ノルケインが日本市場で成功した理由を、新作「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」からひもとく

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2025.11.01

ノルケインが日本限定モデルとして発表した新作「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」。ノルケインが日本市場で高く支持されている背景を交えつつ、本作の魅力を解き明かしていく。

ノルケイン ワイルド ワン スケルトン 42MM ジャパン スペシャル エディション

ノルケイン「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」Ref.N3000.07Q24.G01.R01
ノルケインが日本のために製造した「ワイルド ワン スケルトン 42MM」のスペシャルモデル。オールブラックの外装にターコイズブルーのアクセントが効いている。自動巻き(Cal.N08S)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。ノルテックケース(直径42mm、厚さ12.3mm)。200m防水。日本限定。102万3000円(税込み)。
岡村昌宏:写真
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
野島翼:取材・文
Text by Tsubasa Nojima
[2025年11月1日公開記事]


日本市場で成功を収めるノルケインというスイスの機械式腕時計ブランド

 日本の時計愛好家はしばしば、世界の中でもとりわけ厳しい審美眼を持つと言われる。日本市場での成功が、その時計の成功に直結すると語るブランドも少なくない。そんな「日本市場での成功」の好例が、2018年に創業したノルケインである。すでに新興ブランドらしからぬ完成度を誇っていた同社のファーストコレクションは、ローンチとともに全国各地の時計店の心をつかむに至った。腕時計販売のプロがプッシュしたことも手伝ってか、ブランドの格や歴史に固執することなく、“良いものは良い”と認める日本の時計愛好家が、こぞってノルケインの腕時計を買い求めたのは、自然な流れと言えるだろう。その後、ノルケインは世界中で存在感を高め、多種多様なブランドがしのぎを削るミドルレンジにおいて確固たる地位を獲得するに至った。

 なぜ同社は日本市場で成功を収めることができたのだろうか? その鍵を握るのが、創業者でありCEOのベン・カッファーだ。ブライトリングでスイスとアジアのセールスマネージャーを務め、日本市場の重要性を熟知していた彼は、ノルケインの魅力を伝えるべく、幾度となく日本へ足を運び、販売店のみならずユーザーの声にまで直接耳を傾けた。腕時計としての魅力もさることながら、創業者自身の熱い言葉と努力を惜しまない姿勢が、さらなるファンを生むという好循環へつながり、日本市場での成功へと結びついたのだろう。現在ではベン・カッファーの実弟である副社長のトビアス・カッファーも全国の販売店でトークショーに参加し、時計愛好家たちとの触れ合いを通じて、販売戦略や時計製作に生かしている。

トビアス・カッファー
スイス・ノルケイン社の副社長。日本全国の販売店において、トークショーへの出演やユーザーとの直接のコミュニケーションを重ね、着々とファンを増やしている。ブランドとユーザーの距離が近いことも、ノルケインの魅力のひとつだ。


“日本人ウケ”する「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」

 そんなノルケインがこのたび、日本限定モデルとなる新作「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」を発表した。常に話題に事欠かないノルケインだが、近年で最も時計業界に衝撃を与えたのは、ジャン-クロード・ビバーの経営顧問就任と、その新体制の下に誕生した「ワイルド ワン」だろう。今作は、そのワイルド ワンのスケルトン仕様をベースとしたスペシャルなモデルだ。

末永く美観を楽しめるノルテックケース

 ワイルド ワンの最大の特徴は、その外装にある。ムーブメントをチタン製のコンテナに収め、さらにラバー製のミドルケース、独自のカーボン複合材であるNORTEQ(ノルテック)を重ねるという構成によって軽量化を成し遂げ、耐久性とカラーリングの自由度を獲得している。

 本作では、アンスラサイトグレーのラバー製ミドルケースに漆黒のノルテックを組み合わせ、一見してブラックのワントーンでありながらも微妙なコントラストを加えるというデザインを採用。見るからに限定モデルと分かるようなカラーリングをあえて外し、わずかな陰影に美を見いだす繊細な感性を備えた日本人好みに仕上げたのは、まさに日本限定モデルにふさわしい仕様だ。

