パテック フィリップの魅力。その特徴や要チェックモデルを紹介

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2021.06.17

パテック フィリップは、独立系のマニュファクチュールとしてスイス時計産業界の1角をしめる最重要ブランドである。175年間に渡って業界をリードし続ける、高級時計の伝統と革新を重ね続ける時計メゾンの魅力を探ってみよう。


パテック フィリップとは

最高級時計メゾンとして名高いパテック フィリップだが、時計愛好者やコレクターでなければその真価を知るチャンスは少ないかもしれない。

同社の過去のモデルはオークションで億単位の値が付くことも珍しいことではないが、当然ながらそれに見合う価値があるのだ。パテック フィリップの本質に近付くために、まずはメゾンの歴史を紹介しよう。

いわゆる”世界3大時計メーカー”の偉大なる一角

1839年創業の『パテック フィリップ』は、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲとともに世界3大時計メーカーに数えられる時計メゾンである。

その時計のすべては、考えうる多くの工程を熟練職人の手作業で行い、世界最高水準の品質保証基準を満たす。

また、最高峰のコンプリケーションを製作するブランドとしても著名である。

1989年に発表された『キャリバー89』は、1728のパーツと33の複雑機構で構成されたグランド・コンプリケーションの極致だ。

パテック フィリップの時計は、オークションに出展されれば数千万あるいは億単位の値で取引されることも稀ではない。

1989年に発表された「キャリバー89 (la Calibre 89)」。直径9㎝、厚み4㎝、総重量1.1㎏。歯車や軸、ピン、ねじ、ゼンマイなど、合計1728のパーツで構成される。33もの機構を搭載する複雑懐中時計である。

その成立は亡命将校と時計師の出会いから

アントワーヌ・ノルベール・パテック

パテック フィリップの創業者であるアントワーヌ・ノルベール・パテック(左/1812-1877)とジャン-アンドリアン・フィリップ(1815-1894)。

1839年、ポーランド人の亡命将校アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックと時計師フランソワ・チャペックは『パテック チャペック社』を設立した。

パテック チャペック社は年間200個もの懐中時計を製作していたが、創業から6年後にチャペックが退社することになる。一方この頃年間150個もの懐中時計を製作していたのが、フランス人時計師ジャン・アドリアン・フィリップだ。

フィリップは1842年に、リュウズによる巻き上げ・時刻合わせの機構を考案した人物でもある。パリの博覧会場でパテックとめぐりあっており、意気投合したのである。

そんな経緯からチャペック退社後の1845年、フィリップは「パテック社」の共同経営者となり、1851年に"世界最高の時計をつくる"ことを社是とした会社を設立。社名を『パテック フィリップ』と改めたのだ。

創業当時と現在の社屋。創業当時からマニュファクチュールという言葉が掲げられている。

ティファニーとのパートナーシップ

パテック フィリップは175年に及ぶ歴史のなかで、宝飾メゾンに時計を納品することもたびたび行ってきた。なかでも、1837年にアメリカで創業した『ティファニー』との関係は特別だ。

1851年から関係の続くティファニーは、パテック フィリップとのWネームが許可された唯一の宝飾メゾンである。2001年には、パートナーシップ150周年記念の限定モデル『T150ティファニー 5150』が発売されている。

またパテック フィリップが複雑時計を語るうえで外すことのできない人物がアメリカの銀行家ヘンリー・グレーブス・ジュニア。彼は1933年、ティファニーを通じて「最も高度で複雑な時計」をオーダーしたことで、超ド級の複雑懐中時計「グレーブス ウォッチ」が誕生する。

グレーブス ウォッチはオークションに登場するたび最高値が更新され、2014年には24億円を超える値で落札された。

ヘンリー・グレーブス・ジュニア

ヘンリー・グレーブス・ジュニア(1868-1953)が贔屓にしていたティファニーを通して注文した懐中時計。24もの複雑機構が組み込まれ、現在は「グレーブス・ウォッチ」と呼ばれている。2014年、サザビーズのオークションにて約24億円で落札。


パテック フィリップの特徴

パテック フィリップは、オークションに出品される自社製品をいかに古いモデルであろうと自社で買い戻している。

これは、パテック フィリップの地位を維持するだけでなく、時計の所有者に対して確実かつ正当な資産価値を保証することを意図している。

完成されたタイムピースは時計として機能・性能を維持しながら、世代を超えて受け継がれていく。これこそ同社の時計であることの重要な一面だ。

掲げられた10の価値

パテック フィリップは、世界トップクラスの時計メゾンとしての地位を築いているが、さらに「世界最高の時計をつくる」ことを目指して進化を止めることはない。

ゆえに創業以来優れたタイムピースを生み出してきたわけだが、この圧倒的な優位性は、パテック フィリップが掲げる「10の価値」に体現されている。

それが「独立」「伝統」「革新」「品質と精緻な仕上がり」「希少性」「付加価値」「美」「サービス」「思い入れ」「継承」である。この10の価値こそがパテック フィリップの創業以来の使命であり、同社はこれを将来も継承していくと約束しているのだ。

この価値観から創出されるパテック フィリップの時計は、一時的な流行に左右されない、クラシックかつエレガントな美的感性を備えているといえよう。

時間を超越した普遍的デザインのタイムピースは、将来への渡って模範であり規範とされていく。これが、パテック フィリップの『美』である。

あるいは、世代を越えて受け継ぐ確実な資産として、また思い出を繋いでいくものとして、比類なき「付加価値」を持つ。

完全マニュファクチュール

パテック フィリップは、ジュネーブ高級時計製作の伝統を守る、独立したマニュファクチュールである。

スイス時計産業界のブランドの多くは、「LVMH」「スウォッチ グループ」や「リシュモン」といったコングロマリット(複合企業)の傘下にある。これは、20世紀における世界大恐慌やクォーツショック、リーマンショックなどを乗り越えるための一大戦略であった。

この状況下でもパテック フィリップは一貫して独立経営を守り続け、現在ではジュネーブ唯一の独立した家族経営のマニュファクチュールとなっている。

家族経営と聞くとスモールビジネスと思われがちだが、それは間違いだ。

パテック フィリップは伝統から100以上の特許技術を創出しており、時計製作技術のパイオニアとしての「革新」を止めることはない。

また卓越した技術で作られるモデルは200を超える。それぞれが十数本から数百本しか生産されない「希少性」の高い時計でもあるのだ。

フィリップ・スターン

1932年以来、パテック フィリップはスターン家により経営される。左は名誉会長のフィリップ・スターン氏、右は息子で社長のティエリー・スターン氏。

手作業による精緻さを追求

2009年に導入されたパテック フィリップ・シール。その基準は業界基準をはるかに超える厳格なものとなっている。また、その基準の適用する対象は時計に留まらず、販売員、時計師、カスタマーサービスのスタッフにまで至っている。

パテック フィリップのすべての時計は、最高級スイス時計の証しとしてかつては"ジュネーブ・シール"を取得していた。

これは非常に厳格な品質基準を満たすことで得られるウォッチメーカーにとってひとつの栄誉であるが、パテック フィリップはこれを上回る品質基準として"パテック フィリップ・シール"を設定。これを自らの製品のあらゆる部品に課しているのだ。

パテック フィリップは、製作から仕上げまでの数百あるいは千を超える工程をすべて熟練職人の手作業で行い、『品質と精緻な仕上がり』を保証する。

その時計を手にする者に、特別な「思い入れ」が生まれるだろうことは想像に難くない。大切な資産を安心して「継承」するためにも、パテック フィリップ・シールには購入後の「サービス」にも認定基準が設けられているのだ。