オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」/ 時計にまつわるお名前事典

どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか?そこで時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
2019年、新型の自社開発自動巻きムーブメントを搭載してリニューアルされた、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」の名前の由来をひもとく。

福田 豊:取材・文 Text by Yutaka Fukuda
吉江正倫、奥山栄一:写真 Photographs by Masanori Yoshie、Eiichi Okuyama
(2019年9月07日掲載記事)

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」

ロイヤル オーク

ロイヤル オーク
Ref.5402ST
1972年に誕生した「ロイヤル オーク」。上の写真は、70年代半ばごろに製造されたと思われるファーストモデル。正確には、セカンドロットの「Aシリーズ」である。この個体の針とリュウズは交換品。針はオリジナルに忠実だが、交換されたリュウズのヘッドには「AP」のロゴが入っている。オリジナルのリュウズにはロゴはない。自動巻き(Cal.2121)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径39mm)。50m防水(当時)。個人所蔵。

 オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」はイギリス軍艦「ロイヤル オーク号」の舷窓をモチーフにデザインした、とされている。ロイヤル オークとはチャールズ2世の命を救ったオークの木のこと。オーデマ ピゲが「ロイヤル オーク」の誕生30周年を記念し、2002年に製作した冊子には、下記のように書かれている。

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1651年9月6日。後にイングランドおよびスコットランド、アイルランドの国王に即位するチャールズ2世は、この日クロムウェルの軍勢に追われていました。1本のオークの木を見つけた彼は、その枝陰に避難して夜を明かし、幸い難を逃れました。後になって正式に「ロイヤル オーク」と名付けられたこのオークの木は、国王の王位奪回の端緒となったことから、イギリスにとって加護と安全と力の象徴とされるようになりました。イギリス海軍はこの出来事を記念して、1769年から1914年まで4隻の軍艦を「英国軍艦ロイヤル オーク号」と命名しました。これらの軍艦の1隻は、スティールの板で補強したオーク材の船体と8角形をした舷窓という際立った特徴を備えていました。
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 ちなみに、イギリス海軍はこれまで8隻の戦艦をロイヤル オーク号と命名。8角形の舷窓を持っていたのはその6隻目、1862年に建造された艦だ。

 そして、その8角形の舷窓をモチーフにしたことから「ロイヤル オーク」と名付けられた、というのがオーデマ ピゲが公式に述べていること。そのため、国内外の数多の書籍や雑誌にもそう記されている。

 ところが、それがどうやら違うようなのだ。

「ロイヤル オーク」をデザインしたのはジェラルド・ジェンタである。当時の社長であったジョルジュ・ゴレイよりすべてを任され、ジェンタが初めて時計全体のデザインを手掛けた「デビュー作」として知られている。デザイン画を1日で描き上げた、というのも有名な逸話だ。

 そのすべてをデザインしたジェンタが、後年、潜水服のヘルメットがモチーフ、と言っているのである。従来にない防水構造を考案中に思い出したのが潜水服のヘルメットの窓で、それをモチーフに8角形のベゼルをビス留めするデザインを考案したのだ、と。

ロイヤル オークのケース構造。薄型ケースを可能にするため、デザインを手掛けたジェラルド・ジェンタはケースを2ピース化し、ベゼルとケースの間にパッキンを挟み込んで、当時の薄型時計としては異例の50m防水を実現した。

 してみると「ロイヤル オーク号の舷窓」というのは、オーデマ ピゲの創作なのかもしれない。しかし、その創作がジェンタのデザインに匹敵する「ロイヤル オーク」の素晴らしい魅力になったことも間違いない。

「ロイヤル オーク」は1972年、世界で初めてのスティール製高級腕時計として誕生。ラグジュアリースポーツウォッチという新ジャンルを創造し、ボーム&メルシエ「リビエラ」(1973年)、ジラール・ペルゴ「ロレアート」(1975年)、パテック フィリップ「ノーチラス」(1976年)、ヴァシュロン・コンスタンタン「222」(1977年)といったフォロワーを生み出した、時計史に残る名作だ。

 そのラグジュアリーな世界観に「ロイヤル オーク」という高貴な名前は大いに役立ったはずだ。もしも「潜水服」や「潜水ヘルメット」などという名前であったら、おそらく追随するブランドはこれほど多くなく、ラグジュアリースポーツウォッチが世界的人気となることはなかったのではないか。なにより「ロイヤル オーク」の人気が続くことはなかったのではないか。

 だから「ロイヤル オーク」は、その名前もまた、時計史に残る名作。そう思うのだ。

ロイヤル オーク・オートマティック Ref.15500ST
2019年のSIHHで発表されたロイヤル オーク・オートマティック。自社開発の新型自動巻きムーブメントCal.4302を搭載し、リニューアルされた。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径41mm)。5気圧防水。200万円。


福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


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