世界的にホットなジャンルとなったマイクロメゾン。立役者のひとりは、間違いなくローマン・ゴティエだ。エンジニアであり、工場経営者でもあり、MBAホルダーでもある彼は、かのフィリップ・デュフォーに時計作りを学び、自身の名を冠したマイクロメゾンを大きな成功に導いた。そんな彼が目指すのは、ジュウ渓谷の伝統を受け継いだ時計作り、である。

Photographs by Yu Mitamura
クロノス日本版(広田雅将、細田雄人):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited & Text (P.4) by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年9月号掲載記事]
What’s about Romain Gauthier?
1975年にジュウ渓谷で生まれたローマン・ゴティエは、エレクトロニクスの技師になるべく、工業高校に入学した。そこで機械に魅せられた彼は、高等技術学校を経て、スイスの名サプライヤーであるフランソワ・ゴレイで時計部品の製造を始めるようになった。ジュウ渓谷に生まれた彼が、地元の産業である時計に携わるようになったのは当然だろう。もっとも当時、ゴティエが目指したのはオーディオ機器の設計だったが、抽象的な電子工学よりも実践的な精密部品製造に喜びを感じ、時計作りを志すようになった。

そこからがゴティエの面白いところだ。部品製造には優れていてもムーブメントは未知の領域。しかし、フィリップ・デュフォーの門を叩き独学でムーブメントを製造、試作機を作ってみせたのである。気難しいことで知られるデュフォーもこれを高く評価し、以降、ゴティエは仕上げについての教えを受けることになった。加えて、彼が働いていた会社は、彼に工作機械を貸し、ムーブメントの完成を手助けした。当初のゴティエは、あくまでムーブメントを作るのが目的だったが、オーデマピゲに勤める弟の言葉が彼を奮起させた。「5年もかけてムーブメントを作ったのに、泳ぎもしないんだね」。2005年、ゴティエは自らの名前を冠したメゾンを起こし、07年には「プレステージ HM」をリリースした。

ローマン・ゴティエが成功を収めた理由は明確だ。ひとつは、ジュウ渓谷の部品製造の伝統を受け継いでいたこと。11年に同社に出資を決めたシャネルの関係者は、後にこう語った。「高級時計づくりには本当のノウハウがいる。そして、それを持っているのはゴティエだけだった」。普通のチューブの加工に、±2ミクロンの公差を求めるゴティエは、複雑時計の部品を求めるメーカーには、不可欠な存在だったのである。後にシャネルは、ゴティエの手掛ける精密な部品を用いて、ハイエンドなコレクションを拡充することとなる。

そしてもうひとつの理由が、ジュウ渓谷の伝統を受け継いだ、つまりはデュフォー直伝の古典的な作りである。その一例が、地板や受けの磨きだ。これらの部品は、表面が水に溶いた石粉で均される。また受けの面取りも、磨き棒で成形した後、青粉を塗ったジャンシャンで整面し、デグジット砥石で表面を整えなおす入念さだ。ヒゲゼンマイと天真の取り付けも、レーザーではなく昔ながらのカシメである。「かつてジュウ渓谷には素晴らしい時計師たちがいた。そして彼らの作品の巧みさは、文字盤を外さないと分からない。私もやがてそうしたいと願っている」と語るゴティエ。その情熱が、一分の隙もない作品を生み出していることは間違いない。そして非凡なパッケージ能力も忘れてはいけない。世に優れた時計師は多いが、優れた時計を作れるとは限らない。ムーブメントだけ良くても、時計としてのまとまりを得られるかは別なのである。しかし、ゴティエは時計師でさえなかったのに、それぞれの作品に明確な個性とまとまりを与えてきた。こればかりはセンスと言うほかないが、ジュウ渓谷で生まれ育ったことを考えれば当然かもしれない。

そんなゴティエは、より一層の高みを目指そうとしている。その表れとも言えるサロンと、エクスクルーシブな最新作を見ていくことにしたい。


ローマン・ゴティエの発展史
1975年 ローマン・ゴティエ 誕生
1997年 精密機械工学の専門学校を卒業
2002年 MBA(経営学修士)を取得
2005年 ローマン・ゴティエ 創業
2007年 初作「プレステージ HM」発表
2011年 シャネルが資本出資
2013年 「ロジカル・ワン」発表。同年のGPHGでメンズコンプリケーション賞を受賞
2014年 自社工房を建設
2017年 「インサイト・マイクロローター」発表
2021年 「C by ローマン・ゴティエ」発表
2025年 新工房が完成
究極のラグジュアリーを体現する“サロン”という体験
独自のブランディングで、ホスピタリティーを顧客に提供し続けるローマン・ゴティエ。その究極体とも言えるのが、2025年に落成した新工房に設けられた「ローマン・ゴティエ サロン」だ。ゴティエの人となりとブランドを知ることができる空間であり、顧客とブランドをつなげる重要な役割を担うそのふたつ目のサロンが、日新堂 銀座本店に完成した。

