ロレックスが自社開発クロノグラフに求めていたものを、ムーブメント Cal.4130から検証

2024.06.03

実用腕時計メーカーとして高い技術力を誇り、手堅い設計で知られるロレックス。そのロレックスも、クロノグラフに関しては、長らくエボーシュムーブメントを採用していた。潮目が変わったのは、2000年に自社開発クロノグラフムーブメントを発表してからだ。彼らが、自社開発クロノグラフに求めていたものを、ムーブメントから検証する。

Cal.4130

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Special thanks to ZENMAIWORKS
[クロノス日本版 2020年9月号掲載記事]


Cal.4130研究

Cal.4130

裏蓋を外し、自動巻きローターとローター受けを外した状態。左側に「4130」とキャリバーナンバーが刻印されたクロノグラフ輪列受けが現れる。

 2000年に発表されたロレックス初の自社開発クロノグラフムーブメント、Cal.4130。今や、現代クロノグラフのスタンダードと言える自動巻き+垂直クラッチであるが、多くのウォッチメーカーが2000年代半ば以降に次々とこの仕様のクロノグラフをリリースし出すことを考えると、ロレックスが、その先駆けであることは間違いない。だが、その開発は決して順調ではなかったと、時計ジャーナリストのギズベルト・L・ブルーナーは記している。「当初、デイトナ同様にサブダイアルが横3つ目のフレデリック・ピゲの自動巻きクロノグラフ、Cal.1185の採用が考えられたが、後に解禁にはなったものの、当時はブランパン以外への供給は不可であった」というのだ。

 フレデリック・ピゲの1185が使用できないとなれば、自前で開発するしかない。開発チームの中心になったのは、マルク・シュミットとミシェル・サンテ。

「栄華を極めたかつてのクロノグラフ黄金時代を体験していない世代だが、21世紀という時代を見据えることに成功した」というのが彼らに対するブルーナーの評である。むしろ、クロノグラフの古き良き時代を知らないからこそ、それまで採用していたゼニスのエル・プリメロをベースとした水平クラッチの頸木から解き放たれ、垂直クラッチという新領域へと踏み出せたのだろう。

Cal.4130

クロノグラフ輪列受けを外すと、特徴的な形状のリセットハンマーを確認できる。U字型ハンマーの中央部にオフセットされた垂直クラッチを帰零するバネ状のハンマーが取り付けられる

 デイトナが採用していたひとつ前の世代のCal.4030と現行世代の4130の最大の違いはクラッチである。1185の採用は叶わなかったが、自力で開発した4130の垂直クラッチは、1185とも異なっていた。ムーブメント写真をよく見ていただきたい。そもそも1969年にセイコーが発表したCal.6139がそうであったように、通常の垂直クラッチはセンターセコンド輪列のムーブメントをベースとして、中心に位置する4番車に摩擦車を重ねる。だが、4130では、スモールセコンドが6時位置にあるため、中心に垂直クラッチを置くことができない。

Cal.4130

U字型ハンマーを取り外した状態。6時側にオフセットされた垂直クラッチをはじめ、クロノグラフ輪列の全貌が明らかに。注目すべきは、LIGAで製造されたセンターの秒クロノグラフ車。バネ性を持たせているため、クロノグラフ発停時の衝撃を吸収し、クロノグラフ秒針を安定させる。

 解決策として彼らが考案したのが、6時位置の4番車に垂直クラッチを組み込むことであった。オフセットした4番車にクラッチを重ねることで、ムーブメントの厚さを抑えるだけでなく、ムーブメント直径が30.5mmという大径にもかかわらず、寄り目になることなく、適切な位置にスモールセコンドを置くことを可能にした。だが、手堅い設計で知られるロレックスのこと、これは決して結果論ではないだろう。4番車を中心に配するよりも2番車を中心に据えたほうが、時刻合わせの際、分針の針飛びが起きにくい。ロレックスは安全性を高めつつ、クロノグラフ秒針の飛びにくい垂直クラッチを導入しようとしたのかも知れない。なお、後に針飛びを一層抑えるためにLIGA歯車を採用した。

両方向巻き上げ式のリバーサー

Cal.4130が採用する両方向巻き上げ式のリバーサー。自動巻き機構はモジュール構造になっており、上の写真のようにモジュールごと取り外すことができる。Cal.4030に比べ、巻き上げ効率は向上しているという。Cal.4130のローターはCal.4030よりも薄くなったが、ローター真のカナは厚くなり、薄さと堅牢さを兼ね備えているのが分かる。

 発表された当時、このオフセンターされた垂直クラッチはチャレンジングだったことは間違いない。2006年に登場したショパールのLUC10CFが同様にオフセンターした垂直クラッチを持ち、かつ4130と同じく、コラムホイールの近くに垂直クラッチを置くことで、安定した制御と操作性を実現した。堅牢な作りを特徴とするLUC10CFに先んじること6年。すでにロレックスはその時点において、1185とは異なる手法で垂直クラッチを採り入れつつ、頑強さも企図していたのだ。

オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ

今回、ムーブメントを検証したのは、右側のロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」Ref.116520。自動巻き(Cal.4130)。44石。2万8800 振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。左側はRef.116500LN。自動巻き(Cal.4130)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックベゼル搭載。SSケース(直径40mm)。100m防水。


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