 エッジの立ったノルテックケースには、よく見るとカーボン複合材であるがゆえの、大理石のようなパターンが表れている。カーボンファイバーとポリマーマトリックスを配合した素材であるため、衝撃や経年によってカーボンファイバーが剥離してしまうこともない。優れた耐久性によって、その美観を長期間にわたって楽しむことができるのだ。

 オールブラックのカラーリングの中で差し色となっているのが、ダイアルにちりばめられたターコイズブルーだ。ターコイズブルーは、昨今の時計業界におけるトレンドカラーのひとつであり、このカラーをダイアルに用いたモデルは、ブランドを問わず注目される傾向にある。しかし、その多くがダイアル全面にターコイズブルーを使用しているのに対し、本作ではあくまでアワーマーカーのワンポイントにとどめられている。アワーマーカーのインデックスと時分針の蓄光塗料、秒針の先端、そしてミニッツマーカーだ。カジュアル感の強いカラーは、目を引く一方で服装や着用シーンを選びがちだが、本作のような色使いであれば、その爽やかな色調を幅広いシーンで楽しむことができる。個性的なデザインでありながら汎用性が高い本作は、複数本の腕時計を所有しているコレクターから初めての1本を探している初心者まで、多くの人におすすめできる稀有な腕時計だ。

ノルケイン ワイルド ワン スケルトン 42MM ジャパン スペシャル エディション

ラバー製ミドルケースをノルテック製のカバーでサンドイッチした、ユニークな構造を持つ。アンスラサイトグレーと、カーボン複合材由来の複雑なパターンが浮かび上がったブラックが、繊細なコントラストを生み出している。

意匠としても生きるムーブメント

 そのダイアルにさらに独創性を与えているのが、大胆なオープンワークだ。まるで浮遊しているようなインデックスとブランドロゴの下には、機械式自動巻きムーブメントCal.N08Sが広がる。スケルトン加工が施された地板とブリッジの隙間からは、12時位置で鼓動するテンプと耐震装置、5時位置に香箱、そしてそれらをつなぐ輪列といったメカニカルな要素を鑑賞することができる。少しずつ回転する歯車や、巻き上げ具合を視覚的に確認できる香箱など、機械式時計ならではの魅力にあふれたデザインが、見る者の心をくすぐる。

 ムーブメントは、ダイアル側だけではなくケースバックからも眺めることが可能だ。“JAPAN SPECIAL EDITION”の文字がプリントされたサファイアクリスタル越しに、ブランドロゴが配されたローター、スケルトナイズされたブリッジなどを楽しむことができる。

 ムーブメントは本来、時計の機能や性能を決定付け、ケースのサイズやダイアルのレイアウトに制約をもたらすものという面が主ではないだろうか? 現代においてはシースルーバックこそ珍しくないが、一般的にはケースの中に秘められるものというイメージが強い。その点、スケルトンウォッチである本作は、ムーブメントすらも意匠として生かしており、まさに全方位を味わい尽くすことのできるモデルなのだ。

 一方でスケルトンウォッチとして懸念されるのが、そのデザインによる実用性への影響である。ダイアルは時刻を表示するためのものであり、要素を多くすればするほど、視認性と判読性は低下する。ところが本作に関しては、ミニッツマーカーを配したリングから半ば突き出たような立体的なアワーマーカーインデックスに加え、鮮やかなターコイズブルーがアクセントとなり、日常使いでの不便さを感じさせない実用性を確保している。遊び心だけに終始せず、道具としての基礎をしっかりと押さえている点は、ノルケインらしいと言えるだろう。

ノルケイン ワイルド ワン スケルトン 42MM ジャパン スペシャル エディション

オープンワークのダイアルからは、スケルトンムーブメントを鑑賞することが可能。毎秒8振動で鼓動するテンプや内部が露わになった香箱など、機械好きにはたまらないディティールが盛り込まれている。

