「ルミノール マリーナ」は、歴史的なパネライのデザインを体現する腕時計である。2025年に発表された新しいルミノール マリーナは、そのアイデンティティーを守りながら、細部の設計と性能を見直したものだ。デザインはよりピュアに、プロポーションはよりスリムに、そして実用性能も着実に向上している。

Text by Rüdiger Bucher
パネライ:写真
Photographs by Panerai
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
© WatchTime Germany
Originally published in WatchTime Germany
Reprinted with permission.
薄型化と防水強化で完成度を高めた新世代「ルミノール マリーナ」

「ルミノール マリーナ」は、歴史的なパネライのデザインを守る、いわば“聖杯の守護者”的存在である。クッション型ケース、レバー付きの目を引くリュウズプロテクター、サンドイッチ文字盤、そして9時位置のスモールセコンド。これらはいずれも、1940年代初頭の最初期の「ルミノール」にすでに備わっていた決定的なデザイン要素だ。

9時位置に配された秒針がブルーで彩られた、「ルミノール マリーナ」の先代モデル。製造・販売を終了した前期型は蓄光塗料がベージュで塗布され、トランスパレント仕様の裏蓋だったが、写真の後期型からはグリーンの蓄光塗料にソリッド仕様の裏蓋へと変更された。後期型のスペックは以下の通り。自動巻き(Cal.P.9010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径44mm)。30気圧防水。132万円(税込み)。
このようにアイコニックなモデルは、時計ブランドにとって慎重に進化させる必要がある。数十年にわたってアイデンティティーを保ち続けつつ、一定の周期で時代のニーズやデザイン感覚に合わせて、アップデートしなければならないからだ。これは容易な作業ではない。というのも、一挙手一投足のすべてが、ブランドそのもののイメージに影響を与えるからだ。
パネライはこの課題に取り組み、2025年春、新しいルミノール マリーナを、5つの新バリエーションで発表した。今回テストしたブラック文字盤のRef.PAM03312に加え、ブルー文字盤のRef.PAM03313、ホワイト文字盤のRef.PAM03314、ステンレススティール製ブレスレットを備えたRef.PAM03323(いずれもステンレススティールケース)、そしてグリーン文字盤を採用した、チタンケースのRef.PAM03325「ルミノール マリーナ チタニオ」がラインナップされた。これほど歴史的なデザインに密接に基づいた腕時計ならば、革新的な変更は期待できない。だからこそ、細部を見ると興味深い発見が得られるのだ。


Cal.P.980を搭載した新しい「ルミノール マリーナ」のチタン版という位置付けの「ルミノール マリーナ チタニオ」Ref. PAM03325の文字盤にはグリーンが採用されている。新しルミノール マリーナと直径や防水性能も同等だ。自動巻き(Cal.P.980)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径44mm)。50気圧防水。147万4000円(税込み)。
文字盤の細かな変更

以前のモデルであるルミノール マリーナのRef.PAM01312と比較すると、ひと目で分かる変更点が文字盤上には2点見受けられる。この変更点のために、腕時計のデザインはよりピュアな印象を受ける。ひとつは「Automatic」の表記を省いた点だ。文字情報は最小限に抑えられ、ブランド名とモデル名のみが残された。もうひとつは、スモールセコンドの針がブルーカラーではなく、時針、分針と同様にロジウムメッキ仕上げとなった点だ。これにより使用される色がひとつ減り、全体の調和がいっそう高まった。さらに、日付表示には段差のあるフレームが追加された。Ref. PAM03312の場合、フレームの縁も、日付表示ディスクもブラックで統一されているため、視認性が非常に優れているとは言い切れない。だが、文字盤をよりエレガントに見せる一助となっている。
文字盤はアワーインデックスのみを配した整理されたデザインで、強いコントラストによって視認性は良好だ。蓄光表示に関しても同様に視認性は高い。サンドイッチ文字盤の下層および針には、スーパールミノバX2が採用されている。この新世代の蓄光塗料は、X1と比べてより長く、より強く光を放つ。文字盤を覆うのは、従来通り、わずかにドーム型の形状をした、サファイアクリスタル製風防だ。デザイン上、重要な要素ではあるが、ポリッシュ仕上げのベゼルと同様、指紋が付きやすい点は正直否めない。