歴史に重きが置かれがちなスイス時計業界において、なぜ新興ブランドのローマン・ゴティエは多くのコレクターからここまで愛されるのか。製品のクォリティはもちろんとして、その秘訣はゴティエ自身の人柄によるところが大きい。業界有数の成功者となった今でも可能な限り世界中を飛び回り、顧客との密なコミュニケーションを大切にし続ける彼の誠実な人間性。それそのものが顧客にとって最上のホスピタリティーであり、他社が真似できないブランディングなのだ。


誤解を恐れずに言うならば、ローマン・ゴティエという人物を知ることと、ローマン・ゴティエというブランドを知ることは同義である。それを象徴するようにブランドは、2025年落成の新工房に彼の人となりが分かる品を集めたサロンを作り、「ローマン・ゴティエとはどんな人物なのか」を伝え始めている。そして5月には、新工房のサロンに次いで世界で2番目のサロンとなる「日新堂 銀座本店 ローマン・ゴティエ サロン」がオープンした。

ここではゴティエが実際に買い付けたアート作品や彼指定のオーディオ機器、彼が学生時代に時計作りを学んだ本などを展示。「ゴティエが何に価値を見出しているのか」が知られる空間で、ゴティエ流のおもてなしが体験できる。

軽量素材を用いたサロン限定モデル
新素材の採用にも意欲的なローマン・ゴティエ。その最もエッジの効いたモデルが「カーボニウム エディション」だ。傑出した仕上げと、驚くほどの装着感を高度に融合させた。

高品質な3針モデルという枠を超えて進化し続けるC by ローマン・ゴティエ。カーボニウムで武装したサロン限定の最新作はわずか43gという軽さを打ち出した。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。カーボニウムケース(直径41.5mm、厚さ9.6mm)。30m防水。1232万円(税込み)。ローマン・ゴティエ サロン限定販売。
創業以来、ジュウ渓谷の伝統を踏まえつつモダンなテイストを加えた時計を作り続けてきたローマン・ゴティエ。そんな同社が、カジュアルでスポーティーなコレクションとして打ち出したのが、C by ローマン・ゴティエである。「本質は技術にあり、スタイルはカジュアルに、そして精神は自由に」というモットーから生まれた同コレクションは、ジュウ渓谷の伝統であるフィンガーブリッジのムーブメントを載せつつも、ケースとストラップを一体化させた外装を持つ、極めてユニークなものだった。
そんなコレクションの最新作が、サロン限定版として作られた「カーボニウム エディション」である。素材として用いられるカーボニウムは、航空宇宙グレードのカーボン素材を再利用したもの。チタンの約3倍の剛性と、チタンの約半分という軽さを持ちながらも、環境負荷の小さな素材だ。ケース全面にこの新素材を用い、ムーブメントを軽いグレード5チタンで製造。その重量はストラップを含めてわずか43gだ。世に軽さをうたった時計は少なくないが、本作ほどの仕上げを持つものは数えるほどもないのではないか。
面白いのは新素材に対する同社のスタンスだ。カーボニウムは、ファイバーのシートをカットした後、積層し、樹脂で固めてモノブロックとする。カットの長さは普通サプライヤーに任せるが、ゴティエは50mmという長さを指定した。部品加工を得手とするゴティエは審美性と耐久性の観点から、素材の生成にも携わったのだ。古典に根差しつつ、21世紀の時計作りを志すゴティエ。本作は、そんな同社の最もエッジの効いた時計、と言えるだろう。
チタン初の小径レギュラーモデル
優れた仕上げと装着感で世界的な人気を博すC by ローマン・ゴティエ。新しく加わったチタンケースの小径版は、短いラグとインターチェンジャブルストラップのおかげで、いっそう軽快な着け心地を誇る。

