンカラーダイアルに、ローズゴールドPVD仕上げのケースが華やかなモデル。厚みのあるカーフレザーストラップに施されたステッチが、程よいカジュアル感を演出する。自動巻き(Cal.RW3281)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SS+PVDケース(直径40mm、厚さ10.15mm)。100m防水。62万7000円(税込み)。

 クォーツウォッチの普及に伴う激動の時代を迎えつつあった1976年、スイスの伝統的な時計製造技術を後世に残すべく、時計職人レイモンド・ウェイルは、自身の名を冠した時計ブランドを創業した。その高い志の下、レイモンド ウェイルは、グローバルを視野に入れた販路拡大と、独自性あふれる製品開発に注力。急速な再編が進む時計業界において独立を貫き、家族経営を堅持しながら、成長を遂げてきた。やがて、良質な腕時計を手掛けるブランドとして確固たる地位を築いた同社だが、一躍世界にその名を知らしめたきっかけは、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)2023のチャレンジウォッチ部門賞受賞だろう。その栄誉を勝ち取った「ミレジム」は、ネオヴィンテージをコンセプトに掲げ、アールデコ様式のセクターダイアルやボックス型サファイアクリスタル風防、長めのラグを備えたクラシカルなデザインを、直径39.5mmの現代的なサイズでまとめ上げたドレスウォッチであった。

フリーランサー コンプリートカレンダー

フリーランサー コンプリートカレンダー
5連タイプのステンレススティールブレスレットを採用した、ビジネスシーンにもふさわしい落ち着きのあるブルーダイアルモデル。凝った機構を搭載しつつも薄型のケースは、シャツの袖口にも上品に収まってくれる。自動巻き(Cal.RW3281)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.15mm)。100m防水。62万7000円(税込み)。

 当初はセンターセコンドモデルとスモールセコンドモデルがリリースされたが、徐々にバリエーションを増やし、ムーンフェイズやクロノグラフを搭載したモデル、直径35mmケースを採用した小径モデルまで、幅広い顔ぶれがそろう一大コレクションへと成長した。

 ミレジムの成功は、レイモンド ウェイルへの注目を集めることに貢献したが、半面、ブランドとコレクションとの結び付きが強く浸透した状況をつくり出した。しかし、約半世紀の歴史を持つ同社の魅力は、最新コレクションのミレジムだけで測れるほど浅くない。

 ひと味違った観点からレイモンド ウェイルらしさを堪能できるのが、2007年に誕生したフラッグシップコレクション、「フリーランサー」だ。中でも25年新作のコンプリートカレンダーモデルは、好例と言えるだろう。

ミレジム 35 センターセコンド ジャパン リミテッド エディション、ミレジム 35 スモールセコンド

(左)ミレジム 35 センターセコンド ジャパン リミテッド エディション
(右)ミレジム 35 スモールセコンド

GPHG2023でのチャレンジウォッチ部門賞受賞によって大きく注目を集め、瞬く間にレイモンド ウェイルを象徴するコレクションへと成長したミレジム。ネオヴィンテージをコンセプトに掲げ、セクターダイアルや長めのラグといったクラシカルな要素を生かしつつ、モダンさを融合させることに成功している。2025年新作では、35mm径ケースモデルをさらに拡充し、女性や腕の細い男性にとっても、より手に取りやすい存在となった。左はケース径35mmセンターセコンドのデニムブルー文字盤モデルからラグのダイヤモンドを取り払った日本限定モデル。(左)自動巻き(Cal.RW4200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径35mm、厚さ9.18mm)。50m防水。36万3000円(税込み)。(右)自動巻き(Cal.RW4250)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径35mm、厚さ10.25mm)。50m防水。34万1000円(税込み)。

 全体的なデザインは、エレガントかつクラシカル。シャープなラグを備えた正統派なラウンドケースは、ドレッシーさを漂わせながらも、休日のゆったりとした時間にもふさわしい空気をまとっている。驚くべきは、コンプリートカレンダーという厚みの出やすい機構を搭載しながらも、直径40mm、厚さ10.15mmという実用的なサイズに収めた点だ。この見た目に反して、100m防水を備えていることも心強い。

 また、同様の機能を持つ時計では、ケースサイドにコレクターを備えていることが多いが、本作では代わりにスクエア型のボタンが埋め込まれている。これによって、細いピンなどの工具を使うことなく指先でカレンダーの調整を行うことが可能であり、さらにケースサイドのつるりとした美観を保つことにも成功している。

コンプリートカレンダー

月、曜日、日、そしてムーンフェイズ表示を搭載したコンプリートカレンダー。そのデザイン性と実用性の高さから、時計愛好家からも高い人気を集める機構だ。薄型のムーブメントでありながらも約56時間のパワーリザーブを備えており、安定して長時間稼働することができる。

 本作の最大の見どころがダイアルだ。12時側には月と曜日を示す小窓、6時側にはムーンフェイズと指針式の日付表示が同軸に配されている。細身のインデックスと針がドレッシーさを高めつつ、細かく目盛りを刻んだチャプターリングによって、ダイアル全体に凝縮感を生み出している。多くの要素をバランスよくまとめ上げているのは、芸術にも精通した同社らしい、細部への気配りがなせる業だろう。

 濃紺のムーンディスクには、あまたの星々が瞬き、丸い月が幻想的な世界をつくり出している。精密に描かれた月は、NASAが実際に撮影した月面画像にインスピレーションを受けてデザインされたもの。眺めるたびに、壮大な宇宙に思いを馳せるのもいいだろう。

ムーンフェイズディスク

NASAが撮影した月面画像にインスピレーションを得た、ムーンフェイズディスクの月。その精密な表情と周囲に瞬く星々が、見る者の目を奪う。ムーンフェイズ表示と同軸に配されているのはポインターデイト。針の位置によって、月初や月末を直感的に把握することができる。

 バリエーションは2種類が存在する。ローズゴールドPVD仕上げのステンレススティールケースモデルでは、温かみのあるデューンカラーのダイアルと、ブラウンの肉厚なカーフレザーストラップを組み合わせ、優雅な印象に。ブルーダイアルモデルでは、ステンレススティール製のケースとブレスレットを組み合わせることで、モダンに仕上げている。これら対極とも言える仕様の2種は、購入時に多くの時計愛好家を悩ませるに違いない。

 最新のフリーランサーが示すのは、機能性とデザイン性、そして実用性を高度にバランスさせた、レイモンド ウェイルのユーザーに寄り添う姿勢だ。逆境の中、高い志を胸に誕生した同社は、今なお、創業時と同じ思いを抱きながら、時計作りに向き合っている。

フリーランサー コンプリートカレンダー

シースルーバックからは、ムーブメントを鑑賞することができる。地板のペルラージュやブリッジのコート・ド・ジュネーブ、スケルトン加工のローター、テンプなど、見どころが満載だ。ねじ込み式の裏蓋によって100m防水をかなえている点も、本作の魅力である。



ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080


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