2009年の発表以降、ブライトリングの基幹ムーブメントであり続けるCal.01。その究極がブランド創業140周年記念モデルに搭載されたCal.B19だ。基本的なアーキテクチャはCal.01を継承するが、性能は大幅に向上。加えて、瞬時送り式の永久カレンダーが備わったのである。その中身は、従来の永久カレンダーとは別物だ。

熟成したCal.01を改良しただけでなく、新規設計の瞬時送り式永久カレンダーを加えたムーブメント。リュウズだけですべてのカレンダーを早送りできるだけでなく、フリースプラングテンプの採用により、理論上の耐衝撃性も改善された。加えて、新しい香箱は約4日間もの長いパワーリザーブをもたらした。遊星歯車を用いたリバーサーにより、手巻き時の感触も軽い。直径30mm、厚さ8.58mm。
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
広田雅将(本誌)、鈴木幸也(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Text & Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
豪華なCal.01ではなく、次世代のコンプリケーション
鳴り物入りで発表されたブライトリングのCal.01は、2009年当時、最も野心的な自動巻きクロノグラフムーブメントだった。開発費は当時の金額で40億〜50億円、そして50以上のサプライヤーを巻き込み、7年もの歳月を費やしたのだから、これは時計業界において最も大がかりなプロジェクトのひとつであった。この01は中身も優れていた。約70時間もの実用的なパワーリザーブと、針飛びを起こしにくい垂直クラッチ、そしてコンパクトな両方向巻き上げ自動巻きは、01に第一級の性能をもたらした。

1940年代にリリースされたのがエレガントだが防水ケースを持つプレミエだ。そのデザインを継承したのが本作。しかし視認性を高めるため、タキメーターや文字盤にはブラックがあしらわれる。ブライトリングの考える複雑時計の集大成だ。自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ15.6mm)。10気圧防水。世界限定140本。
ちょっと脱線したい。セイコーが1969年に発売した自動巻きクロノグラフの6139は、モダンな垂直クラッチに薄いマジックレバー自動巻きを合わせた、いわば近代型クロノグラフの祖であった。この設計を洗練させたのが、1987年のフレデリック・ピゲ1185である。ムーブメントの中心に垂直クラッチを持つのは6139に同じ。しかし秒クロノグラフ車と30分と12時間積算計を同時にリセットするため、薄い一体型のリセットハンマーが加えられたのである。垂直クラッチを搭載した自動巻きクロノグラフでありながらも、1185が5.5mmという薄さを実現できた理由だ。
2000年初出のロレックスのCal.4130は、そう言って差し支えなければ1185の弱点を潰したムーブメントだった。垂直クラッチがオフセットされたのは、おそらく針を抜く際に垂直クラッチを壊さないため。また自動巻き機構も1185のコンパクトな両方向巻き上げから、ロレックス流の強固なリバーサーに変更された。自動巻きが小さい故に、1185は十分な巻き上げを与えることができなかった。それを改良することで、ロレックスは垂直クラッチを持つ自動巻きクロノグラフを業界標準としたのである。

こちらはおなじみナビタイマーに永久カレンダーを組み込んだモデル。見た目はデュボア・デプラ製のモジュールを用いた年次カレンダーに似ているが、構成は全く別物だ。ケースは厚いが、設計が巧みなためか腕馴染みも良好である。自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ15.62mm)。3気圧防水。世界限定140本。
この4130を踏まえて生まれたのが、ブライトリングのCal.01だった。オフセットした垂直クラッチや堅牢なリセットハンマーはロレックスの影響を受けていたが、リセットハンマーの頭が可動式になったため、組み立て時の微調整が調整不要になった。加えて、メンテナンスしやすいよう、自動巻きやクロノグラフ機構はモジュール化されたのである。発表当時、同社が「Cal.01は世界最高のクロノグラフ」と豪語したのは当然だろう。
加えて、ブライトリングは01の改良に努めてきた。見た目こそ変わらないが、垂直クラッチやリセットハンマー、緩急針や自動巻きなど、ほとんどの部品が変更されたのである。中でも重要な変更点はふたつある。まずはクロノグラフの中間車。かつては普通の真鍮だったが、UV-LIGAで成形された弾性のあるものに置き換えられた。これによりクロノグラフ車の挙動を押さえるための押さえバネが不要になり、クロノグラフ作動時の振り角が安定した。
もうひとつの改良点が、減速歯車を用いた新しいリバーサー(切り替え伝え車)だ。ブライトリングは2009年からこの重要な部品を内製化していたが、2022年末からは遊星歯車を用いた、より高効率なものに切り替えたのである。その結果、自動巻き機構の摩耗は抑えられ、手巻きした際の感触も軽くなった。加えて、自動巻きの巻き上げ効率もいっそう改善された。2023年(より正確に言うと22年末)にリリースされた第3世代をもって、01は再び第一線級のクロノグラフムーブメントに返り咲いたのである。

