光を透過する和紙によって、光発電クォーツに新たな可能性をもたらしたザ・シチズン。同ブランドは、そこに藍染めの伝統技法を組み合わせた、ふたつの新作を完成させた。異なる技法を用いて誕生した、深い藍色と儚げな霞を思わせるそれぞれのダイアル。日本の伝統工芸と先進技術が響き合う、和紙ダイアルの魅力を深掘りする。

何度も染色を重ねることで実現した、深い藍色である勝色の和紙ダイアルを採用したモデル。針やインデックスなど随所にゴールドカラーを取り入れることで、特別モデルらしい輝きを添えている。光発電クォーツ。フル充電時約1.5年(パワーセーブ時)。Tiケース(直径40.0mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。世界限定400本。46万2000円(税込み)。
(左)AQ4090-08A
布の染色に用いられる筒巻き絞り染めの技法を和紙に応用し、独特の模様を浮かび上がらせたモデル。手作業の染色によって個体ごとに異なる模様が表出するため、唯一無二の作品として楽しむことができる。光発電クォーツ。フル充電時約1.5年(パワーセーブ時)。Tiケース(直径40.0mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。世界限定200本。44万円(税込み)。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年9月号掲載記事]
日本が誇る光発電の最高峰
光発電クォーツには、避けて通れない制約がある。ソーラーセルへ光を届けるため、ダイアルそのものが光を透過させなければならないということだ。そのため、透過性を持つ樹脂製ダイアルを用いることが一般的であり、高級時計らしい凝った表現は難しいと考えられてきた。その制約を逆転の発想で魅力へと変えたブランドが、ザ・シチズンである。
採用したのは日本の伝統工芸である土佐和紙だ。古くから障子などに用いられてきた和紙は、柔らかな光を透過する一方、繊維が織り成す独特な質感と温もりを備えている。エコ・ドライブが求める透過性と、高級時計にふさわしい上質感を兼ね備えた素材なのだ。
今回登場したふたつの限定モデルは、その和紙ダイアルの表現をさらに進化させた意欲作だ。天然藍による染色を採用しながら、異なる伝統技法によって、それぞれ全く異なる藍の表情を描き出している。

ひとつは、日本で古くから勝色(かちいろ)として親しまれてきた深い藍色を特徴とする「AQ4094-58L」だ。染色を手掛けるのは、徳島県の藍染め工房「Watanabe's」。蓼藍(たであい)を乾燥・発酵させて作る蒅(すくも)を用い、天然灰汁発酵建てと呼ばれる伝統製法によって染液を育てる。藍染めは一度で完成するものではない。和紙を染液へ浸し、空気に触れさせて酸化させる工程を何度も繰り返すことで、少しずつ色を重ねていく。そうして幾重にも染め上げられた藍は、光の当たり方によって表情を変える、勝色へと昇華されるのだ。手染めならではの豊かな陰影が、本作最大の魅力と言えるだろう。


一方、白と水色の縞模様をまとう「AQ4090-08A」は、また違ったアプローチを採る。本作では、布の染色に用いられてきた筒巻き絞り染めを、和紙へと応用しているのだ。この技法では、和紙を筒へ巻き付けた後、細かな皺を寄せながら一定方向へと手繰り寄せ、絞りと染色を繰り返すことで、繊細な絞り模様を生み出していく。この工程によって、白い和紙には藍と白のコントラストが広がり、まるで霞が漂うような幻想的な情景が現れる。さらに、全て手作業で仕上げられるため、絞り模様や色合いが個体ごとに異なるという特徴も持つ。工芸品のような唯一無二の個性を文字盤上で楽しむことができるのだ。

深みある勝色のAQ4094-58Lと、霞のような儚い藍の陰影を映し出したAQ4090-08A。同じ藍染めでありながら、その表現は対照的だ。
もちろん、両者の魅力は和紙ダイアルだけにとどまらない。どちらもケースには軽量かつ優れた耐傷性を誇るスーパーチタニウムを採用し、内部には年差±5秒の高精度エコ・ドライブムーブメント、Cal.A060を搭載する。パーペチュアルカレンダーをはじめ、ザ・シチズンを代表する実用技術を盛り込みつつ、伝統技術を独自に昇華した文字盤を楽しめるよう仕上げている。購入者が登録できるシチズン オーナーズクラブによって、保証期間の延長をはじめとする充実したアフターサービスが提供される点も見逃せない。
日本の伝統工芸と先進の光発電技術の調和によって生まれた和紙ダイアルは、ザ・シチズンだからこそ成し得た表現だ。今回の新作は、その可能性がまだ広がり続けていることを物語る。



