自動巻きは片方向巻き上げ・両方向巻き上げどっちがいいの? メリット・デメリットを含めて解説

FEATUREぜんまい知恵袋
2023.04.14

自動巻きの巻き上げ方式「片方向巻き上げ」と「両方向巻き上げ」

 ここからが今回のテーマの本題だ。 自動巻きには2種類が存在し、ローターの左右回転でゼンマイを巻き上げる「両方向巻き上げ」、左右どちらか1方向の回転でゼンマイを巻き上げる「片方向巻き上げ」である。

 両者どちらが優れているかは、ムーブメントを設計している技術者やブランド、そしてユーザーのライフスタイルによっても見解が分かれてくる部分だ。

 その中でも、一般にあまり腕を動かさないデスクワークに向くのは片方向自動巻き、歩いて腕を多く振る人に向くのは両方向自動巻きという意見が多い。また、パテック フィリップやオーデマ ピゲなどの高級機は、ローターを重くして巻き上げを良くするため、外周にゴールド素材を用いている。

片方向巻き上げのメリット・デメリット

○ 自動巻き機構をシンプルにできるため、故障が起きにくい。ローターの空転による反動を使ってゼンマイを巻き上げるため、デスクワークのように腕を動かさない場合の巻き上げ効率が高い。
× ローターが空回りする際のショックが大きい。

 「片方向巻き上げ」は、呼び名の通り時計方向、もしくは反時計方向どちらかに回転した時のみ主ゼンマイを巻き上げるというもの。設計自体は古いが、比較的簡素な設計を持ち慣性と部品同士の抵抗が小さいため、少ない動きでもきちんと巻上げを行う。

  また近年では、男性と比べて運動量が少ないとされる女性に向けた小さなムーブメントへの採用例も増えている。

ノーチラス Ref.5712/1A

パテック フィリップの240系はセンターローターと比べ巻き上げ効率の劣るマイクロローターを採用するが、巻き上げ効率のいい片巻き上げ式とすることでそのウィークポイントを補っている。また、マイクロローターはフルローターほど慣性がかからないため、片巻き上げ式にしても空回り時のショックが小さい点も見逃せない。写真ノーチラス Ref.5712/1Aが搭載するCal.240 PS IRM C LU。Photograh by Masanori Yoshie

両方向巻き上げのメリット・デメリット

○ ローターが空回りしないため、腕に伝わるショックが小さい。腕を大きく振った際、主ゼンマイがよく巻き上がる。
× 自動巻き機構が摩耗しやすい。また上手く設計しないと主ゼンマイが巻き上がりにくいことがある。

 現行モデルではほとんどのモデルで採用されている両方向巻き上げ方式。その名の通りローターがどちらの方向に回転した場合でも主ゼンマイが巻き上がる。特に、腕を大きく振った際、主ゼンマイがよく巻き上がることが特徴でありメリットである。

 片方向巻き上げと違い、空回りしないため腕に伝わるショックは小さいが、巻き上がげ効率の良さは設計次第である。なお、両方向巻き上げは、リバーサー式、スイッチングロッカー式、ラチェット式の3種類に分けられる。

 リバーサー式は最も広く普及している方式で、ETAなど汎用機に採用されている。大量生産に向く上、設計がしっかししていれば巻き上げ効率も十分だ。ただ経年劣化で巻き上げが悪くなりやすく、特に汎用の場合は修理の度に切り替え車を交換する必要性がある。

ロレックス

 リバーサー式の自動巻き機構を成熟させたロレックス。実用性に優れるだけでなく、メンテナンス性においても高く評価されている。

 続いてスイッチングロッカー式は、古い高級ムーブメントが好んで採用した歴史がある方式。シンプルなため摩耗しにくく、機構自体を小さくできるというメリットがあるが、ローターが重くないとゼンマイが巻き上がりにくい。現行ではブルガリやノモスが代表的だ。

ブルガリ

現在採用されることの少ないスイッチングロッカー式だが、ブルガリのキャリバー191、通称ソロテンポはこの方式を使えるものとして完成させた。ふたつの切り替え車が露出していることも特徴的だ。

 そしてラチェット式は、爪でゼンマイを巻き上げる自動巻き機構。IWCの「ペラトン式」や、セイコーの「マジックレバー式」など、ブランド独自で開発されたものがこれにあたる。特徴としては、歯車ではなく爪でラチェット車の刃先に引っかけて(あるいは押して)ゼンマイを巻き上げるため、機構としての抵抗は小さくなる。そのため理論上の巻き上げ効率は高い。

マジックレバー

セイコーが開発した自動巻き機構がマジックレバー式だ。安価なセイコー 5からグランドセイコー等の高級機にも広く採用されている。写真はスプリングドライブの新型キャリバー9RA2。この機構をオフセットさせることで厚みという弱点を克服している。

 これらの事により、一概にどの方式が良いと断言するのは難しく、時計の種類や着用環境によって適したものを選ぶことが重要だ。


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