注目時計の〝中身〟を問う。新型ムーブメント深掘り鑑定術⑥ウブロ「Cal.HUB9013」

2026.07.13

カバーストーリー(https://www.webchronos.net/features/127954/)でも取り上げたMP-10は、あえてウブロのお家芸である多軸トゥールビヨンを封印し、時計製造の基本に立ち返ったモデルとなった。とはいえ、文字盤と針、そしてローターがないというから前代未聞だ。代わりに、ローラー式のディスプレイ、円筒状のパワーリザーブ、そして、ふたつのリニアウエイトで動く、自動巻きトゥールビヨンを搭載している。

MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム

ウブロ「MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム」
コンセプトモデルのようなデザインと機構をきちんとプロダクトに落とし込んだ大作。力業と思いきやリニアウエイトの滑らかな動きや人間工学的なケースがもたらす装着感など細部まで詰められている。自動巻き(Cal.HUB9013)。66石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Tiケース(縦54.1×横41.5mm、厚さ22.4mm)。3気圧防水。世界限定50本。

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奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌)、鈴木幸也(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Text & Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]


ウブロが作り上げた類を見ないマイルストーン

「時計製造の基本に立ち返った」と言いつつも、極めて野心的な構成を持つ「MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム」。併せてケースのデザインも、普通の腕時計とは全く異なるものだ。

 搭載するHUB9013は、水平方向に動くふたつのウエイトと、35度に傾いたトゥールビヨンを持つものだ。部品点数はなんと592。これほど複雑になった一因は、極めて野心的なリニア式のウエイトにある。

Cal.HUB9013

Cal.HUB9013
垂直に移動するリニアウエイトに、ローラーディスプレイと円筒状パワーリザーブ、そして35°に傾いたトゥールビヨンを持つムーブメント。香箱真を伸ばし、6時位置の輪列に動力を伝え、それを筒カナで時分のローラーに戻すという、類を見ない設計が特徴だ。にもかかわらず、巻き上げや時間合わせのリュウズは滑らかな感触を持つ。なお、裏に見える突起は、時刻合わせ用のリュウズ。強く押し込むと飛び出して、時刻合わせが可能になる。

 垂直の錘でゼンマイを巻くというアイデアはすでに存在するものだ。しかし、これらはショックに弱いという弱点があった。「リニアシステムの最も革新的な点は、徹底的なテストと、重量および緩衝システムの最適化によって、高い巻き上げ効率と強固な耐衝撃性を達成した点にある」とウブロは説明する。そのため開発チームは、何度も摩耗テストを行ったという。

 このシステムの鍵となるのが、ウエイトの上下に組み込まれたバネだ。ウブロが言うところのこの衝撃吸収システムにより、移動の終わりにウエイトの衝撃が吸収される。機構としては、昔のハーフローター自動巻きに組み込まれたバネに近いが、強いショックを受けた際でも、吸収を最適化するよう何度もテストされたという。もちろん、バネがあるおかげでウエイトが動く際のノイズも大きく低減されている。加えてウブロは、ウエイトと連結される自動巻き機構に、セラミックベアリングを内蔵したMPS製のリバーサーを採用した。新しいウニコも使うこのリバーサーは、コンパクトだが摩耗に強く、注油の必要もないため、巻き上げ効率が非常に高い。加えてノイズが小さいのも美点だ。長らく色物扱いされてきたリニアウエイト式の自動巻きを、ウブロは使えるものに進化させたのである。

 回転式の時分表示も、同様にユニークなものだ。これもすでに存在するものだが、MP-10のそれは、香箱から伸びた軸を6時位置のトゥールビヨンに伝え、それを長い筒カナで12時位置の時分表示に戻している。普通、これだけ軸が長くなると、どうしてもセンターがずれてしまう。対してウブロは、香箱の上下や6時位置の輪列に動力を伝える軸などに、ルビーを埋め込んで位置決めを正確にした。加えて、分表示のローラーに摩擦を加えることで、時分の各ローラーの表示精度を向上させたという。曰く「以前、MP-05で実装したように、ウブロはローラーを使用したタイプのディスプレイに豊富な経験を持っている」とのこと。その帰結が、極めて長い軸で支えられるMP-10のローラー式ディスプレイと言えるだろう。

Cal.HUB9013

軸をできるだけ伸ばさない、という時計業界の定石を覆したのがCal.HUB9013である。リニアウエイトを支える軸や、時分ローラーの軸などは極めて長い。しかし、正確な位置決めにより、このムーブメントの可動部品は極めて滑らかに動く。そのポイントのひとつが、至る所に使われた穴石だ。ウエイトの軸や筒カナを押さえる部分など、あらゆる可動部分にルビーが配されている。また、35°傾けられたトゥールビヨンキャリッジは、サファイアクリスタルで支えられている。

Cal.HUB9013

 このムーブメントは、トゥールビヨンキャリッジの固定もユニークだ。普通は軸だけで支えられるが、部品を挟み込むサークリップ式ロックで固定されているとのこと。おそらくは、斜めに置いたキャリッジの重さを分散させるためだろう。

 このユニークなムーブメントをくるむ外装も、負けず劣らず独創的だ。ストラップとケースは完全に一体化されたほか、リニアウエイトを見せるべく、サファイアクリスタルは側面まで広げられた。しかも、これほど複雑なサファイアクリスタルをウブロは接着のみで固定したという。曰く「サファイアクリスタルの接着は非常に高度な技術を要するため、相対的に複雑になる」。

 ウブロの持てる技術をすべて注ぎ込んで生まれたMP-10は、見た目以上に野心的なモデルだ。しかも感触を含めたその完成度は予想以上であった。このモデルは間違いなく、ウブロにとってのマイルストーンとなるはずだ。



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