IWC「ポルトギーゼ」/時計にまつわるお名前事典

FEATURE時計にまつわるお名前事典
2019.09.28

どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか?このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
第4回は、オールドピースも現行モデルも時計愛好家から高い評価を受けるIWC「ポルトギーゼ」の名前の由来をひもとく。

福田 豊:取材・文 Text by Yutaka Fukuda
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie

IWC「ポルトギーゼ」

ポルトギーゼ

ポルトギーゼ Ref.325
1939年に製造されたポルトギーゼの第1世代。薄型手巻きムーブメントCal.74を搭載。第1世代は1939年から44年(52年もしくは51年説もあり)まで製造された。生産本数は304本程度とされる。44年以降は第2世代に置き換わる。SS(直径42mm)。IWCミュージアム所蔵。

 IWCの「ポルトギーゼ」が誕生したのは1939年。最大の特徴は大型のケースで、それが今日のトレンドのビッグウォッチのパイオニアとしてもしばしば語られる、歴史的名作時計だ。

「ポルトギーゼ」の誕生のきっかけは、1930年代の終わりのころのこと。ふたりのポルトガル人の商人がIWCを訪れ、マリンクロノメーターと同じ精度を持つ腕時計を、と注文したことに始まる。

 そこでIWCは懐中時計のムーブメントを搭載することにする。当時の腕時計はまだ草創期にあり、そのため高い精度が必要とされる軍用時計などには、大きく完成度の高い懐中時計のムーブメントを使用するのが、時計業界での常套手段であったのだ。

 結果、「ポルトギーゼ」はケース径42mmという、当時としては異例に大きな時計となった。これが大型ケースの理由。「ポルトギーゼ」の大型ケースは高精度の証しなのだ。

 しかも「ポルトギーゼ」がユニークなのは、懐中時計用ムーブメントを搭載した高精度時計でありながら、明らかに軍用時計とは異なる作法で作られたこと。あるいは、ポルトガル人商人の注文が最初からそうであったのかもしれないのだが。とにかく、軍用時計のようにただ高精度なだけではなく、市販化され民間で使われるモデルとして作られたようなのだ。

 というのも、IWCは「ポルトギーゼ」とほぼ同時期に、ドイツ空軍のための「ビッグ・パイロット・ウォッチ」を、やはり懐中時計用ムーブメントの搭載により開発している。ところが「ビッグ・パイロット・ウォッチ」のケース径55mmに比べ、「ポルトギーゼ」の42mmはずいぶんと小さい。ケース厚もずいぶんと薄くされている。その理由は「ビッグ・パイロット・ウォッチ」が当時のIWCのムーブメントで最も高精度のキャリバー52系を搭載したのに対し、「ポルトギーゼ」はより小型で薄いキャリバー74系を搭載したからだ。つまり「ポルトギーゼ」は意図して小さく薄く作られた、ある意味、ドレスモデルであったのだ。

 かくして完成、納品されたのが1939年。その数年後に「ポルトギーゼ」という名前が与えられ、果たして市販化が実現する。

ポルトギーゼ Ref.325

ポルトギーゼ Ref.325
1944年以降、58年まで製造されたポルトギーゼの第2世代。当時最新の高性能な懐中時計用ムーブメントCal.98を搭載することで、マリンクロノメーター級の精度を実現した。生産本数は第1世代よりも少なく、最大282本から最小209本とされている。この個体は、1950年にポルトガル・リスボンの時計店「ロドリゲス・エ・ゴンサウヴェス」で販売されたものである。下の写真がその保証書。手巻き(Cal.98)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径42mm、全長49mm)。1950年製。個人所蔵。

 ただし「ポルトギーゼ」は、さほど売れなかったようだ。1930~40年代にケース径42mmというのは、やはりあまりにも大きすぎたのだろう。しかしIWCの創業125周年を記念して1993年に復活。ここで「ポルトギーゼ」の真価がようやく発見されることになる。大型ケースを利した高精度や視認性の良さと、ドレスウォッチとして着用できる薄さやクラシカルなデザインの融合が、時計史に残る名作であることに世界中が気付いたのだ。

ポルトギーゼ・ジュビリー

ポルトギーゼ・ジュビリー Ref.5441-05
IWCの創業125周年を記念して1993年から96年まで製作されたモデル。ムーブメントに記念の装飾が施され、それを見せるためにシースルーバック化された以外は、オリジナルモデルをほぼ忠実に再現している。生産本数はSSが1000本、18KRGと18KWGが合せて500本、Ptが250本。手巻き(Cal.9828)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径42.3mm、全長51mm)。個人所蔵。

 さて、「ポルトギーゼ」という名前が、そもそものポルトガル人商人に由来しているのは、言うまでもないだろう。そして、そこにはヴァスコ・ダ・ガマやフェルディナンド・マゼランなどの大航海時代の偉大な英雄たちの末裔がこの時計を注文したのだという、そんなお伽噺のような物語をIWCが愉しんでいる姿が見え隠れする。また、そんな彼らの要望に応え、高精度の時計を作り上げたIWCの誇りを感じることもできる。

 だから「ポルトギーゼ」というのは、そんなふうに深みを持った、とても良い名前だと思う。少なくとも「パイロット・ウォッチ」「インヂュニア」「アクアタイマー」「ダ・ヴィンチ」「ポートフィノ」といったIWCのほかのモデルのなかで随一。IWCの付けた名前の最高傑作だと思うのだ。

ポルトギーゼ・オートマティック

ポルトギーゼ・オートマティック Ref.IW500705
自動巻きムーブメントCal.52010を搭載する現行モデル。かつての毎秒5振動から毎秒8振動のハイビートムーブメントに更新され、さらにダブルバレルを採用することで、高い等時性を備える。初期モデルのテイストを残しながら、現代風にアレンジされた。自動巻き(Cal.52010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径42.3mm)。3気圧防水。145万円(税別)。


福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。

Contact info: IWC Tel.0120-05-1868