【インタビュー】モリッツ・グロスマン CEO「クリスティーネ・フッター」

2023.11.18

過日取材でグラスヒュッテを訪れた際に、車窓から興味深いものを見た。高台に建つモリッツ・グロスマンの本社社屋に、町のどこからでも見渡せるようなスケールの横断幕が掲げられていたのだ。曰く「時計師、フィニッシャー、CNCオペレーター求む」。新型コロナ禍が過ぎ去った現在、あまり表には出ないものの、多くの時計ブランドやサプライヤーが労働力不足に悩まされていると聞く。一度シュリンクさせてしまった生産体制を、コロナ禍以前の状態にまで戻せないでいるのだ。

三田村優:写真 Photograph by Yu Mitamura
鈴木裕之:取材・文 Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


決断をすぐさま行動に移せる。それがスモールメゾンの強み

クリスティーネ・フッター

クリスティーネ・フッター
モリッツ・グロスマン/グロスマン・ウーレン創業者兼CEO。1964年、ドイツ・アイヒシュテット生まれ。ミュンヘンで時計職人としてのトレーニングを受けた後、ヴェンペの時計師に。モーリス・ラクロア時代にはセミナーを先駆的に手掛け、東西ドイツの再統一後はグラスヒュッテに移り、グラスヒュッテ・オリジナル、A.ランゲ&ゾーネでキャリアを積む。VEBの解体後、法的に保護されていなかったモリッツ・グロスマンの商標権を守るために親族と交渉を重ね、2008年に同社を起ち上げる。

「2020年の1月頃から小さな変化は感じていました。コロナ禍が本格的になったのは3月頃で、我々はすぐに短期労働に切り替えました。そうすれば貴重な人材を解雇せずに済むからです。現時点でのスタッフは52名。CNCもさらに増設して、キャパシティの増大を目指しています」

 そう語るのは、本当に久しぶりの来日となった、CEOのクリスティーネ・フッターだ。伝統技法に基づく手作業を社是とするモリッツ・グロスマンなればこそ、熟達したスタッフが何より大切なのは明白だ。

「コロナ禍の中では生産を縮小せざるを得ませんでしたが、2023年は約35%アップして、約350本を生産できる見込みです。現在は本社にもまったく在庫がない状態なのですが、実のところ受注が大きく伸びたのもコロナの渦中だったのです」

 現在は多くのブランドが、確実に需要が見込めるモデルに生産能力を集中させて、ラインナップを絞っている状況だが?

「我々の状況は少し違います。もともと少数ロットでしか作ることのできない手仕事が評価されてきたのですが、トレンブラージュやシルバーフリクションが大きな呼び水となりました。小ロット生産を貫いてきた強みが今になって活きてきたとも言えるでしょう。独立系ならではのユニークアート的な作品が再び評価されている状況です」

 しかし生産計画の決め手となるサプライヤーの納期問題に関しては、やはり頭痛の種らしい。かつては3カ月だった納期が、現在では14カ月ということもザラ。特に良質な人工ルビーの入手は困難だという。

「こうした時代だからこそ、サプライヤーとの関係を良好に保つことが大切です。そして人材を育成してゆくこと。特にフィニッシャーはまったく足りません。彼らはトレーニングに約18カ月を要するのです。またシルバーフリクションやエングレービングも、老齢の技術者(多くは引退したフリーランス)から直接指導を受けられるように、社内に特別な部屋を設けました。決断したらすぐに行動に移せる。これがスモールメゾンの最も大きな強みなのです」

テフヌート 36 シルバーフリクション ジャパンリミテッド

テフヌート 36 シルバーフリクション ジャパンリミテッド
「テフヌート 36」をベースに、ローマ数字のシルバーフリクションダイアルを搭載したジャパンリミテッド。細身のヴィンテージ針と19世紀のオールドロゴを組み合わせ、さらにムーブメントのエングレーブを筆記体に変更。写真のSSケースは、テフヌート 36では初のラインナップ。針とムーブメントのネジは青焼きで仕上げられる。手巻き(Cal.102.1)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径36mm、厚さ8.32mm)。3気防水。日本限定30本。396万円(税込み)。



Contact info: モリッツ・グロスマン ブティック Tel.03-5615-8185


経営者と時計師の兼務でモリッツ・グロスマンを率いる女性CEO「クリスティーネ・フッター」

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