よりフラットな側面
横から見たとき、新しいルミノールマリーナは、以前のモデル以上にエレガントに映る。より薄型化されたためだ。従来モデルの総厚15.45mm(実測値)に対し、この新作の公式の数値は13.7mm(なお、ノギスでの実測値は13.6mm)となっている。海軍ダイバーが着用していた、ツールウォッチとしての出自を損なうほどの薄さではない。加えて、フォルムはよりバランスが取れており、装着時の快適さにも確実に寄与している。

この新作ルミノール マリーナに使用されているステンレススティールは、一般的に時計産業で用いられるステンレススティールよりも耐食性に優れ、特に海水に対してその性能を発揮する素材だ。使用されているAISI規格のステンレススティール316LVM(材料番号1.4441)は、より一般的な316L(材料番号1.4404)に比べ、ニッケルとモリブデンの含有量が多い。しかしながら、この素材自体は高価で加工が難しいため、その分価格に反映されてしまう。海軍向けの時計や機器を製造してきたパネライの歴史を踏まえれば、この特別に耐塩水性に優れたステンレススティールを選択した判断は、一貫性のあるものと言えるのではないか。
ラグ形状にも手が加えられている。正面から見るとより長くなり、側面では流線型のラインがやや下方へ引き伸ばされた。これにより装着感はより良好になった印象だ。ただし実際にはできるだけ手首に密着するように装着することが望ましい。ストラップの穴位置の関係でそれがかなわない場合、ケースが意図せず手首の外側へとずれてしまう恐れがある。
約3日間のパワーリザーブ
ムーブメントについては、パネライは新設計のものを採用した。従来のCal.P.9010に代わり、新しい自動巻きムーブメント、Cal.P. 980が搭載された。センターローターを備え、リシュモン グループ内のムーブメント工房、ヴァルフルリエで開発されたものである。Cal.P. 980も、それ以前のムーブメントと同様に、パネライが誇る約3日間のパワーリザーブを実現。ただし、Cal.P. 9010とは異なり、ひとつの香箱のみでそれを達成している。この点ではCal.P. 900に近い構成と言えるだろう。ムーブメントの総厚は4.2mmで、厚さ6mmのCal.P.9010よりも大幅に薄い。これにはふたつの利点がある。ひとつは前述の通りケースの薄型化、もうひとつはガスケットを強化できたことで、防水性能が30気圧から50気圧へと向上した点だ。
精度テスト
ルミノール マリーナは分目盛りを持たず、スモールセコンドにも詳細な秒目盛りがないため、文字盤上で日差を正確に把握することは難しい。しかし、ウィッチ製タイムグラファーによる精度測定では、6姿勢すべてでクロノメーターに匹敵する水準の数値を記録した。最大の進みはリュウズ右で日差プラス2秒、最大の遅れはリュウズ下で日差マイナス2秒にとどまった。この均質な結果は、パネライが6姿勢すべてで調整を行っていることを示している。これは、すべてのメーカーが実施しているわけでは決してない。
ただし、Cal. P. 980の調整作業は容易ではない。緩急針による微調整機構が搭載されてはいるが、時計師はヒゲゼンマイの有効長をヒゲ棒の位置を手動で移動させて調整する必要があるからだ。とはいえ、Cal. P. 9010と同様に、テンプが両持ちのテンプ受けに保持されている点は評価できる。これは衝撃に対する安定性を高める構造だからだ。
総合すると、24時間あたりの平均日差は0秒という、非常に良好な結果となった。いわゆるビートエラー(片振り)が1姿勢で許容範囲を外れていたが、実用上は無視できるレベルだ。
ストラップは簡単に交換可能

