公式ECサイトからの抽選販売方式で、発送は日本国内のみ── 大塚ローテックの時計は、海外のコレクターの羨望の的になっている。GPHG 2025のプティエギーユ部門にノミネートされ、スイス・ラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館の永久所蔵品に選定された本作「5号改」は、国産初のサテライトアワー機構を、そそり立つようなボックス形状のサファイアクリスタル風防越しに、ほぼその全容をのぞかせた。

ミニッツスケールの内側に配した赤い矢印は、時刻合わせ時の正しい回転方向を示す。逆回しは厳禁だ。ベゼルはコンケーブ状で、その曲面はボックス型風防の側面と滑らかにひと続きとなる。自動巻き(MIYOTA90S5+自社製サテライトアワーモジュール)。25石+2ボールベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ7.6mm)。日常生活防水。82万5000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama
髙木教雄:文
Text by Norio Takagi
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
機構の可視化と綿密な設計がもたらした、国産サテライトアワーの存在感
モデル名に「改」を冠しているのは、2012年発表の「5号」のケースフォルムを受け継ぎリファインしながら、メカニズムを大幅に“改良”しているから。中央の針式スモールセコンドの上下に時・分のディスク表示を配したレギュレーターであったモジュールは、本作ではサテライトアワーに改められた。
三つ又フレームに設置された3時間ごとの数字を印字した3つのディスクが、衛星(サテライト)回転しながら自転もし、順に現在時刻の数字に切り替わり、それ自体が分針の役割を果たす── サテライトアワー機構は、17世紀半ば、時のローマ教皇アレクサンドル7世のために時計師カンパニ兄弟が発明した。別名は、ヴァガボンド(仏語で放浪者の意)アワー機構。腕時計としては1989年に実現され、今では複数のモデルが市場に存在するが、国産時計ではこの「5号改」が初となる。作り手は、現代の名工にも選ばれた片山次朗。彼は、この特異なメカニズムを外観上の主役とするためダイアルを取り去り、ボックス型のサファイアクリスタル風防で覆うスタイルを採った。

そもそも時計のダイアルの最も重要な役割は、時刻を分かりやすく伝えることにある。そのために各時間単位のインデックスを配するステージとなる。しかしサテライトアワー機構においては、アワーはディスク表示であるから、時インデックスは不要。さらに本作では秒表示をディスク式としているので、必要なのは扇状の分インデックスだけだ。それを片山は3時側に配することで、長袖の服に着用しても袖口から半分顔を出せば、時刻の確認ができるようにした。扇状のミニッツスケールは、洋銀製。内側にアワーディスクの通り道となるスロープを設け、高さ的に分インデックスのギリギリまで近づけ、時の読み取りをより容易にしているのが、巧妙である。
そしてミニッツスケール以外のスペースは、ほぼサテライトアワー機構が占めている。まず目に留まるのが、3つの十字状のアワーディスクが備わる三つ又フレーム。各フレーム中央にはフライスの切削痕を残した溝を設けた、荒々しくもメカメカしい仕立ては、片山ワールドの真骨頂である。フレーム全体は、放射状のヘアライン仕上げに。各頂点を、アワーディスクを押さえる規制バネがつないでいる様子も、機構のユニークさを強調する。このサテライトアワーの本体は、3時間周期。9時位置には、その減速車が見えている。大掛かりな回転運動をするサテライトアワーは、バックラッシュが生じやすい。そこで片山は、減速歯車を2層構造として、下層の歯車内部にバネ性を持たせた。上下の歯車がわずかにズレることを許すことで、バックラッシュを解消する、実に巧妙な設計である。

分表示を終えたアワーディスクは7時半位置のピンによって90度回転し、次のアワー数字に切り替わる仕組み。この切り替えピンには、ミネベアミツミのボールベアリングが使われている。これは、本作専用に製作された特注品。またミニッツスケールの下側終端位置に設置した秒ディスクには、ミネベアミツミが誇る世界最小のボールベアリングを採用する。
ベースムーブメントを押さえるための外周リングの上下に印字されたオリジナル書体のブランド名とモデル名、そして赤い矢印が、片山ワールドをより強調する。5号改は、大胆にメカニズムを露出させることで、サテライトアワーの魅力を最大限に引き出してみせた。



