スタンダードの殻を破る 新時代のGSデザイン

FEATURE本誌記事
2018.06.07

9Sメカニカル20周年を祝す 〝挑むデザイン〟と〝職人技〟の競演

 長らく、グランドセイコーのデザインを担当してきた小杉修弘氏。
彼は毎年のようにグランドセイコーに新しい造形を盛り込み、結果、グランドセイコーは単なる実用時計を超えたデザインを持つに至った。その小杉氏の集大成とも言えるモデルが、「ヘリテージコレクション キャリバー9S 20周年記念限定モデル」だ。

ヘリテージコレクション キャリバー9S 20周年記念限定モデル SBGH266

SBGH266
ヘリテージコレクション キャリバー9S 20周年記念限定モデル SBGH266
V.F.A.同様、極めて複雑な造形を持つモデル。ラグの先端に向けてなだらかに曲がるザラツ仕上げの鏡面と、ラグの内側に施された三角形が特徴的だ。セイコーいわく、「優しさと厳しさが共存する“ユウゲンアーク”」とのこと。本作は、日差ー2秒から+4秒以内に調整されたCal.9S85のスペシャルムーブメントを搭載する。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。18KYG(直径39.5mm)。10気圧防水。世界限定150本。280万円。


キャリバー9S 20周年記念限定モデルの文字盤には、20周年にちなんだメモリアル型打ち模様が与えられる。パターンは「G」と「S」、そして第二精工舎(現セイコーインスツル)を象徴する「S」マークだ。プレスとは思えないほど、極めて精密な模様を持つ。
(右)「職人の技量を高めるような要素を設ける」(小杉氏)試みのひとつが、ラグの内側の加工。先端に向けて、三角形に処理されている。機械加工では決して実現できないディテールだ。(左)大きく弧を描いた「ユウゲンアーク」と呼ばれる形状を持つケースサイド。ラグの上面に施されたザラツ研磨は、そもそも平面を強調する手法であった。しかし小杉氏と、ケースを製造する技術者は、この手法を加工が非常に困難な曲面にも適応させたのだ。
SBGH267

ヘリテージコレクション キャリバー9S 20周年記念限定モデル SBGH267
こちらは新デザインのステンレススティールモデル。ムーブメントは標準仕様のCal.9S85だが、外装のデザインとディテールはV.F.A.とスペシャル搭載モデルに同じである。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径39.5mm)。10気圧防水。世界限定1500本。65万円。

 9Sの20周年を祝ってリリースされた「ヘリテージコレクション キャリバー9S 20周年記念限定モデル」。デザインを担当したのはお馴染み、セイコーインスツルの小杉修弘氏である。小杉氏は語る。「長年グランドセイコーは平面からなるデザインを得意としてきました。その完成形が、2013年発表の44GSデザイン復刻版ですね」。同作で平面を極めた小杉氏は、以降、デザインで曲面を意識するようになった。

 そんな彼が9S 20周年モデルのために用意したのは、史上最も複雑なデザインだった。加えて、このモデルには「工作機械では決してできない」(小杉氏)ディテールが盛り込まれた。「このモデルのデザインを持ち込んだ時、ケース製造担当者には、とてもできないと言われましたね」。

 彼らが難色を示した理由のひとつは、ラグの内側の処理である。既存のグランドセイコーは、内側に台形のデザインを与えていた。一方、9S 20周年記念限定モデルは、内側が三角形に成形されている。

 グランドセイコーの企画を担当する江頭康平氏が、その難しさを説明してくれた。「三角形に処理すると、左右の長さを揃えるのが難しくなる。かといって、左右の長さを揃えるべくエッジを緩くしても、すぐに分かってしまう」。

 職人技を前提とした、グランドセイコーの新しいデザイン。小杉氏は「目指したのは、最新の工作機械と職人技の融合」だったと語る。「グランドセイコーのデザインは、明らかに職人技を前提としています。また、職人の技量を上げるような試みを、毎回加えています」。小杉氏と、メカニカルモデルのケースを製造する技術者の競演は、今やグランドセイコーの形状を、かつてないほど豊かなものに変えようとしている。

 加えて、搭載される高精度キャリバー9S85。今年は、V.F.A.に注目が集まりがちだが、この18Kイエローゴールドモデルが搭載する「スペシャル」も含め、改めて9S85の〝凄さ〟を見せつけることとなった。

 特別な外装に、高精度なムーブメントを合わせたキャリバー9S 20周年記念限定モデル。これぞ、現時点におけるグランドセイコーの完成形と言っても過言ではあるまい。

デザインを担当したのが、小杉修弘氏だ。林精器製造、KGデザイン事務所などを経て、セイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。以降、約40年間にわたり、セイコーのウォッチデザインに携わってきた。また、グランドセイコーのデザインを文脈化することで、多彩なデザインを与えてきた。2016年、黄綬褒章を受章。

Contact info:  グランドセイコー専用ダイヤル Tel. 0120-302-617