2025年、ベル&ロスの「BR-05」に、小ぶりな36mm径のモデルが追加された。この最新作を、1990年代から時計業界を取材し、同ブランドにも注目し続けてきたというジャーナリストの菅原茂氏が着用レビューする。新しいケースサイズの良好な装着感はもちろん、宝飾ジャーナリストでもあった菅原氏が“アクアマリン”に見立てたアイスブルーダイアルの魅力に、本作への所有欲をくすぐられる。

Photographs & Text by Shigeru Sugawara
[2025年10月21日公開記事]
1990年代から筆者が注目するベル&ロスというブランド
ベル&ロスは1990年代から常に注目してきたブランドのひとつ。改めて調べてみると、創業は1994年だからすでに30年以上、新進ブランドの域をとうに越えた。今でもベル&ロスという名の由来となるカルロス・ロシロとブルーノ・ベラミッシュがコンビを組み、フランス・パリに本社を構えてスイスメイドの高級時計を発表し続けている。
ベル&ロスの魅力をひと言で言えば、なんといってもセンスの良さだろう。航空計器やミリタリーオリジンの時計からインスパイアされたデザインと機能性を打ち出しながらも、フレンチブランドとしての、ありきたりな言葉で恐縮だが「エスプリ」を感じさせるところが最大の特徴と言える。また、角型モデルの「BR」シリーズに表現されているように、一貫したデザインやシステマティックな展開を軸としてオリジナリティーを常に維持しているところも素晴らしい。洗練されたセンスと計算が行き渡る時計、それがベル&ロスなのだと思う。
「待ってました」のサイズ感
さて、そんなベル&ロスの「洗練」を実感するために今回着用したのが「BR-05 36MM ICE BLUE STEEL」だ。今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表され、その後、日本でも販売が始まったこの時計は、直径40mmの「BR-05」を36mmにダウンサイジングして、アイスブルーダイアルをセットした最新作。トレンド感が漂うジェンダーレスなサイズや爽やかなブルーが非常に印象的だ。

自動巻き(BR-CAL.329)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径36mm、厚さ8.5mm)。100m防水。64万9000円(税込み)。
スポーティーなデザインに都会的なライフスタイルを反映した「BR-05」シリーズというと、以前取材で41mmのGMTモデルや40mmの3針モデルを試しに着けてみたことがあった。だが、角型ケースが丸みを帯びて着けやすそうに見えても、自分にはややオーバーサイズに感じられた。個人的には丸型ケースで直径40mmがぎりぎりの大きさなので、正直なところこれらを普段使いするのはちょっと難しいかなと思ったことを覚えている。
ところが、軽快で普段使いにも最適なモデルとして登場したのが縦横36mm、厚さ8.5mmという小ぶりで薄い「BR-05」だ。ベル&ロス愛好者の中にも、待ってましたというか、男女を問わずこんなサイズが欲しかったという人は多いのではなかろうか。40mmケースの天地と左右を4mm切り詰めても、40mmモデルとほぼ同等の存在感があり、この大きくもなく、かといって小さくもなくといった絶妙なサイズ感が実にいい。今回朝から夜までフルタイムで着用したのが2日間、加えてリストショットのために外出先で着用したのは半日だが、すっかり腕に馴染んで手放せなくなった。
ケース一体型のブレスレットは、装着感が抜群だ。もとより通常のラグが存在せず、急角度の傾斜がついたケース両端とブレスレットのリンクがシームレスに連続するので、時計本体とブレスレットが腕をしっかり包み込む。薄型ケースから続くブレスレットのリンクも薄い造りになっていて、腕に密着しながらも、かといって圧迫感は感じられない。薄さはまた、時計全体の軽量化に貢献しているように思う。個人的な好みで言えば、厚くて重いブレスレットやデザインを主張するブレスレットは合わないので、36mmモデルのこのブレスレットも高評価ポイントのひとつだ。ケース、ベゼル、ブレスレットのトータルな美観について言えば、サテン仕上げとポリッシュ仕上げの効果的な組み合わせがまさにラグジュアリースポーツウォッチの味わい。60万円台の価格でそれが得られるのはなんとも有難い。
アクアマリンを思い浮かべたダイアル
そして、なんと言っても魅力的なのはアイスブルーのダイアルだ。ステンレススティールの色や質感とマッチしたアイスブルーには特別感があり、これまた待ってましたと声をあげる愛好家もいるだろう。自分もそのひとりだ。光沢のあるサンレイ仕上げのダイアルは、光の加減でアイスブルーにメタリックな輝きが加わり、ブルー、グレー、シルバーといった色が見え隠れしながらさまざまな表情を見せる。その見え方をいくつかシチュエーションを変えて観察してみた。晴天の屋外では光沢とともにサンレイ仕上げの効果が一段と強調され、室内照明の下でも落ち着いたブルーに輝きが交錯する。透明感や変化するブルーの色合いを見ていて思い浮かんだのは、好みの宝石アクアマリンだった。

ベル&ロスが基本のひとつに掲げる視認性についてもアイスブルーダイアルは非常に良好だ。LumiNova® X1を施した白いアプライドの数字、インデックス、針は、自然光でもアイスブルーに埋没せずに背景とくっきりとコントラストを成して読み取りやすかった。このLumiNova® X1はまた、暗がりでグリーンに発色し、夜光の役をしっかり務めていた。もうひとつ加えるなら、この36mmモデルは、中3針のみで日付はなく、同コレクションでは最もシンプルかつミニマムなダイアル構成だ。これもまた、見やすさの一因なのは間違いない。
アイスブルーを“お守り”として
搭載ムーブメントの自動巻きキャリバーBR-CAL.329は、パワーリザーブ約54時間とあるが、今回は実際の持続時間や日差などを計測することはしなかった。ケースもシースルーではなく、ムーブメントを見ることはできないが、この時計にとってもっと重要なのは、アイスブルーダイアルを存分に楽しむことだ。だが、オシャレ、スタイリッシュ……推しの言葉を並べるだけでは何か足りない気がした。先に述べたように個人的にアクアマリンが思い浮かんだこのダイアル、アクアマリンには「心を落ち着かせる『幸福』や『沈着』、困難に立ち向かう『勇敢』、思考をクリアにする『聡明』」といった意味があるそうだから、腕に着けるお守りとして使ってみるのも手ではなかろうか、返却を前にそんな想像を巡らすのだった。
菅原茂のプロフィール

1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。時計専門書の翻訳も手掛ける。