こちらはベゼルにセラミックスをインサートしたスーパー クロノマットのB19搭載機。タフな環境で使われる本作に永久カレンダーを載せられたのは、ムーブメントの耐衝撃性が向上したため。B19のキャラクターに最もふさわしいのは本作だろう。自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ15.35mm)。10気圧防水。世界限定140本。
前置きが長くなった。2024年発表のCal.B19とは、この第3世代01をさらにハイエンドに振ったムーブメントである。主な変更点は3つある。まずはブライトリングのモンブリラン工房を彫金したローター。これは同社の長い歴史を示すだけでなく、実際に役に立つものだ。というのも比重の高い22Kゴールドを採用することで、巻き上げ効率がいっそう改善されたのである。普通ローターを重くすると、巻き上げは良くなるが、自動巻きは摩耗しやすくなる。しかし第3世代01が採用したリバーサーは、従来に比べてはるかに耐久性が増した。おそらくブライトリングはB19の開発を見越して、リバーサーを改めたに違いない。
そしてもうひとつが、約96時間という長いパワーリザーブだ。ブライトリング曰く、これはゼンマイを伸ばすことで実現できたとのこと。詳細は不明だが、おそらくは香箱真を細くするなどで、より長いゼンマイを詰め込めるようになったと予想できる。ちなみにゼンマイが長くなると、当然ながら巻き上げ効率は悪くなる。しかし重いローターと新しいリバーサーはそれを補うには十分であった。

そして最後が、フリースプラングテンプの採用だ。長年、ブライトリングはエタクロン型の緩急針を採用してきた。これは調整がしやすい半面、頭が重いためショックに弱い。ブライトリングはこの緩急針を精密に調整し、そして強固に固定するノウハウを蓄積してきたが、B19では一転して、より衝撃に強いフリースプラングテンプとなった。詳細は不明だが、同社が取り組んできたテンワの内製化が、新しいフリースプラングテンプに結実したと言えるだろう。なお、ブライトリングが社内で計測したテンプの振り角は全巻きで200〜230度。リリース当初のモデルのためか決して高くはないが、24時間後も同じ振り角というから、B19の基礎体力は高そうだ。

意外だったのは、B19が搭載する永久カレンダーモジュールである。筆者はこれをデュボア・デプラ製と思っていたが、実は違うとのこと。ブライトリングはこの高名なムーブメントメーカーとパートナーシップを結び、永久カレンダーや10分積算のクロノグラフ、アニュアルカレンダーといった傑作を生み出してきた。しかしブライトリングは、デュボア・デプラのレイアウトを変えることなく一から永久カレンダー機構を起こしたのである。
開発責任者のジュリアン・ガティネはこう語る。「Cal.B19は瞬時送りの永久カレンダーなのです。ですから永久カレンダー機構は、日車の代わりにムーブメントの日付表示によって駆動します」。つまり、IWC「ダ・ヴィンチ」のような設計をとることで、B19の永久カレンダーは、リュウズを回すだけですべてを早送りできるようになった。加えて、オフセットしていたメインレバーもムーブメントの中心を通るようになった。理由はおそらく、瞬時送りを実現するため。そして、いっそうテコの原理を利かせるため。もうひとつの理由は、耐衝撃性を高めるためだろう。ちなみに、こういった設計はすでにパテック フィリップが永久カレンダーに採用するものだ。あくまで推測だが、ブライトリングは他社を十分研究したうえで、B19の開発に取り組んだのだろう。私見を言うと、この新しい永久カレンダー機構だけで、B19は “買い” だ。
大きく性能を高めた第3世代の01をベースに、さらに性能の底上げを図ったB19。これは決して、ローターを金に替え、永久カレンダーを加えただけの01ではない。ブライトリングが解釈した、新時代のコンプリケーションムーブメントなのである。





