ウォッチズ&ワンダーズ 2026に初出展したコルムは、ケース、ブレスレット、ムーブメントに至るすべてをリニューアルした新世代「アドミラル」を発表して注目の的になった。洗練されたコンテンポラリーの意匠を導入して生まれ変わったアイコンウォッチは、未来に向けたリブランディングに取り組むコルムを次のフェーズへと導くフラッグシップだ。

Text by Shigeru Sugawara
竹石祐三:編集
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年9月号掲載記事]
往時のアドミラルが有していたイノベーション、その再生を目指して
スイス時計産業の中心地のひとつで、世界遺産に登録されるジュラ山脈のラ・ショー・ド・フォンで1955年に創業したコルムは、ワン&オンリーの創作を貫いてきた個性派ブランドだ。ヨットレースの世界にまつわる「アドミラルズ・カップ」(現「アドミラル」)やサファイアクリスタルケースの中で摩訶不思議なバゲットムーブメントが時を刻む「ゴールデンブリッジ」、本物の金貨をくりぬいて腕時計に仕立てた「コイン」、意表を突くドーム型デザインで一世を風靡した「バブル」などの代表作は、日本でも熱心な時計愛好家たちを魅了してきた。

そのコルムは創業70周年の2025年に転換期を迎えた。コルムで時計師としてのキャリアをスタートさせ、後に国際市場の開拓で活躍したハソ・メフメドヴィッチが経営権を取得して、ブランドの継承と再始動に乗り出したのである。

会長兼CEOに就任した彼が取り組んだのは、選択と集中によるコレクションの再編成。そこで重要な柱のひとつに定めたのがアドミラルである。「1983年のアドミラルが持っていた革新性を取り戻し、本来そうあるべきであったメカニカルウォッチの完成度を与えること」との方針の下、主要な開発の軸を次の4つに定めた。
- ケースの再設計
- 新しいダイアルデザイン
- ケース一体型の新しいブレスレット
- 100%自社製の新型ムーブメント
ダイアル加工は専門会社のモントレモ、自動巻きムーブメントの開発は、パートナーのコンセプト社と共同で進めた。
そして、新生アドミラルのデザインを任されたのが、ほかならぬオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」を手掛けたことで有名なエマニュエル・ギュエだ。彼を選んだ理由は「単なる製品ではなく、文化的な存在となる時計をデザインできる人物であり、ロイヤル オークという名作を裏切ることなく、現代の感性に合わせて進化させることに成功したから」と語る。レガシーとコンテンポラリー、それこそがアドミラルを新世代へと導く指標だったに違いない。そして、メフメドヴィッチが彼に伝えたことはわずか3つだった。
- シグネチャーである十二角形ベゼルには手を加えない
- ブレスレットがケースから自然に一体となって見えること
- 国際海洋信号旗のインデックスはより控えめで現代的に
こうして、エマニュエル・ギュエが最初のラインを形作り、それをEDGEチーム(オリヴィエ・ルーとファブリス・ゴネ)が完成させた。コルムは4月のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026に参加してその成果を早速、世界に発信。直径39mmと36mmを合わせて11モデルを展開する新生アドミラルのコレクションが注目を浴びることとなった。
ここからは直径39mmケースのステンレススティールモデルに焦点を当て、リニューアルの詳細を見ていこう。まずは特徴的な3種類のグラデーションダイアルだ。海やセーリングに関連するアドミラルの世界観を最もよく伝えるのは、新しいブルーウェーブダイアルである。波の動きを感じさせながらも、規則的でも機械的でもない自然な表情を持つテクスチャーを新開発したこのダイアルでは、色そのものが主役になり、インデックスも国際海洋信号旗に由来する色彩が採用されている。ただし「エマニュエルと私は、国際海洋信号旗というモチーフや台形型の造形、シグナルとしての役割は受け継ぎながら、ヨットレースのペナントのような印象ではなく、高級時計らしい洗練された雰囲気を目指した」とメフメドヴィッチは振り返る。

これに対して、国際海洋信号旗の模様を残しながらモノトーンに置き換えたのが、ペトロリアムダイアルとメテオライトダイアルのインデックス。「インデックスは色で主張するのではなく、ダイアルに溶け込み、構造の一部として機能する」との考えからだ。加えて、ペトロリアムダイアルの放射状テクスチャーや、メテオライトダイアルのウィドマンシュテッテン模様を引き立て、現代的でスタイリッシュな印象を演出しているのも間違いなくモノトーンのインデックスだ。



ケース形状とサイズも再設計された。新しい直径39mmケースは、従来のコレクションに存在する42mmや45mmより小ぶりで、普段使いに最適だ。ベゼル形状も新しい。外側の十二角形を維持しながらもサファイアクリスタルと接する内側は1983年のオリジナルと同様に円形になり、上面もフラットになった。つまり、ベゼル内側とサファイアクリスタルの両方を十二角形にすることでアドミラルの独創性や存在感を強調した近年のスタイルからは脱却し、原点に回帰したのだ。

さらに、新型ケースは、一体型ブレスレットとの連続性の点でも興味深い。通常のラグは存在せず、ブレスレットのエンドピースが十二角形ベゼルの下に潜り込んで自然に一体化して見える構造は、まさに83年のアドミラルを想起させる。
今回導入された新しい一体型ブレスレットも、明らかに1983年のアドミラルからの着想であり、その現代的再解釈だ。「当時のブレスレットには今見ても魅力があり、私たちが継承したかったのはひと目でアドミラルと分かるダブルポリッシュ仕上げのV字ライン」という。V字を描く独特のブレスレットは、リンクの厚みや可動域、テーパー角度、クラスプ構造までもが緻密に設計され、ケースに統合されたプッシュボタンにより、工具不要で容易に着脱が可能なのも特色だ。

そして新体制の下、わずか8カ月で完成させたのが、パートナーのコンセプト社と共同開発した自社製ムーブメントのCal.CO231。高い性能はもちろん、整備性や耐久性を重視した新型ムーブメントは、コルムにとって100%自社製ムーブメントへの段階的回帰を進めるための重要なポイントでもある。

短期間でブランドの再構築に取り組めたのもメフメドヴィッチがコルム生え抜きの時計師で、コルムへの情熱の持ち主だから。他のコレクションも含め、今後の発展に期待せずにはいられない。

直径39mmケースで6バリエーションを展開する新世代アドミラルの中で、独特の質感とカラーを持つグラデーションダイアルが特徴的な3つのステンレススティールモデルに、コルムらしい斬新な感覚と現代的な表現が見て取れる。新開発のウェーブ模様を刻むブルーダイアル。放射状の模様を施したペトロリアム(ダークトーンの緑青色)ダイアル(右)と本物の隕石を加工したグレーダイアル(左)。すべて自動巻き(Cal.CO231)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ8.9mm)。5気圧防水。(右)264万円(税込み)。(左)341万円(税込み)。
https://corumwatch.jp/products/?collection=admiral



