2026年にセイコーから発表された新作モデルのうち、時計ライター・佐藤しんいちがセイコー プレザージュ「クラシックシリーズ クラフツマンシップ 有田焼ダイヤル 限定モデル」Ref.HCC007Jに注目して深掘りする。セイコーは、長きにわたって文字盤に有田焼を用いたモデルをラインナップしてきたが、本作は「セイコー・ブルー」から着想を得た瑠璃色の釉薬をプレザージュとして初めて採用した点がトピックスだ。さらに、文字盤上の凹凸による濃淡が生み出す、奥行き感のある表情が魅力となっている。

自動巻き(Cal.6R51)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39.6mm、厚さ12.8mm)。日常生活用防水。世界限定1500本(うち国内400本)。24万2000円(税込み)。
Text by Shin-ichi Sato
[2026年8月11日公開記事]
「セイコー・ブルー」から着想を得た有田焼文字盤のプレザージュ注目作
現在のセイコーの起源は1881年の服部時計店の創業にさかのぼり、2026年は創業145周年にあたる。創業者の服部金太郎の精神であった「常に時代の一歩先を行く」という信条の下、1913年には国産初の腕時計を完成させた。1960年代には、国産初の機械式クロノグラフウォッチやダイバーズウォッチの開発に成功し、1969年に世界初となる量産型クォーツウォッチを発売。このような技術革新が行われた1960年代に、現在でも同社のロゴやさまざまなモデルに採用される「セイコー・ブルー」が制定されている。
創業者の服部金太郎の“一歩先を行く”精神は、新たな機構や文字盤表現という形で数多くの製品に反映されている。その代表例のひとつが、文字盤への有田焼の採用だ。そう言える理由は後述する「セイコーの有田焼文字盤の特徴」で解説するが、今般発表されたセイコー プレザージュ「クラシックシリーズ クラフツマンシップ 有田焼ダイヤル 限定モデル」Ref.HCC007Jは、これまでも文字盤に有田焼を用いたモデルがラインナップされてきたものの、セイコー・ブルーから着想を得た瑠璃釉(るりゆう)をプレザージュとして初めて採用している。

セイコーの有田焼文字盤の特徴
有田焼は、佐賀県有田町とその周辺で作られる磁器である。有田は日本で初めて磁器を焼いた地であるとされ、江戸時代には「伊万里焼」または「肥前焼」の産地として知られていた。なお、磁器とは焼成により生まれる白く硬質な質感と、釉薬による艶が特徴の“焼き物”である。
さて、ここで少し、“焼成”によって独自の質感を生む文字盤素材について整理しておきたい。よく知られるのがエナメルで、七宝や琺瑯も広義にはこの系譜に含まれる。金属のベースにガラス質の釉薬を塗り、高温で焼き付けることで作られ、特有の艶や色の深みを生み出す。もうひとつ有名なものがポーセリンで、こちらは英語で磁器を意味する。鉱物由来の原料を高温で焼成して作られ、素地を緻密に焼き締めることで生まれる、白く、艶やかな質感が特徴だ。食器のように厚みがあれば強度を確保できるが、文字盤ほど薄く成形する際には、割れや反りの恐れがあり、寸法精度の確保も難しい。
このような技術的背景を踏まえたうえでセイコーの有田焼文字盤を見ると、単純な“有田焼でポーセリン文字盤を作ったもの”とは大きく異なり、さまざまな改良が加えられていることが分かる。実用面で最も重要な強度については、文字盤用に開発された素材の使用によって従来の4倍以上の強度が実現されている。さらに、高精度に加工された石膏型による鋳込み工程が採用されており、有田焼らしい艶感や柔らかな表情と、モダンな腕時計の持つ精密さを両立しているのだ。
さらに“一歩先を行く”、瑠璃色の釉薬を施したブルーの文字盤
前述の通り本作の有田焼文字盤の特徴は、セイコー・ブルーから着想を得た瑠璃釉が施されている点だ。瑠璃色の釉薬は多くの陶磁器に用いられているもので、特に有田焼では、白い磁肌に映える鮮やかな瑠璃釉が魅力的だ。このことから、本作はセイコーの歴史を踏まえつつ、有田焼の魅力をより引き出していると言えるだろう。

筆者は本作を前にして、“いかにも焼き物らしい”という感想を持った。その理由は、文字盤の型模様により生まれるグラデーションが焼き物で見られるものに近いことと、その奥に見える白いベースとのコントラストや奥行き感から、有田焼らしさを感じ取ったからだ。
本作の文字盤も従来モデル同様に、創業190 年以上の老舗「しん窯」の協力によって生み出されている。監修を担当したのは、伊万里・有田焼下絵付伝統工芸士で、数々の受賞経験を持つ有田焼 陶工の橋口博之である。また、橋口の技術を継承する川口敏明を中心に、有田の多くの職人たちが、本作の文字盤開発に携わっている。
この文字盤を作り上げるうえでの最大のチャレンジは、まさにこの瑠璃釉が生み出すグラデーションや奥行き感のある表情を実現することであった。瑠璃釉の色調が薄いと、厚く塗ってもセイコー・ブルーらしさが出ない。逆に色調が濃いと釉薬を薄く仕上げる必要があるが、これだと奥行き感が生まれにくくなる。文字盤に設ける型模様も、使用する瑠璃釉に合わせた最適な高低差でなければ、求めるグラデーションが生まれない。そのため、セイコー・ブルーらしさとグラデーションを両立するためには、瑠璃釉の色調、塗り厚さ、型模様の深さという3つの要素が噛み合う必要があり、セイコーが“かつてない挑戦”と表現するほど、難易度の高いものであったのだ。
文字盤中央部は一段低くなっており、凹凸による放射状の濃淡が現れている。中央部と外周を隔てる部分が縁のように白く浮かび上がっており、これが文字盤デザインのメリハリを加えている。また、外周部よりも中央部の方がダークに見え、奥行き感やコントラストとなっている。独自性のあるデザインかつ表情豊かであり、完成度の高いものであるので、ぜひ店頭でチェックいただきたい。
クラシカルなデザインをモダンなフォーマットに落とし込んだプロポーション
プロポーションに注目すると、本作は曲線を基調としたケースシルエットに、リーフ型の柔らかな印象の時分針を組み合わせたクラシカルなデザインを、直径39.6mmというモダンなフォーマットに落とし込んだモデルだと言える。周長約18cmの筆者の手首にしっかりと載っており、ラグの浮きなどは見られない。もっとも手首周長はユーザーによって異なるので、どのモデルにも当てはまるが、店頭でのフィッティングを推奨したい。
ストラップは、文字盤カラーとマッチするネイビーカラーのレザーストラップが組み合わされる。柔らかい肌触りが印象的で、使用に伴って柔らかくなじんでくることが楽しみな質感であった。

とにかく魅力的な有田焼文字盤は店頭で要チェック
従来の有田焼文字盤モデルは、磁肌の白さや釉薬による均一な艶といった魅力を訴求するものが多かった。これに対して本作では、瑠璃釉の透明感や、型模様による濃淡や奥行き感を積極的に見せている点が特徴だ。このようなアプローチは、同じく焼成によって製造するエナメル系の表現技法にも通ずると筆者は感じており、セイコーの“一歩先を行く”精神が反映された仕上がりであると言えるのではなかろうか。
“いかにも焼き物らしい”と筆者が感じた、有田焼の白い磁肌と透明感のあるブルーのコントラストは非常に魅力的であるので、ぜひ店頭でチェックいただきたい。



