時計業界にシリコン素材を導入した画期的な時計の誕生から四半世紀。ユリス・ナルダンは、自らのブランドを牽引する象徴的コレクションにおいて、桁外れに“フリーク”で複雑な腕時計を発表した。本記事では、この規格外のタイムピースがいかなる魅力を秘めているのか、『ウォッチタイム』米国版シニア・エディターのゼン・ラブが解説しよう。

[2026年8月26日掲載記事]
史上最も複雑な3針時計
実家に連れて帰りたくなるような優等生かといえば、そうではないかもしれない。しかし、ユリス・ナルダンによれば新作「スーパーフリーク」は「史上最も複雑な時刻表示のみの腕時計」であるという。複雑化それ自体が目的化しがちな時計製造の世界において、これは特筆すべき宣言だ。
「フリーク」は2001年のデビュー以来、必然性というよりはむしろ人々を魅了するための複雑さを誇り、この四半世紀の間に多くのバリエーションを生み出してきた。では、この新作の何がそれほどまでに「スーパー」なのだろうか?
まず、目の前にあるこの腕時計の読み方を理解する必要があるだろう。時間は大きな矢印で示され、分は複雑に絡み合った歯車の中央構造(これ自体が回転する)の先端にある矢印で示される。伝統的なアナログの時刻表示ではあるが、その実現方法はまったく伝統的ではない。
フリークは当初、時計製造の基本原則に挑戦することを目指しており、その創造的かつ型破りなソリューションは今日まで進化し続けている。誕生25周年を記念し、ユリス・ナルダンはこのモデルを印象的なものにしていた、ほぼすべての特徴を倍増させたのだった。

結論から言おう。確かに、ふたつの傾斜したフライングトゥールビヨンは相当な複雑さに寄与しているが、この技術的な怪物には注目すべき点がまだまだある。時、分、そして秒(フリークとしては初搭載)を表示するためだけに、なんと511個もの部品が組み合わされているのだ。最もベーシックな形態でさえ、まばゆいばかりのフリークの背後には、複数の特許と魅力的なエンジニアリングが存在し、「スーパー」ではさらにいくつかの新技術が導入されている。
前例のない極小スケールのメカニズム
非常に多くの要素が詰め込まれているため、詳細な解説は別の機会に譲るが、ユリス・ナルダンが「世界最小」とうたうディファレンシャルギアとジンバル(それぞれ5mmと4.8mm)は特筆に値するものだ。身近なディファレンシャルギアを確認してみてほしい。間違いなく、この腕時計のそれの方が小さいはずだ。では、これがマイクロエンジニアではない一般の愛好家にとって何を意味するのだろうか?
ディファレンシャルギアは、ふたつのテンワ(ここではどちらも1万8000振動/時で駆動)の間の歩度の差を平均化する役割を担う。ディファレンシャルと秒表示は「オフセンターの軸」にあるため、ジンバルがエネルギーを伝達する際に必要なピボットの役割を果たす。そして、これらすべてが前例のない極小スケールで製造されているのである。

さらなる賛辞を続けよう。この時計には、「業界で最も効率的かつ先進的」とされるユリス・ナルダンの「グラインダー®」自動巻きシステムなど、過去の革新技術も盛り込まれている。これほど多くの機構を動かすには莫大なエネルギーが必要だが、ムーブメントはフル巻き上げ時で約72時間のパワーリザーブを誇る。
これらすべての技術的巧妙さだけでは十分でないとでも言うように、部品の70%以上が手作業で仕上げられている。視覚的な中心となるチタン製のトゥールビヨンも、当然そのうちのひとつだ。
トゥールビヨンを再解釈する「フリーク」の思想
スーパーフリークの特徴の多くは、過去の技術開発の延長線上にある。例えば、2022年に発表された「フリーク S」も、当時は史上最も複雑な時刻表示のみの時計としてうたわれた。これには2つの傾斜したテンワが組み込まれていた。そのような部品が他のすべての部品とは異なる角度で配置されているだけで、エンジニアリングの課題は増大するが、それがトゥールビヨンとなれば、その困難さは飛躍的に高まる。
ある意味で、回転するケージ内に脱進機を配置するフリーク自体が、常にトゥールビヨンのような存在であった。しかし、時刻を表示するためにムーブメント全体が動くという点で、根本的に異なっている。矢印があしらわれた香箱が回転して時間を示し、その間「分ブリッジ」自体が回転して、先端の矢印で分を示すのだ。
トゥールビヨンは元来、重力の影響を均一化することで計時精度を向上させるために開発された。一方、フリークの背後にある目的は、実験とスペクタクル(視覚的驚き)であった。

自動巻き。18KWGケース(直径44mm、厚さ16.54mm)。30m防水。世界限定50本。5594万6000円(税込み)。
時計製造におけるシリコンのパイオニアとして
もちろん、フリークの最も重要な役割は、時計製造におけるシリコン使用のパイオニアとなったことだ。シリコンを採用するために、わざわざ奇抜な見た目にする必要はなかったはずだが、当時のシリコンは革命的であり、かつ論争の的でもあったため、それを導入する腕時計のデザインもまた、時計製造の原則の再考を象徴し、人々の注目を集めるものである必要があった。その意味で、これは1957年にハミルトンが「ベンチュラ」の奇抜なデザインで電動式腕時計を発表した際のコンセプトを彷彿とさせる。
本作にはもちろん、ヒゲゼンマイやテンワ、そしてユリス・ナルダンが特許を取得したダイヤモンドコーティングを施したシリコン「ダイアモンシル®」製の脱進機など、シリコン製の複数の部品が使用されている。「イノベーション」という言葉は安易に使われがちだが、このような腕時計について語る文脈においては、無条件で許容されるべきだろう。
この「フリークネス(風変わりさ)」のすべてが、直径44mm(厚さ16.54mm、30m防水)のホワイトゴールド製ケースに収められている。価格は5594万6000円(税込み)、世界限定わずか50本のみの生産だ。