超堅牢な機械式腕時計

 スケルトンウォッチには、一般的な機械式時計に比べて衝撃に弱いというデメリットもある。精密機械である機械式腕時計はただでさえ、強い衝撃が加わることによって、ヒゲゼンマイの絡みや歯車の軸の破損、針の歪みなど、計時機能を損ねる重大なダメージにつながる恐れがある。それらのパーツを支える地板やブリッジを削ぎ落したスケルトンウォッチとなれば、いかに衝撃がご法度であるかは想像に難くない。

 しかし、驚くべきことにワイルド ワン スケルトンには、5000Gまでの衝撃に耐える設計が与えられているという。そのスペックを実現しているのが、チタン製コンテナ、ショックアブソーバーとして機能するラバー製ミドルケース、そして強靭なノルテックからなる多層構造だ。これによってムーブメントに到達する衝撃を緩和させている。さらに、ムーブメントをスケルトナイズするにあたり、各支持点を複数のアームで支えるという建築的構造理論に基づいた設計を採用することで、剛性感と耐久性を確保している。

 本作は、スケルトンウォッチならではのメカニカルなデザインを気兼ねなく楽しむことができるという点においても、非凡な存在なのである。

ノルケイン ワイルド ワン スケルトン 42MM ジャパン スペシャル エディション

軽量かつ防水性が高いうえに、5000Gまでの耐衝撃性を誇るケース。ストレスなく普段使いが可能な、実用時計としての理想形だ。ケースサイドにはノルケインプレートがセットされ、好きな文字を刻印することができる。

ノルケイン ワイルドワン スケルトン

ワイルド ワンのケースを展開した様子。チタン製のコンテナ、ショックアブソーバーとして機能するラバー製ミドルケース、そして独自のカーボン複合材であるノルテックによって構成されている。


日本市場での理想的な成功例

 ノルケインというブランドは、日本市場におけるまさに理想的な成功例だと言えるだろう。販売チャネルの面では、直営店ではなく全国各地の老舗時計店を選んだ。自由度の高い直営店のほうがブランドイメージを定着させやすく、スタッフの教育もしやすい。一方で管理が行き届きにくい一般の時計店では、新興ブランドが売り場の一等地を獲得し、専用の什器とともに豊富なラインナップを並べることには高いハードルがある。スタッフが創業の想いや各モデルの特徴をどの程度理解してくれるのかも、やはり店舗の教育に依存するしかない。しかし、ノルケインは分かっていたのだろう。日本の老舗時計店には“良いもの”を見抜く力があり、製品をしっかりと理解してもらうことができれば、スタッフが受け売りの常套句ではなく、自らの言葉で魅力を語ってくれるだろう、ということを。

 そして日本の時計愛好家もまた、“良いもの”を峻別できる審美眼を備えている。あまりメジャーではないマイクロブランドが日本の時計愛好家に発掘され、密やかにヒットしていることからも、それは疑う余地はないだろう。

 顧客と強固な関係を築いてきた地域密着型の販売店スタッフを伝道師として、その魅力を見抜く素養を持った時計愛好家をファンへと変えていく。高品質な腕時計を作っているということが前提であることはもちろんとして、どうすればその魅力を伝えることができるのか? その問いに対するノルケインの結論は、日本市場にマッチしたものであったのだ。

 ノルケインの名が広く知れ渡った後も、同社は販売店やユーザーとのコミュニケーションを欠かさなかった。一定の成功を収めたとなれば、他の地域を開拓した方が効率的だろう。しかし、経営陣が自ら出向き、生の声に耳を傾けるというウェットな関係を継続しているからこそ、ノルケインは進化し、またユーザーも新たな発見を得るのである。そんな温かみのあるブランドが、日本市場を想って作り上げた「ワイルド ワン スケルトン JP 42MM」。成功しないはずがない。



Contact info: ノルケインジャパン Tel.03-6864-3876

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