大きく変わりつつあるタグ・ホイヤー。クロノグラフをコアに据えた同社は、新素材だけではなく、オートオルロジュリーにも手を伸ばそうとしている。そんな試みのひとつが、2024年の「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」だ。なんと価格は約2000万円。しかし、その中身は価格相応以上である。

Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Text & Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
オートオルロジュリーの幕開けとなる新型クロノ
タグ・ホイヤーのムーブメントディレクターであるキャロル・カザピとは、旧知の仲である。彼女がリシュモン グループからタグ・ホイヤーに移籍した際、今後のタグ・ホイヤーについて話を聞いた。帰り際、彼女に質問された。曰く、今後のタグ・ホイヤーはどんな時計を作るべきか、と。新素材と高級時計作りを両立させたウォッチメーカーはそう多くはない、タグ・ホイヤーにはそういう時計作りをして欲しいと答えたところ、彼女はニヤリと微笑んだ。彼女が意味深長に笑った理由は、2024年にお披露目された「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」が計画中だったためだろう。これはアイコニックなモナコのデザインを受け継ぎつつも、正真の高級時計に仕立て直されたものだ。ムーブメントはもちろん、ケースの構造さえも変えたのは、タグ・ホイヤーの意気込みだろう。
搭載するのは、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエのエボーシュである6710を改良したスプリットセコンドクロノグラフのCal.TH81-00。正確に言うと、2016年に発表されたパルミジャーニ・フルリエのPF361を自動巻き化したものとなる。優れた自社製のムーブメントではなく、あえてコストの高いヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ製のムーブメントを選んだのは、カザピ曰く「最も優れたスプリットセコンドクロノグラフを作るため」だという。リシャール・ミルも採用するこのエボーシュは極め付きに高価だが、確かに今市場にあるスプリットセコンドクロノグラフとしては最も良いもののひとつだ。

高精度を追求したスプリットセコンドクロノグラフ。3万6000振動/時という高い振動数と、スプリットセコンド機構を切り離すアイソレーターが備わっている。装飾はスイスでも屈指の仕上げ工房であるアータイムが携わった。いわば、量産機の皮を被ったレーシングカー。自動巻き。パワーリザーブ約65時間。フリースプラングテンプ搭載。
タグ・ホイヤーのチームが改良したのは、主に美観である。地板と受けはケースに合うようスクエアに仕立て直されたうえに、30gという重さを実現するため、地板と受けにはチタンが採用された。さらにセンターホイールと3時と9時位置のスモールカウンターを支えるべく、3D状の受けが追加された。
「コストは考えなかった」とカザピが漏らしたように、ムーブメントの仕上げも今までのタグ・ホイヤーとは別物である。同社の説明によると「完璧な仕上がりを実現するために、装飾は100%手作業で行われる。例えば、チェッカーフラッグの装飾が施されたふたつのブリッジだけでも手作業の彫刻に30時間以上かかる」とのこと。極端に幅の広い、しかし丸みを帯びた受けの面取りも、やはり手作業だ。

オートオルロジュリーの世界に足を踏み入れたタグ・ホイヤー。その先兵が本作である。手仕上げのムーブメントを際立たせるため、裏蓋には一枚板のサファイアクリスタルを採用。その形状を見れば、仕上げに1週間を要するのも納得だ。価格は途方もないが、あえてコストを無視して設計と仕上げを追求した結果である。自動巻き(Cal.TH81-00)。サファイアクリスタル×Tiケース(縦41×横41mm、厚さ15.2mm)。30m防水。
機能も申し分ない。一体型のリセットハンマーを受けと地板で挟み込むことにより、このムーブメントはリセット時のブレが起こりにくい。加えて、スプリットセコンドにアイソレーターを加えたことで、スプリットを使用しないときの抵抗を減らすことに成功した。厚みが増すため、アイソレーターを加えた自動巻きのスプリットセコンドクロノグラフは少ない。しかし、あえて加えたのは精度のためである。ちなみに、タグ・ホイヤーの説明によると、48時間後のテンプの振り角は220度と、想像以上に高い。しかしより重要なのは、ムーブメントが5㎐(毎秒10振動)の高振動で動作していることだという。正確な精度は明らかにされていないが、理論上、このムーブメントはかなりの高精度(とりわけ実際の携帯時に)を誇るだろう。

驚くべき内容を打ち出したタグ・ホイヤー。しかし、これはあくまで先駆けに過ぎない。カザピは明言した。
「私たちはオートオルロジュリーの計画を考えています。それを担うのはモナコ、カレラ、そしてモンツァになります」