Ref.PAM01312と同様、本作Ref.PAM03312のルミノール マリーナにも2本のストラップが付属する。ブラックのアリゲーターのレザーストラップと、同色のラバーストラップだ。これにより、ある日はエレガントなドレスウォッチのように、翌日はスポーティーなツールウォッチとして使い分けることができる。レザーストラップは、高級腕時計にふさわしい大きな竹斑模様が特徴的だ。
ストラップ交換を容易にするため、パネライはルミノール マリーナとして初めてPAM クリックリリース システム™を採用した。工具は不要で、一般的なアビエ式のバネ棒のように爪を傷めることもない。ストラップ内部にプッシュ式の機構が組み込まれており、プッシャーを押すと、バネ棒を固定しているロックピンが後退し、バネ棒を引き抜くことができる。システムは簡単で快適だが、初めて操作しようとしたときには2、3回の練習が必要だ。というのも、バネ棒はまっすぐ抜けるのではなく、まず横に、次に前方へ動かす必要があるからである。再装着は、経験のない人でも一瞬で行える。両ストラップは、ケースと同様にヘアライン仕上げが施されたステンレススティール製のパネライ伝統の台形バックルによって手首に固定される。
総評
パネライはルミノール マリーナに穏やかなリニューアルを施した。外観上の変更は控えめだが好ましいものであり、技術面では薄型化、防水性能の向上、より明るい蓄光塗料、簡便なストラップ交換システムといった改良が加えられている。同時に、以前のモデルであるRef.PAM01312を「高価すぎる」と批判していた声に対して、この改良は評価を和らげる要素となったはずだ。というのも、これらの改良が加えられているにもかかわらず、価格は据え置かれているからだ。もっとも、絶対額としては依然として高価ではある。
パネライ「ルミノール マリーナ」のスペック

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・アイコニックなデザイン
・長時間持続する蓄光
・50気圧防水という高い防水性能
・優れた精度
・工具不要のPAM クリックリリース システム™
-point
・ケースが手首の外側にずれやすい
・ムーブメントの調整が難しい
技術仕様
| 製造: | パネライ |
| リファレンスナンバー: | PAM03312 |
| 機能: | 時、分、スモールセコンド(秒針停止機能付き)、日付表示 |
| ムーブメント: | Cal.P.980、自動巻き、2万8800振動/時、パワーリザーブ約72時間 |
| ケース: | ヘアライン仕上げとポリッシュが使い分けられたAISI316LVM(材料番号1.4441)ステンレススティール製ケース、レバー付きリュウズプロテクター、サファイアクリスタル製風防、サファイアクリスタルを用いたトランスパレント仕様のねじ込み式裏蓋、50気圧防水 |
| 文字盤: | マットブラックのサンドイッチ文字盤、インデックスの切り抜き、下層にスーパールミノバX2 |
| ストラップとバックル: | ブラックのアリゲーターレザーストラップおよびブラックラバーストラップ、PAM クリックリリース システム™、ステンレススティール製ピンバックル |
| サイズ: | 直径44mm、厚さ13.7mm、ラグ幅24mm、重量128g(実測値) |
| 価格: | 132万円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| 最大姿勢差: | 4秒 |
| 平均日差: | ±0秒/日 |
| 着用時平均日差: | −2秒/日 |
評価
| ストラップとバックル(最大10pt.) | 10pt. | 高級腕時計にふさわしい大きな竹斑模様のアリゲーターレザーストラップ。PAM クリックリリース システム™により、付属のラバーストラップとの交換も容易。 |
| 操作性(5pt.) | 5pt. | リュウズプロテクターに統合されたレバーにより操作は非常に簡単。 |
| ケース(10pt.) | 9pt | 「ルミノール マリーナ」らしいクッション型ケースと控えめな仕上げ。薄型化は明確なプラス要素。 |
| デザイン(15pt.) | 14pt. | 出自に忠実でありながら、現代的な感覚を適度に取り入れたデザイン。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 9pt. | 良好なコントラストのアイコニックなサンドイッチ文字盤。 |
| 視認性(5pt.) | 4pt. | 暗所でのコントラストは優秀だが、分単位での正確な読み取りはできない。 |
| 装着性(5pt.) | 3pt. | 細い手首ではケースが外側にずれやすい。 |
| ムーブメント(20pt.) | 13pt. | 約3日間のパワーリザーブと両持ちのテンプ受けを備えるが、調整は難しい。 |
| 精度安定性(10pt.) | 9pt. | 平均日差±0秒だが、最大姿勢差が4秒と、満点には届かない。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 8pt. | 価格は据え置かれているが、性能は向上している。 |
| 合計 | 84pt. |



