時を自由にする者。フランク ミュラー、トゥールビヨンへの終わりなき挑戦

2025.08.06
PR:FRANCK MULLER

トゥールビヨンとは、重力に抗う技術であると同時に、時の美しさを刻む装置でもある。1986年に世界初のレギュレーター式トゥールビヨンウォッチを製作し、弱冠28歳にして異能ぶりを世に知らしめた独立時計師フランク・ミュラーは、その後も超絶的な技巧によって偉大な革新を果たしてきた。“トゥールビヨンの語り部”たる天才時計師の哲学、その核心に触れる。

レボリューション1

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
大野高広: 編集・取材・文
Edited & Text by Takahiro Ohno (Office Peropaw)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


「革新の始まりと飛翔」
フライングトゥールビヨンの美学

レボリューション1

[2002年]レボリューション1
2001年に発表された時計界初の自社製フライングトゥールビヨンCal.FM2001-2を搭載し、翌2002年に完成した世界初の“浮上式トゥールビヨン”。時分針が12時方向へ逃げたあとにキャリッジが上昇する動きは、プッシュボタンの押し具合に連動している。つまり、時刻表示の輪列からは独立しており、一定時間は歩度にも影響を及ぼさない。大胆なアイデアに対して機構的にはシンプルかつ完成度が高いため、初期に部品精度の向上を図って以降、20年以上を経ても現行モデルとして継続販売されている。手巻き。Ptケース(縦48.5×横35mm)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。日常生活防水。6160万円(税込み)。

 トゥールビヨンは、1801年に特許が取得され、20世紀には懐中時計から腕時計に応用されたが、その根本思想は一貫して〝精度追求〞にあった。とりわけ200周年を迎えた2001年には、名だたるブランドや独立時計師たちが自らの技術力を誇示するかのように渾身のトゥールビヨンを発表し、複雑機構の頂点として大きな注目を集めていた。

 その由緒正しき世界に、誰も予想しなかった角度からアプローチしたのが、かつて独立時計師の出世頭だったフランク・ミュラーである。2002年発売のフライングトゥールビヨン「レボリューション1」は、従来の価値観に鮮やかな転換を迫った。8時位置のプッシュボタンを押すと時分針が12時位置で合掌し、文字盤上の視界を〝せり上がる〞キャリッジに明け渡す舞台装置のような演出は、かつてない衝撃を時計界にもたらした。

レボリューション1

ガンギ車、アンクル、テンプなど脱進調速機構を収納したレボリューション1のキャリッジ。上部からブリッジで支える標準的なトゥールビヨンに対して、
このフライングトゥールビヨンは下の地板側のみで支える。その回転軸がブレないよう、軸受けにセラミックス製ボールベアリングを採用し、また、
主ゼンマイからの動力は2番車から迂回して、3番車→4番車→5番サイドピニオンへとつなぎ、歯切りされたキャリッジに伝達される。

 このドラマティックな動きの背後には、もちろん緻密な機構がある。通常のフライングトゥールビヨンなら、下部ピニオンでキャリッジを駆動するが、レボリューション1はブランド初の自社キャリバーFM2001-2によるサイドピニオン駆動を採用。この構造によりキャリッジが上昇しても動力は途切れない。またプッシュボタンを離せば、まるでスプリットセコンド針のように時分針は本来の位置に復帰し、正しい時刻を示すのだ。

「レボリューション1」のせり上がり機構図

本邦初公開となる「レボリューション1」のせり上がり機構図。8時位置のボタン(左奥)を押すと、カム(黒パーツ)が押し出されキャリッジが上昇。ボタンを離すと、赤パーツのバネによって元の状態に復帰する。

 こうしてレボリューション1は、古典的複雑機構であるトゥールビヨンを〝見るための機構〞へと再定義した。そして、このマイルストーンをきっかけとして、あらゆる常識や制約から解き放たれたフランク ミュラーは、以後の「マスターズ コレクション」において、ますます自由な発想を具現化していくことになる。

