2026年5月、スウォッチとオーデマ ピゲによるコラボレーション「ロイヤルポップ」が登場した。ロイヤル オークの意匠とスウォッチらしい大胆な色使いを融合させたデザインに加え、アクセサリーを組み合わせることで、さまざまな方法で身に着けられることも特徴だ。実は、こうした自由な発想の原点は約40年前のスウォッチにある。1986年に登場した「ポップ」だ。時計を手首だけのものとしなかった異色のコレクションと、そのアイデアが現代へと受け継がれていく歩みを振り返ってみよう。

[2026年8月20日掲載記事]
1980年代に生まれた革新的なスウォッチ「ポップ」

クォーツ。プラスチックケース(径32mm)。3気圧防水。1996年発表。現在は生産終了。
「ポップ」は、スウォッチが生み出した数あるコンセプトの中でも、とりわけ独創的なもののひとつである。1986年に登場した初代ポップ スウォッチは、当時としては比較的大きな約39mmのケース径を持ち、強い存在感を放っていた。
しかし、その最大の特徴はサイズではない。それは伝統的な意味での腕時計というよりも、アクセサリーとタイムピースの中間に位置し、自由な着用方法を楽しめるデザインオブジェであった。
時計本体はストラップ側のホルダーから取り外すことができ、別のアクセサリーなどに装着することも可能だった。ケースとストラップを固定されたひとつの腕時計として扱うのではなく、それぞれを切り離して楽しめるモジュール構造こそ、ポップ最大の特徴である。その後はケース径32mmの「ミディ ポップ」なども加わり、このコンセプトはさまざまな形へと発展していった。
そして2026年、この発想が再び脚光を浴びることとなった。スウォッチとオーデマ ピゲによる「ロイヤルポップ」は、1972年に誕生したロイヤル オークのデザインコードと、1980年代のポップに由来するモジュールの発想を融合させたコレクションである。約40年前にスウォッチが提示した、時計の身に着け方そのものを変えるアイデアが、機械式時計として新たに表現されたのだ。
アイデアとしての「ポップ」

クォーツ。プラスチックケース(径32mm)。3気圧防水。2005年発表。現在は生産終了。
ポップが発表された1986年当時、スウォッチはすでに単なる「クォーツ危機への回答」という枠を超え、ひとつの文化現象へと成長しつつあった。鮮やかな色彩や遊び心にあふれるデザイン、そしてファッションとの積極的な結び付きが、ブランド・アイデンティティの中核を成していた。
ポップは、その思想をさらに推し進めたコレクションだった。時計本体はストラップに固定されるのではなく、プラスチック製のホルダーにはめ込まれている。そこから時計を押し出すように取り外せることが、「ポップ」という名前にもつながっている。
このモジュール構造によって、単にストラップを交換するだけでなく、時計そのものの装着場所を変えることが可能になった。手首はもちろん、衣服に取り付けたり、首から下げたりと、従来の腕時計とは異なる楽しみ方が提案されたのである。後年には、空気を入れて腕に装着するバンドを組み合わせた「MIDI POP AQUAFUN」のような、一風変わったモデルも登場した。
身に着け方を変えるという実用性
一見すると純粋なデザイン上の実験にも思えるポップの構造だが、時計を手首以外の場所に装着できることには実用上の利点もあった。たとえば医療現場など、衛生上の理由から手首への腕時計の装着を避けたい場面でも、衣服などに時計を取り付ければ、肌に直接触れさせずに時刻を確認できる。
同時に、鮮やかな色彩や大胆なパターン、グラフィックを多用した表現など、ポップには当時のスウォッチらしい遊び心が存分に盛り込まれていた。実用品としての合理性と、ファッションアイテムとしての自由さ。その両方を成立させていたことも、このコレクションの面白さである。
デザインの多様性と創造の自由

クォーツ。プラスチックケース(径32mm)。3気圧防水。1998年発表。現在は生産終了。
初代ポップ スウォッチの直径約39mmというサイズは、多くの腕時計が現在よりも小さかった1980年代において、ひときわ目を引くものだった。軽量なプラスチック製ケースとクォーツムーブメントという基本構成は、機能性と量産性を重視した当時のスウォッチらしいものだ。
ポップのコンセプトは、その後もさまざまに展開された。なかでもミディ ポップはケース径32mmの小型シリーズであり、多彩なストラップやアクセサリーと組み合わせたモデルが作られた。写真の「MIDI POP AQUAFUN」は1998年秋冬コレクションに登場したモデルで、空気を入れて膨らませる、浮き輪を思わせるユニークなバンドを備えている。
シンプルなカラーリングから大胆なグラフィック、ユニークなストラップまで、ポップには数多くのバリエーションが存在する。一方、時計本体にはクォーツムーブメントを採用するというシンプルな構成が基本であり、自由なデザインと日常使いのしやすさを両立していた。
ヴィンテージとして楽しむポップ

クォーツ。プラスチックケース(径32mm)。3気圧防水。1998年発表。現在は生産終了。
初代ポップの登場から約40年が経過した現在、1980〜2000年代に作られたポップやミディ ポップは、ヴィンテージ・スウォッチとして楽しめる存在となっている。数多くのデザインが存在する一方、ストラップやホルダーなどの付属品まで良好な状態で残った個体は少なくなっている。
高級ヴィンテージウォッチとは異なる、ポップカルチャーやプロダクトデザインの歴史を身近に楽しめることもポップの面白さだろう。時計そのものだけでなく、「どう身に着けるか」までデザインの対象とした点に、このシリーズならではの価値がある。
ポップの発想を受け継いだ「ロイヤルポップ」

クォーツ。プラスチックケース(径45mm)。3気圧防水。2016年発表。現在は生産終了。
ポップのアイデアは、一度歴史の中に消えてしまったわけではない。2016年には、ケース径45mmへと大型化した「ニュー ポップ」が登場した。「POPALICIOUS BEADS」をはじめ、時計本体をストラップから取り外し、さまざまなアクセサリーと組み合わせて楽しめるモデルがラインナップされた。
そして2026年5月12日、スウォッチとオーデマ ピゲは新たなコラボレーション「ロイヤルポップ」を正式発表。同月16日に発売した。コレクションは8種類のポケットウォッチで構成され、1972年に誕生したオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」のデザインコードと、1980年代のスウォッチのポップが持つモジュールの発想を融合させている。
ロイヤルポップは、ランヤードなどのアクセサリーを組み合わせることで、首から下げたり、腕元に着けたり、ポケットに入れたり、バッグに取り付けたりと、さまざまな楽しみ方ができる。さらに、クォーツムーブメントを採用していたかつてのポップに対し、ロイヤルポップではスウォッチを代表する機械式ムーブメント、SISTEM51を新たに手巻き仕様として採用している。
こうして振り返ると、ロイヤルポップは単にロイヤル オークをスウォッチ流にアレンジしたコレクションではないことが分かる。時計を手首に固定して使うものと考えるのではなく、さまざまな場所へ移し、身に着け方そのものを楽しむ。1980年代のポップが打ち出した自由な発想を、約40年後の現在へとつないだコレクションなのである。