レギュラー版らしく高い汎用性を打ち出した新作。インデックスはブロック状のスーパールミノバ製。そしてスモールセコンドのアクセントには、ブルー、ピンク、オレンジの3色が展開される。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径39.5mm、厚さ9.45mm)。30m防水。重さ51g。693万円(税込み)。
2021年に始まったC by ローマン・ゴティエのコレクション。もともと時計のパッケージに優れるローマン・ゴティエだったが、その手腕は本コレクションから一層加速したように思える。それをもたらした一因は、シャネルの資本参加である。大メーカーのサポートはサプライヤーとしてのゴティエを支えるだけでなく、シャネルの優れた外装技術をゴティエにもたらすことになった。
ムーブメントだけでなく、ケースやストラップといった外装にもノウハウを蓄積するゴティエ。それを象徴するのが、新しく加わった「C by ローマン・ゴティエ チタンエディション 39.5」となる。ケースは今やゴティエのお家芸となったグレード5チタン。トーンを整えるため、針も同じグレード5チタン製だ。そして文字盤には、なんと裏側からメタライズ加工を施したサファイアクリスタルが選ばれた。時計全体から伝わる「金属感」は、パッケージの巧みさを示すものだ。
まとまりに対する細やかな配慮は、時計の造形にも見え隠れする。時計の直径は39.5mm。立体的なラグは長く見えるが、上下方向に角度を付けてあるため、時計の全長はわずか46mmに収まった。加えて、ストラップを湾曲させて付けてあるため、細腕ユーザーにも文句なしにフィットする。またこのモデルからはストラップがインターチェンジャブルに改められた。
ジュウ渓谷の伝統を受け継ぎつつも、変幻自在に時計作りを進化させるローマン・ゴティエ。傑出した完成度を、モダンなパッケージにまとめ上げた本作は、いまのゴティエにしか生み出せない時計なのである。
軽さと高級感を両立した現行フラッグシップ
ローマン・ゴティエの3作目にして、同社の名前を轟かせたインサイト・マイクロローター。他にはないデザインと傑出した仕上げを誇る本作は、軽いチタン素材の採用で、さらなる進化を果たした。

パッケージの良さが際立つフラッグシップコレクション。同社初のマイクロローターは、シンプルな整流機構により高い巻き上げ効率を誇る。従来の39.5mmと新たな42mmの2サイズで展開。自動巻き(Cal.インサイト・マイクロローター)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.9mm)。50m防水。3212万円(税込み)。
ローマン・ゴティエが傑作、インサイト・マイクロローターを発表したのは2017年のこと。ムーブメントをスケルトン化し、ローターを見せるという構成は明らかに時代を先駆けたものだったが、ゴティエが強調したのは、むしろ、良質な仕立てと巧みなパッケージだった。各社がスケルトンマイクロローターというパッケージを追随してもなお、本作が傑作と称され続けてきた理由だろう。
さまざまなバリエーションを擁するインサイト・マイクロローターだが、今のゴティエらしさを感じさせるのは、ナチュラルチタンになるだろうか。グレード5チタン製の外装とムーブメントを持つ本作は驚くほど軽量。しかし、他のモデルに全く引けを取らない仕上げを誇る。とりわけ、チタン製の受けに施された深い面取りと切れ込みを強調した入り角は、ジュウ渓谷の伝統を背負う、ゴティエの真骨頂だ。
もっとも、本作の見どころはディテール以上にパッケージにある。それを示すのが、12時位置の文字盤である。ローマン・ゴティエは鏡のように磨き上げたエナメルを好んできたが、本作では一転して、あえて表面を荒らした、メテオライトを採用した。理由はモノトーンに仕上げた外装とのマッチングを図るため。アイコンであるエナメルを使わず、違和感のないパッケージにまとめ上げる手腕も、ゴティエならではと言えるだろう。
正直価格は安くはない。しかし、傑出した仕上げと類を見ないまとまりの良さ、そして普段使いできる仕立ては唯一無二だ。ゴティエの名前を世界に轟かせたインサイト・マイクロローター。愛好家ならば手にすべき1本だ。
店舗情報

日新堂 銀座本店
ローマン・ゴティエ サロン
〒104-0061 東京都中央区銀座7-9-13
TEL:03-3571-5611
営業時間: 11:00~19:00 不定休、年末年始休(12/31~1/2)

HASSIN
ローマン・ゴティエ コーナー
〒474-0061 愛知県大府市共和町3-8-9
TEL: 0562-48-8811
営業時間:11:00~19:00 火曜定休、臨時休業あり

カミネ トアロード本店
ローマン・ゴティエ コーナー
〒650-0021 神戸市中央区三宮3-1-22
TEL 078-321-0039
営業時間:10:30~19:30 不定休

日本橋髙島屋S.C.ウオッチメゾン
ローマン・ゴティエ コーナー
〒103-0027 東京都中央区日本橋2-4-1 本館2階
TEL: 03-6262-0039(直通)
営業時間:10:30~19:30