レボリューション1

最下部で4番車と噛み合う5番サイドピニオン(左奥)は、キャリッジが上下に動く分だけ天地に長く、動力の供給が途切れることはない。針の合掌の動きは、これとは別ルートで複数のレバーとカムを介して行われる。


「魔除けと祈りのメカニズム」
ダイアルに施されたパニエギヨシェ

トノウ カーベックス トゥールビヨン

 フランク ミュラーはトゥールビヨンの機能的強化にとどまらず、象徴性や物語性を深化させていく。その典型例が2022年の「トノウ カーベックス トゥールビヨン 30th」。創業30周年を記念したこのモデルは1995年の「インペリアル トゥールビヨン」の精神的な後継機として企図され、〝魔除け〞という象徴的テーマを明確に帯びていた。

 インペリアル トゥールビヨンは、トノウ カーベックスにトゥールビヨンを初搭載したモデルでもある。懐中時計時代のトゥールビヨンは故障しやすかったため、アジアの王侯に「悪魔が憑いている」として嫌われたとの逸話を逆手にとり、フランク ミュラーはキャリッジに剣をデザインし、その回転する刃で邪気を祓う、護符としての意味性を重ねた。さらに30周年モデルでは3本の剣のうち1本を「ペンデュラム」と呼ばれる大斧に変更。これは中世の罠や武具にまつわる意匠であり、魔除けという儀式的な意味を強化した。加えて、インペリアル トゥールビヨンと同じく文字盤には「ヴュー・パニエ(古籠)」ギヨシェパターンが施される。この幾何学模様もまた、東洋的な魔除けの思想を宿す。竹籠を玄関に吊るし、厄災を遠ざけるという日本古来の風習を想起させる網目は、龍の鱗に似たオリエンタリズムの象徴でもある。ギヨシェとキャリッジという二重の〝籠〞に託された、文様と技術のダブルミーニングだ。

 30周年モデルが提示するのは、トノウ カーベックスという器が、単なる曲線美にとどまらず、重力という宇宙の根源力に抗いながら、文化の深層をも宿す祈りの容れ物になりえること、そしてトゥールビヨンが文化・精神性の投影体たりうるという、全く新しい可能性である。

トノウ カーベックス トゥールビヨン

[2022年]トノウ カーベックス トゥールビヨン 30th
最初期のオリジナル トノウ カーベックスである「2850」サイズに、“魔除け”の物語性を宿した創業30周年記念のトゥールビヨン。ムーブメントはブランド史上最小径(直径11.6mm)のキャリッジを採用した自社製Cal.FM2050で、ツインバレルにより約80時間のパワーリザーブを確保。自社製造による巻き上げヒゲゼンマイや、フリースプラング方式の精度調整、エレクトロフォーム製法による超軽量脱進機構など、あらゆる次元で高度な技術が導入された。手巻き。18KYGケース(縦45×横30mm)。1万8000振動/時。日常生活防水。限定9本(白・青・黒各3本)。2178万円(税込み)。


「未来を駆動する挑戦の連鎖」
トゥールビヨンはどこへ向かうのか?

 2024年に始動した「マスターズ コレクション」は、フランク ミュラーの自社製ムーブメント搭載モデルを既存コレクションから横断的に再構成した新カテゴリーだ。コンプリケーションの約9割を網羅しつつ、シンプルな3針も含まれており、今後マニュファクチュール化をさらに推進するうえで、ブランドの主力モデルとなる重要な位置付けにある。

 その中核となるのがトゥールビヨンだ。2002年の「レボリューション1」で〝見せる機構〞へと再定義され、護符としての価値すら宿したこの機構は、フライング式の普及に道を拓き、トゥールビヨンを複雑時計の中心へと押し出す起点となった。その後も多軸化・高速化・中央配置・大型化・超複雑化といった偉大な金字塔を次々と打ち立て、トゥールビヨンという古典的機構を〝現在進行形の芸術〞へと変貌させた。それは単なる技術競争ではなく、〝時を感じる装置〞として感性との融合を志向した進化だった。

