ゼニス「デファイ」コレクションが示す、現状打破の姿勢

FEATUREWatchTime
2021.10.07

1960年代から「デファイ」はゼニスの時計作りにおいて進化を続けてきた。2017年のバーゼルワールドで「デファイ エル・プリメロ 21」を発表し、今やゼニスのフラッグシップのひとつとなったこのコレクションの現在の状況を見ていこう。

Originally published on watchtime.com
Text by Roger Ruegger
Edit by Yuzo Takeishi
2020年8月掲載記事

ゼニス「デファイ」コレクション

デファイ エル・プリメロ 21 カーボン

「デファイ」コレクションは、水面から顔を出すための新しい原動力となったのです。
-ゼニスCEO ジュリアン・トルナーレ-

パフォーマンス志向

 50年以上前、ゼニスは「デファイ」という名の新しいスポーツウォッチを発表した。LVMHウォッチディビジョンのメンバーであり、ゼニスのCEOであるジュリアン・トルナーレの指揮の下、ゼニスはムーブメントの製造技術と素材の両面において、「デファイ」を最も革新的かつ創造的なプロダクトのひとつとして成功裏に開発。

 そして今年、「デファイ」は新しいレディスコレクションとなる「デファイ ミッドナイト」の発表に加え、イギリスの自動車メーカーであるランドローバーや、同じくイギリスのDJであり音楽プロデューサーとして知られるカール・コックスとのコラボレーションというサプライズな新作もアナウンスした。

デファイ エル・プリメロ 21

2017年に発表されたゼニスの「デファイ エル・プリメロ 21」。掲載モデルは直径44mmのチタン製ケースで価格は132万円(税別)。

 1960年代後半、ゼニスが伝説的なムーブメント「エル・プリメロ」を発表すると同時に、「デファイ」はゼニスにおける“最も丈夫な時計”としてのキャリアをスタートさせた。この種の時計は、近年、コレクターたちの間で“ヘビーデューティーなスポーツウォッチ”や、理想的な“日常使い”として位置付けられている。特許取得済みのムーブメントサスペンションシステムと衝撃吸収リングを備えた「デファイ」を当時、ゼニスはシンプルに“タフガイ”としてアピール。顧客が、他の時計を購入する必要がないほどに印象的な性能を施した。

 キャリバー2552 PCを搭載した最初の「デファイ(A3645)」は、ねじ込み式のミネラルガラスとケースバック、ねじ込み式リュウズを備えた、先鋭的なオクタゴンケースのモデル。16のファセットを備えたねじ込みリングの採用により、必要であれば風防の交換が簡単に行えたのも特筆だろう。また同じ時期、ゼニスは「デファイ プロンジュール(A3648/A3649)を同様のケースで市場に投入。こちらは回転ベゼルに加え、リュウズが4時と5時の間に配置されているため、誤操作防止と快適な装着感を両立したモデルだ。そして、このモデルは期待を裏切らない時計となった。

 1971年、ゼニスはウェンブリースタジアムで行われたスピードコンテストにおいて、6本の時計をバイクの後輪スポークに装着。走行後は6本すべてが無事で、テスト結果は「非常に良い」評価を得たのだ。同年、ゼニスはモノスキーの大会でも「デファイ」を使用し、テスト前と同様の精度で稼働することが確認されている。それから間もなく、ゼニスはこのコレクションを信頼性の高いレディスモデルでも展開するようになるのだ。

エル・プリメロ 9004

直径44mmの「デファイ エル・プリメロ 21」が搭載するのは、自動巻きキャリバー、エル・プリメロ 9004。2つの脱進機を備え、ひとつは時計用で毎時3万6000振動(5Hz)、もうひとつはクロノグラフ用で毎時36万振動(50Hz)となっており、1/100秒計測を可能に。価格は132万円(税別)からとなっている。

 1977年までに「デファイ」コレクションは“明日の約束を今日実現する”ようになっており、当時の広告では“精度、堅牢性、防水性、多機能性”をコレクションの4つの特徴としてアピール。たしかに「デファイ」は壊れにくい時計ではあったが、時計業界はそうではなかった。1970年代から1980年代にかけてスイスの時計産業を揺るがしたとき、当時のゼニスの親会社はクォーツウォッチを生産し、競争に勝ち残ることを決定した。

 幸いにもこの決定は後に覆され、ゼニスは2000年、LVMHに買収されることになるわけだが──。そして2006年、同コレクションは「デファイ クラシック」と「デファイ エクストリーム」で復活。1年後にはブランドの売り上げの25%を占めるまでになる。素材はピンクゴールドやチタン、スチール、ラバーなど大胆な組み合わせで構成されていたが、かつての「デファイ」の特性であった外的および内的衝撃吸収性は保持。そして2008年、ゼニスは「デファイ エクストリーム ゼロG」を発表。これは脱進機にジンバルシステムを採用した全く新しいコンセプトを採用した時計だった。

時計製造の21世紀へ

デファイ インベンター

ゼニス「デファイ インベンター」
自動巻き(Cal.9100)。18石。12万9600振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ti×アエロナイト(直径44mm)。10気圧防水。204万円(税別)。

 2017年半ば、ジュリアン・トルナーレがゼニスのCEOに就任し、伝統あるスイスブランドを活性化する原動力となった。1月に彼に話を聞く機会があったのだが、そのとき彼は「眠れる森の美女を目覚めさせる必要がある」と語っている。つまり、ゼニスにはエル・プリメロを超える多様化と、時計製造全般における現代的なアプローチが必要ということだ。「だからこそ『デファイ エル・プリメロ 21』『デファイ インベンター』が登場し、デファイは新たな成長の原動力となった」のだという。

「デファイ」はまた、ブランドの技術革新を実現するための創造的プラットフォームにもなった。LVMHの科学研究所と協力し、2017年9月にオシレーターを搭載した「デファイ ラボ」を発表。シリコン製のウェハーをエッチングして作られるオシレーターは、テンプ、ヒゲゼンマイ、レバーをひとつの部品に収めたことで約10倍の精度を実現したもの。「デファイ ラボ」は特に限定されたモデルで、わずか10本のみが販売されたが、2019年のバーゼルワールドで発表された「デファイ インベンター」によって量産体制に入っている。

 オープンワークのダイアルから、オシレーターが毎時12万9600振動(18Hz)で稼働する様子が眺められるのは圧巻だ。さらに、サテン仕上げのチタンケースには、ゼニスが世界最軽量の素材と謳うハイテクアルミニウム複合素材アエロナイトで作られたベゼルを装備。ピュアなアルミニウムから作られ、ポリマーで補強されたこの素材はチタンの3倍軽量で、インダストリアルかつモダンなルックスを生み出している。