 注目すべきは、こうした挑戦が常に「視覚性」と「精神性」に貫かれている点だ。時の流れを回転運動で表現し、重力の影響を立体構造で克服し、時の中心に据えたメカニズムが見る者の心を揺さぶる。その設計思想には「時間とは何か」という根源的な問いが込められている。

 以下に挙げる現行6モデルもまた、マスターズ コレクションに属する歴代トゥールビヨンだ。だがそれは、単なる技術の系譜ではない。時間の本質に迫ろうとする詩的で哲学的な連作であり、フランク ミュラーというブランドが〝コンプリケーションの作り手〞を超え、〝時の哲学者〞であることを証明する存在でもある。〝時の本質〞についての自問自答は、今なお進行形で続いているのだ。

マスターズ コレクションの系譜

レボリューション2

[2003年]レボリューション2
水平方向に1分で1回転するキャリッジを、垂直方向に8分で1回転させ、重力の影響を2軸から平均化。多軸トゥールビヨンの実用化に道を拓いた記念碑的作品であり、技術革新と視覚演出を同時に体現した。5時と7時にレトログラード式の8分計と60秒計を配置。手巻き。18KPGケース(縦48.5×横35mm)。1億6830万円(税込み)。
レボリューション3

[2004年]レボリューション3
世界初の3軸トゥールビヨン。キャリッジは3方向それぞれに独立した回転軸を持ち、1分、8分、1時間と異なる周期で回る。しかも、増大するトルクに対応しながら約10日間パワーリザーブを実現した。レボリューション2と同じくレトログラード式の8分計と60秒計を装備。手巻き。Ptケース(縦55.5×横41.2mm)。2億1538万円(税込み)。
エテルニタス メガ4

[2007年]エテルニタス メガ4
トゥールビヨン、エターナルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフなど計36の機構を統合し、世界記録を更新した超多機能時計。同社が技術のすべてを投入したムーブメントは部品数1483点に及び、すべて自社製造、手作業で組み立てられる。自動巻き。18KWGケース(縦61×横42.1mm)。5億6760万円(税込み)。
ヴァンガード グラビティ

[2015年]ヴァンガード グラビティ
自転しながら公転する地球のような衛星軌道を描くキャリッジをオフセットに配し、湾曲したX型ブリッジが支える極めて視覚的な新世代トゥールビヨン。ヴァンガード特有のスポーティーなケースデザインと相まって、現代的な審美性とメカニカルアートの精神を見事に表現した。手巻き。Tiケース(縦53.7×横44mm)。2310万円(税込み)。
グランド セントラル トゥールビヨン

[2021年]グランド セントラル トゥールビヨン
丸型ケース以外で初めてトゥールビヨンキャリッジをダイアル中央に配したマイクロローター式自動巻きモデル。時刻表示は外周から突き出た時分針で示されるが、針の中心部が見えない仕掛けだ。キャリッジの中心と重ねることで、構造的複雑さを視覚的美観へと昇華させた。自動巻き。18KPGケース(縦58.6×横40mm)。2750万円(税込み)。
グランド カーベックス ギガ トゥールビヨン

[2023年]グランド カーベックス ギガ トゥールビヨン
直径20mmという同ブランド最大のキャリッジを、3次元に湾曲したグランド カーベックスケースに搭載。強力なエネルギーを安定して供給する4バレル構成や、チタン素材の採用など、設計・素材・加工のすべてに最新技術を投入し、構造的スケールと審美性を両立させた。手巻き。18KPGケース(縦55.7×横38mm)。4642万円(税込み)。



Contact info:フランク ミュラー ウォッチランド東京 Tel.03-3549-1949

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